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ハツコイ  作者:
3/7

出会い



どれぐらい歩いただろう…。


いつの間にか、さっき咲波と待ち合わせをした、

神社の入り口付近まで戻ってきた。



……さっきから、巾着の中でケータイが震えっぱなし。

咲波が心配してかけてくれてるのが分かる。


でも、ごめんね。

今はどうしても出られないよ……。



さっきの光景を、

思い出すと涙が溢れる。


怖いぐらいに目からぼろぼろ大粒が溢れて、

頬を伝い、顎に溜まって、

自分の足に、雫がパタパタと落ちては弾けてく。


苦しくて、苦しくて、どうしたら良いのか……。





トントン……。



わたしは驚いて振り向いた。

誰かに後ろから肩をたたかれた。


だ、だれ…


全然知らない男の子が目の前に立っていた。


男の子はイキナリはっとした顔して、

今度はたじろぎ始めた。


「あっ!!ぃ、いきなりごめん!!」

「????」

「あの、な、泣いてたから…」

「…???」

「すっごぃ泣いてるから、……」

「………………」

「だ、大丈夫?なんかあったん?って、俺なんかキモいよね、ごめんね!

 で、でも別にナンパとかじゃないんだよ?あ、あの…」

わたしはぐらぐら揺れだした視界の中で、

必死で首を振った。


何、この人……。

そう思った途端、目がすっごい熱くなって、

驚いて止まったはずの涙が、一気にあふれ出てきた。






わたしたちは屋台の列から外れた、

少し静かな場所でベンチを見つけて座った。


先に口を開いたのは、彼の方。


「少しは落ち着けた?」

「…………うん」

「ごめんね、俺がビックリさせちゃったから」

「…ち、違うよ!」


わたしの反応に少し驚いて、

男の子はくすっと笑って見せた。

「良かった。話せそうだね」

「うん、もう大丈夫…ありがとう」


なんか、本当に少し落ち着いた気がする。


不思議。


第一印象は、チャラチャラした

お調子者タイプなのかなって思ったけど…

見た目もなんか派手だし…。

金色っぽい茶髪に、肩耳だけでピアスが3つも。

でも、男の子の癖にまつ毛が長くて綺麗。

見た目こんな人なのに、

今は、ビックリするほど落ち着いた空気を持ってる。




「”ゆうき”って言うの?名前」


相手の声にはっとした。…ぼーっとしてたみたい。


「う、うん。……何で名前??」

「巾着に刺繍が入ってる」

 

あ、そっか…驚いた。


「俺は智輝ってゆーんだ。近所に住む高校1年生!」

「えっ、おんなじ!わたしも近所に住む高校1年生!」

「マジで?」

二人して笑った。



それからわたしは、

泣いている理由を智輝くんに話した。

ともくんは、ただ黙ってわたしの話を聞いてくれた。



咲波は中学で一番初めに出来た

大事な友達だとゆう事。


中二で雪斗くんを好きになった事。


咲波の気持ちに気が付き始めた…

中三の夏…。


優しく変わらない咲波の態度に、

わたしも気付かないフリをしてきた事…。


雪斗くんの気持ちに気が付き始めた…

高校入学目前。


そして今日。

わたしは、咲波をずっと苦しめてきた事を

目の当たりにした。

咲波だけじゃない。

雪斗くんの事も、わたしはきっと苦しめてる。


それが、自分の失恋よりも、耐えられないって事……。




「そっか……」


ともくんはそれだけ言って、

しばらく黙った。


少しして、ゆっくり口を開いて、話始めた。



「俺もね、大事な幼馴染を困らせてるんだよね……」

「幼馴染?」

智輝くんは黙って頷いた。


「そいつと俺、同じ高校なんだけどさ。

 高校入って、アイツのクラスにめっちゃ可愛い子がいたんよ」

「うん」

「それで、アイツ繋がりで俺もまんまと仲良くなれたワケ」

「うん」

「男子に凄い人気あるんだよ。性格明るし、顔は可愛いし、

 スタイルも良い!」

「……はいはい」

「だからさ、……好きにだけはなりたくなかったんだよね…」

「……………」

「でもな、止められなかったんだ、気持ちが!」

ともくんはケラケラって笑って見せた。

その笑顔に、思わず胸がちくんてした。


「……あの子が泣いてるところを見ちゃったんだよ。

 たまたま見つけちゃって……ほっとけなくて。

 彼女も出来たこともないくせにさ、”俺が守らなきゃ”とか思っちゃって」

「うん……」

「……その時、そばに寄り添ったとき、……好きだと思った」

「…………」


わたしが頷いた時、ともくんは両手で顔を覆った。



それからゆっくり、重い口を開いた。


「その泣いてる理由が……アイツの事だった…」

「アイツ?」

「………俺の大事な幼馴染」

「…………え…」

「好きだと気付いた瞬間に、彼女が見ている相手が俺じゃない事を知った。

 ……それから俺は、あの子と幼馴染を、意図的にくっつけようとばっかりしてる。

 毎日、毎日……そればっかり。

 今日だって、アイツを呼び出して、あの子を連れてきて。

 二人で祭りに行かせた。アイツの迷惑がってる顔も気が付かないフリして……」

「………………」



お互い、押し黙ったまま、何も言えなかった。




やらなきゃならない事がある事、……知ってる。

二人とも、ここで座ってるだけじゃいけないって事。


座ってるだけじゃ……





「あ……拓哉!」



……たくや?




わたしは顔を上げてともくんを見た。

ともくんは遠いところを見ていた。

その視線を追って、わたしも目を向けた。


一人の、背の高い男の子が、こっちに向かって歩いてくる。

”たくや”と呼ばれた男の子は、まっすぐ、このベンチを目指して

進んでくる。


何故か。

わたしはその様子を、

まるでスローモーションでも見てるかの様に感じて、

ただただ、ぼんやりと眺めてた。



「とも!!てめー、どんだけ探させれば気が済むと思ってんだよ!!」


とっても大きな声。

そう叫びながらたくやって人は、

さっさとわたし達の目の前までやってきた。

かと思うといきなり、ともくんの頭を一発バシン、と叩いた。

「いってー!!」

「お前、ケータイなんで繋がんねーんだよ!」

「え、ケータイ??…あ、今日持って来るの忘れたっぽい!」

「おいおいおいおい……」

「ち、違う!!これはマジ!本当に素で忘れた!!」

「……おいおい……ま、いいけどさぁ……ん?」



…あ……。


最後の言葉と一緒に、男の子の視線がわたしに向いた。

呆然と二人のやりとりを見てたわたしと、いきなり目が合ってしまった。



「………………」

「………………」



その人を見たとき。


わたしはその”瞳”に驚いた。


凄く綺麗で。凄く優しい。


深くてまだらな茶髪はさらさらしてて、

肩耳にだけピアスが開いてる。

よく日焼けした肌が男の子らしいと思った。

第一印象…。


「――あ、夕貴ちゃん。コイツが俺の幼馴染の拓哉だよ」

「…へー………。――…っ!?」


「そんで拓哉、この子は迷える子羊の夕貴チャン!」


ともくんはめっちゃ笑顔で、とっても明るく、わたし達を紹介した。


でも。待って。

え……この人が…あの……。


「迷える子羊ってなんだよ」


拓哉くんが突然、カラカラと笑った。

あ……笑うと可愛いんだ。



「……拓哉。あ、亜由古は?」


ともくんがいきなり真剣な声で

言うから、ちょっとびっくりした。


……亜由古?……あ、もしかして…。


「お前が全然見つからなくて、疲れて向こうで休んで待ってるよ。

 浴衣なんだから、歩き回ったら大変だろーが」

「あ…。でも、探さなくて良かったのに…」

ともくんがそう言った時、

拓哉くんがパチン、って彼にでこピンをした。

「馬鹿。俺たちは三人で祭りに来たんだろ?」

「…………まぁ…」

「亜由古に悪いと思ったら、罰としてお前迎えに行って来い! 

 俺は疲れたからここで座って待ってる!さぁ行け!!」

「で……でも…」

「亜由古は可愛いから、モタモタしてると変なナンパに……」

拓哉くんがここまで言った時には、

ともくんはもう走り出していた。



「まったく……」


そう言って、拓哉くんがわたしの隣に腰をおろした。

わたしは、人ごみの中に消えていく

ともくんの後ろ姿を見てた。


亜由古ちゃんの事が、本当に大切なんだなって思った。




「さて」


気が付くと、拓哉くんがわたしを見てた。

優しい笑顔。

心臓が、パキン…と鳴った。



「……???」


「行こうか」

「?」

「さぁ、立って立って!」

促されて、わたしは慌てて腰を上げた。

「……なに?」

「俺と一緒にお祭り回ろう。チョコバナナぐらいなら、買ってあげられるよ」

そう言って、またくしゃって笑う。


「お、お祭りって…だって……」

拓哉くんはケータイの電源を切った。

それをポケットに戻すと、

まっすぐにわたしを見る。

そしたら……ほら、また笑う…。


「これで邪魔も入らない。――行こう」



拓哉くんに手首を掴まれて、

わたし達はまた人の海の中に飛び込む。


熱くて、明るくて、優しい。

光と音と、賑わいの中に……。





ねぇ。



この時は気が付かなかったんだよ。



わたしの手を引く大きな手。

しっかりした腕。肩。背中。


わたしをどんな気持ちにさせてたか、

まるで知らんぷりの笑顔。


悔しいぐらいの憎らしさが、

わたしの裂かれた心を暖かく埋めたこと。






オワッタ夜に、ハジマリがやって来たこと……。











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