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ハツコイ  作者:
7/7

サイカイ

ぐらぐら揺れる視界に、確かに移る。


茶色い髪。

優しい目。

広い肩。

大きな手。


間違えない。

間違える分けない。

見間違えたりしない。

一夜だけの、たった一時のあの瞬間が、

わたしを毎夜悩ませるほど、

わたしには…

キラキラと焼きついてる。



そっとまぶたを閉じると、

あふれた涙が、ぱちん、とローファーを打った。

同時に。

彼がふと、私に向いた。



目が合った。




「……………………」

「……………………」



私の視界に映る彼の目は、

みるみる内に見開く。

彼は突然、何かに弾かれる様に、ばっと立ち上がった。

立ち上がったその背の高い、細い身体。


絶対にそう。

そこにいるのは、紛れも無く、

”拓哉くん”。






「ゆ、夕貴…ちゃん」


懐かしく通る声に、心が包まれる思いがした。

あたたかい声。



両手で涙をぬぐって、頭をふった。

何泣いてんだか、恥ずかしい…。



「覚えてるの?わたしの事」

「うん、もちろん。そっちは…」

「覚えてるよ。拓哉くんだよね」

「あはは…うん。覚えててくれたんだね…」



しばらく沈黙になる。

だって、何を話せば良いのかわかんないよ。

久しぶりだけど、それだけだし。

接点とか無いんだし…。




「…………………」

「……ねぇ」

「…え?」

「夕貴ちゃん、もしやアイス買った??」

「???…うん、買ったけど…」

「袋からたれるその雫の量から見て、完全に溶けてるよ」

「え?!あーーーっ!!」

ぎょっとして、地面に落ちた袋を見ると、そこには見るも無残な光景があった。

コンクリートが水で色を変えていた。

慌てて袋を拾って、中を覗いて……心底愕然としてしまった。

……大ショック!凄い楽しみにしてたのに…。


「夕貴ちゃんて案外抜けてんだなぁ」

カラカラと笑う彼が、憎らしい。

誰のせいだよ、誰の!


「いいね、そうゆうの」

「何が?」

「この前は泣いてるところしか見れなかったから」

「………」

何だか、一瞬どきっとした。

あの夜は、相当自分にとって、特別みたいだ……。


「おいでよ。一緒にコンビ二行こう」

「え…もういいよ。諦める」

「いいから、いいから。行こう」

そう言うと、彼はてくてくと先を歩き出した。

どうしようか困って、慌てて自分もついていった。




5分後。

二人でコンビ二の前で、アイスバーをかじっていた。

買ってもらった。アイス。

また奢ってもらっちゃったよ…。


「ごちそうさま。ごめんね…なんか」

「んー。ごめんね、よりも、"ありがとう"のが嬉しいかなぁ」

「あ、うん…。ありがと」

何も言わずに笑った彼の顔に、しばらく視線を取られる。



「夕貴ちゃんは、どうして公園に来たの?」

「あの公園ね、小さい頃から大好きなの。緑のベンチが特に」

「マジ?おんなじ!!」

「本当?」

「俺もあの場所好きなんだよね。なんか安らぐってゆーか…

 自分の気持ちを、軽くしてくれそうな気がすんだよ」

気持ち分かる…わたしも同じこと考えた。

だからあの公園に行ったから…。


「……拓哉くん、何か悩みでもあるの?」

「ん?どうして?」

「あ、ううん。何でもない、ごめんね…」



アイスをかじった。

ふと見た彼の表情で、なんだか伝わってしまった気がした。

何か、悩みを抱えてるんだってこと…。




「俺、そろそろ行かなくちゃ」

「え…」

「智輝んとこ行かなくちゃなんねーんだ。覚えてる?智輝」

「うん。幼馴染でしょ?あの金髪の…」

「そうそう!これからアイツん家にCD借りに行くんだ」

「そっか。あ、アイス本当にごちそうさま」

「うん、いいよ」


拓哉くんは、最後の一口を口に入れて、

棒を捨てた。



わたしはそれを見ていた。

…見ていた。

……見ているしかなくて、固まっていた。


神様。

これは……これはチャンスですか?

って、聞くまでも無いこと。

何も言えないで終わるの?

何も出来ないで終わるの?


今度こそもう、


二度と会えないかもしれないんだよ――?


「それじゃあね」

「う、うん、……ば、ばいばい………」



彼は背を向けた。


「…………………」


歩き出してしまった。


「………………………」


どんどん、どんどん、

離れていく。

行ってしまう。行ってしまう――…!!







「――あのさ!!」




彼が、ずっと向こうで、立ち止まった。


まさか。

わたしの方に、戻ってくる…。




「あ、あのさ……」

「うん……」


やけに胸が高鳴る。


「あのさ……水族館、スキ?」

「水族館?」

「行かない?一緒に」

「…………………」





わたしは首を縦に振っていた。

アドレスを、交換した。

木の葉二丁目公園、ありがとう…。















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