35歳のコンビニ店員
真美が店に来なくなってからひと月が過ぎた。数日はオーナーも様子をみていたが、一週間後には真美は首になっていた。抜けた穴はオーナーの系列店から人が手伝いに来てなんとか回していた。俺はいつものように帰り支度をすませ、店から出る。
「ああ~勇二さんだ〜」
俺は忘れることなど出来ない声がしたほうに目線を向けると、真美が金髪の若い男と腕を組んで立っていた。金髪の男は真美をデートに誘っていたあの男だ。どうしてコイツといるんだ?心臓の動悸が早くなる。
「…」
俺が黙っていると真美が俺が聞きたくなかった言葉を口にした。
「あたし〜朝帰りなの〜」
「…そうか」
「昨日は彼の家に泊まってあたしの家まで送ってもらうところ〜」
「…そうか」
「じゃあ〜帰るね〜行こう〜」
真美が金髪の男と腕を組んだまま、自分の家のほうに歩いて行く。二人で帰ったあの道を違う男と歩いて行くのを見送りながら、俺は泣くこともできないでいた。
それから半年後、俺はオーナーから真美が亡くなったと聞かされた。末期癌だったそうだ。葬式に参列した俺は金髪の男を探したがどこにもいなかった。癌と聞いて別れたのだろうと勝手に思っていた。
真美が亡くなってから五年が過ぎた。俺はいまでも同じコンビニで働いている。真美がいた思い出のコンビニを辞めることはできなかった。
今日は真美の命日だ。墓の前で手を合わせ、他愛もない近況を墓に眠る真美に伝えた。一通り話し終えて立ち上がったところに真美のお母さんが立っていた。
「いつもありがとうね、この五年で来てくれるのはあなただけになってしまったわ」
「いえ、おきになさらず彼女にはお世話になりましたので」
そう挨拶をすませ立ち去ろうとする俺に真美のお母さんが携帯を差し出してきた。
「これは?」
そう聞いたがその携帯か真美の物であるのは俺には一目瞭然だった。
「…もし五年経ってもあなたが真美のことを思っていたら渡すように真美に頼まれていました」
俺はお母さんから携帯を受け取り、その場をあとにした。
家に帰り携帯に録画された動画を俺は再生した。
「ええーこの動画は勇二さんに見せる為に撮ったものではありません、自分の気持ちを残したくて撮りました。んーとまずこの黒髪でわかると思うんだけどわたしギャルじゃないです。フリをしてました、同級生の彼女に見つかりたくなくて、気づいてた?本当のわたしは黒髪の普通の女の子こっちのほうがたぶん勇二さんの好みだと思うけどごめんなさい、生きてる間に見せられなかったね。…なぜこの動画を撮ったかと言うと誤解を解きたくて、あの金髪の男の子は彼氏でもなんでもないです、あの日来てもらって彼氏のフリをしてもらいました。あの日が外を歩ける最後の日だったから、それと、傷つけてごめんなさい、勇二さんがわたしを忘れやすくなるかなって思って、あ、あとわたしは処女ですよ、本当は勇二さんに抱いて欲しかったけどもし、赤ちゃんができたら勇二さんの子供をあたしが殺してしまうことになるから、来世があるならそのときは抱いて下さい、あ、でも勇二さんはこのさき生きるからあと数十年後に亡くなったとしてもあたし達が来世で会えてもあたしはおばさんだね……それでも……来世で会いたいな…………最後に………………あなたを愛しています……………………お母さん、五年経っても勇二さんがあたしのことを思ってくれていたらこの携帯渡してくれる?そうしたらたぶん勇二さんは……」
俺は携帯を抱きしめながら泣き崩れた。
ひと月後、俺は店を辞めてとある場所に来ていた。周りを見渡すとなにもなく真下には海が広がっていた。足元の石に真美の携帯を置く、あの日から一日も欠かさず真美の動画をリピート再生で聞いていた。
「五歳差か、いま会いに行くよ」
「…来世で会いたいな…」




