暇つぶし(紫藤辰也編・終)
「一回学校に戻るか」
「戻るのはいいけど、危ないから分身のままで僕らは隠れてよう」
青年が肩をすくめる。
「意識の一部をリンクさせれば、まずバレない。
君は普通に生活してるように見えるしね」
そうやって辰也は、自分がいつも宿としているホテルに身を潜めていた。
万一、分身だとバレてもいい。
すぐに能力を使い、辰也自身が分身に成り代わることができる。
一方で――
学校内では、分身が普段通りの生活を送っていた。
辰也の視界に、教室の光景が重なる。
分身がノートを取り、クラスメイトと会話している。
奇妙な二重感覚だった。
「やっぱりセコいなこれは」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
そこまで話したところで、辰也はふと頭を押さえた。
まだ、後遺症のような違和感が残っている。
それもそのはずだ。
この状況は――
数日前の出来事から始まっている。
柊会長に、祓いの矢で射抜かれた直後。
「いやー、危ない危ない」
意識が途切れかけた瞬間、内側から青年の声が響いた。
「意識ちょっと持っていかれちゃった。
かなり強い精霊の加護がついてるね、あの会長」
「アタマガガクガクスル……」
「そりゃそうだ。君の意識の中枢に直撃してるからね」
青年は軽く笑うが、辰也は震えていた。
目の焦点が合わず、分身とのリンクも途切れてしまった。
「しばらく安静にしておくことだね。
中級ぐらいの霊体なら、あの矢一本で消し飛ぶよ」
軽く肩を回しながら、青年は続けた。
「丁度、例の奴も釣れたみたいだし」
その言葉と同時に、外界の視界が開く。
分身の辰也が、帰り道を歩いていた。
そして――
足元の影が、静かに揺れた。
意識はすでに切り離されていた。分身側の感覚は、すでにない。
後は青年が影を斬るだけだった。
「コノ……ナリソコナイメ……」
「そのなり損ないに見事に負けた奴は誰だろうなあ? え?」
青年は足元の影を見下ろし、吐き捨てるように言った。
「グヌヌ……ムネン……」
影はそのまま霧のように崩れ、完全に消滅した。
「分身とはいえ、俺を斬ることに一切躊躇しなかったな」
「分身だしね」
青年はあっさりと言う。
「とりあえずこれで一件落着だな」
「いや、どうだろうね」
青年は学校の方を見上げた。
「こいつがいなくなっても、他にもいるってのか?」
「彼女のような存在がいるってことは間違いないね。
しかも君の高校の周囲――何故か空間が少し不安定だ」
「不安定?」
「召喚の影響か、元から裂け目があったのか……
変なのが寄って来やすい場所になってる」
「マジかよ……」
辰也はため息をついた。
「とりあえず契約は延長してくれ」
「僕は全然いいよ。暇つぶしになるし」
「しかし、あの生徒会長にバレないためにも
しばらくはおとなしく学生生活送りますか。
気は進まないけど」
「バレるのは時間の問題だと思うけどね」
翌朝。
全校集会。
「昨夜、この高校近辺で――」
教師の声が体育館に響く。
「猿の格好をした不審人物が暴れているとの事案が発生した」
ざわつく生徒たち。
「君達も受験生だ。塾などで夜間外出する機会も多いだろうが、
登下校時は十分注意するように」
「特に夜は、不要な外出を控えること」
話を半分聞き流しながら、辰也は心の中で呟いた。
「さっそく変なのが現れやがった」
『だね』
青年の声が返る。
『しかもこの生徒の中にいるみたいだよ』
「マジかよ……」
辰也は小さく笑った。
「とりあえず、どんな暴れ方をするか拝ませてもらうとするか?」
『暇つぶしにね』
紫藤辰也編はこの話で一区切りです。
この出来事は、西遊後記二部に続く……かもしれない?




