夜祭(拓哉の夜)
今日は夏祭りがあるそうだ。
でも、俺はあんまり行く気なんてない。
部屋でゴロゴロしてると、やっぱり鳴った…ケータイが。
そしてやっぱり予想的中。
友達とゆーか、幼馴染の智輝からだった。
智輝と5時半に神社の入り口で待ち合わせた。
こうして毎年毎年、祭りに連れ出されるのは恒例だった。
神社の石段に座ってうちわをパタパタしてると、
聞きなれた声が俺を呼んだ。
「拓哉ーー!遅くなってごめんちゃー!」
見慣れた自転車で、人を避けながら智輝が迫ってくる。
……ん?
「あー…あぁ、また余計なことを…」
智輝と一緒に視界に移ったものに、
思わずテンションがガタ落ちした。
だから行きたくなかったんだよなぁ……今年の祭。
智輝が俺の目の前に自転車を止めた。
「やぁ、やぁ、遅くなってごめん!」
「あぁ」
俺はぶっきら棒に答えた。
「こんばんわ、拓哉くん!」
「……………」
智輝の自転車の後ろから、浴衣を来た女の子が飛び降りた。
明るい茶髪を結い上げて、深い紺色の浴衣が、派手めな彼女の顔立ちに
とてもよく合っていると思う。
俺を見てやけににっこりしてる。
…分かりやす過ぎだっての。
「亜由古、智輝に誘われたんか?」
「うーん、まぁそんなとこ」
「へー……」
俺は思いっきり智輝を睨んだけど、まんまと気付かないフリされた。
「行こうよ、わたし水あめ食べたい!」
「お、おい、引っ張んなよ」
亜由子が思いっきり俺の腕をつかんで引っ張った。
ちらっと後ろを見ると、人ごみの中で、
ただ立ったまま、智輝が笑って俺たちを見てた。
ついてこない気だ……。
物凄く胸が痛くなった。
息を呑んだ。…だから、嫌だったんだ。
あんまり水あめを欲しがるから、
亜由子に一本買ってやった。
ひと気のない静かな石段に腰を下ろして、
二人で食べた。
亜由古とは、今年入学した風波高校で同じクラスになった。
入学当初から、顔立ちの明るさと、性格の活発さで男子から結構人気がある。
俺だって、可愛いと思った一人。
席が近くになった頃から仲良くなって、
いつの間にか、俺といつも一緒にいる智輝とも友達になったらしい。
智輝は何も言わないけど、俺はすぐに分かった。
智輝が亜由古に惚れた事。
……そして、智輝が俺に、その心を打ち明けない理由も、知ってる。
亜由子はきっと、俺の事が好きなんだって事。
智輝は俺が色々気が付いてること、きっと何にも知らない。
でも、亜由古が俺を好きなことは多分知ってる。
今日のことだって含めて、
アイツは俺と亜由古をやたらくっつけようとするんだ。
「拓哉くん?」
「……ん?あ、わりぃ…」
「ぼーっとしてるけど、大丈夫??」
亜由古がくすくす笑った。
「………………」
「え………。…な、…なに?」
亜由子が俺の顔を、いきなり真剣をして顔で覗き込んできた。
「………………」
あんまりじっと見てくるから、
照れるやら、気まずいやら、変な空気が流れる。
「あゆ、なんだよ」
「………………」
次の瞬間、
亜由古の顔が迫ってきて、俺は目を見開いた。
「亜由古!」
亜由古の肩をつかんで叫ぶと、
はっとした様に俺を見てきた。
「たく、どうして…?」
「な、何が?」
「…………ううん、なんでもない」
あゆはそう言って、顔を伏せた。
キスされんのかと思った。
まだ心臓がばくばくしてる。
あの瞬間、よぎったのは智輝の姿だった。
「…………」
ため息しか出ない。
友達に遠慮してんなんて、ほんとダセーな…。
「なぁ、あゆ、智輝探しに行こーぜ」
「……そうだね」
俺たちはまた、屋台の並ぶ人の波の中に戻った。
本当は気付いてる。
俺の煮え切らない態度が、智輝と亜由子を苦しめてる事。
付き合えないなら、振ってやればいいのに。
それも出来ないのは、やっぱり俺も、亜由古が好きだからかもしれない。
智輝の顔が、見れなくなるのが、怖いのかも知れない……。