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なまいきさかり  作者: 小坂あと
第一章

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第9話「幸せの代償」









 頭が、クラクラする。


 体が、熱い。


 神楽と仲が悪くなって、学校でも家でも神楽がそばにいなくなってから、数日。


 生理が、終わらない。


 今にも倒れそうな世界の中で、懸命にフラフラと歩いていたら、


「一緒に帰らない?一ノ瀬さん」

「へっ…?」


 陸上部の男の子が、気さくな感じで声を掛けてくれた。


 滅多にない機会だからふたつ返事で頷いて、前触れもなく訪れた青春の予感に胸をときめかせた。


「……最近、妹さんと仲悪いの?」


 だけどすぐ、気分は落ちる。


 真っ先に妹の話題が出たってことは、目当ては神楽なのかな。そうなんだろうな。


 呼び出されたから出向いたら、私じゃなくて神楽宛てのラブレターを渡されたこともあれば、「代わりに伝えといてほしい」とお願いされたこともあるから、今回もそうだろうと。


 神楽が言うみたいに、私のことを好きになってくれる物好きなんていないのかな?だとしたら、かなしい。


 これも全部、妹が恵まれすぎているせいだ。まるで私の分まで、運も才能も全部吸い取っていったみたいに。


 ふてくされて、最近は仲が良くないことも相まって人生で初めて妹を恨んだ。


「俺で良ければ、話聞くよ」

「え…?」

「一ノ瀬さんが暗い顔してるの、嫌だからさ」

「え…」


 ま、まさかの。


 これは、私に興味があるパターン、なのでは?


 神楽にいつも言われてるみたいに、自意識過剰になってないかな。大丈夫かな。


「もしこれから帰るのひとりなら、俺と一緒に帰ろうよ。明日も、誘ってもいい?」

「そ、それは、もちろん。毎日、でも…」


 うれしい。


 帰って、自慢しちゃおうかな。


 お姉ちゃんにも、やっと春が来たかもしれないよって。優しい男の子とお話できたよって。


 神楽は、どんな顔をするのかな。


 拗ねるかな、喜ぶかな。それとも、怒るかな?


 なんだかんだ言ってあの子はお姉ちゃんのこと大好きだから、嫌がるかも。それでまた、仲が悪くなっちゃうかも。今度は、仲直りできないくらいの溝が生まれるかも。


 余計なことは、言わないでおこう。


 神楽には、内緒。


 そもそも言う必要ないもんね。


「一ノ瀬さんは、好きな食べ物は?」

「んー……甘いの」

「そうなんだ。俺も好き」

「ほ、ほんと?」

「うん。よかったら今度さ、その……カフェとか行って、甘いの食べる?オススメの店、あるんだ」

「っ…!い、行きたい」


 後ろめたいような、ワクワクするような密かな帰り道は何日か続いて、神楽に悟られることなくデートのお約束まで出来た。


 前日の夜は、どんな服を着ていこうか悩みすぎて眠れないくらい楽しみで。


 意気揚々と落ち着きを失くすほど、神楽に話したくなって、顔が見たくて、声が聞きたくて……さびしくて。


 何度、部屋の扉をノックしようとしたか分からない。


 向こう側にいるであろう妹の気配だけを感じて立ち尽くすこと、数分。


「……おやすみ」


 もう寝ているだろうと、静かに自室へ戻った。


 翌朝、たまたま起きる時間がかぶってリビングで会った時、ちょうど母親に聞かれたから、遠回しに聞いてもらいたくてデートの話をしたら、神楽は聞いてないフリをして体を硬直させていた。


 分かりやすく動揺した瞳は泳いでいて、涙は出ていなくても傷心しているとひと目で分かる表情が脳裏にこびりついて、


「……さん!一ノ瀬さん?」

「あっ……ご、ごめんなさい。なに?」

「さっきから、聞いてる?俺の話」


 あんなにも心躍らせて待ち望んでいたデートも、集中できなかった。


 始まりから終わりまで心ここにあらずな私に、優しかった男の子も次第に苛立っていて、その事にさえ気が付けないくらい頭の中は神楽の傷付いた顔でいっぱいで。


「俺さ、今日……ほんとは、告白しようと思ってたのに」


 帰る間際、家の近くまで送ってくれた彼が、悔しそうな声を出した。


「興味ないなら、はじめから来るなよ」


 ちがう。


 そんなつもりじゃなかったの。


 弁明さえ許してもらえないほど怒りに震えた男の子は、目元をこすりながら私を置いて走り去った。


 追うよりも、これで早く家に帰れると安堵してしまった私は、恋愛なんてする資格がないくらいひどい人間なのかもしれない。


「ただいま…」

「おかえり」


 肩を落として玄関を開けてすぐ、声が返ってきて息を止める。


「デート、どうだった?」


 待ち伏せていたことを悟らせない爽やかな笑顔で聞かれて、浅ましいプライドが咄嗟に口を開かせた。


「た、楽しかったよ」

「そっか。…よかったね」


 笑ってるのに、なんとなく威圧を感じるのは、気のせいじゃない。


 怖い気配を察知して、そそくさと横を通り過ぎようとしたら、強い力で腕を掴まれた。


 振り返れば、相手も首だけを動かして肩越しに目が合い、また笑う。上がっているのは口角だけで、瞳に色も光も無かった。


「わたしの部屋、行こ」

「ぁ……か、神楽?」

「来てくれるよね?お姉ちゃん」


 こういう時、ばかり。


 “お姉ちゃん”って呼ぶのは、ずるい。


「うん…」


 妹感を出されると弱いことを熟知されているのが、姉として情けなくて恥ずかしいのに、逆らえない。


 部屋に行ったら多分、怒られるよね。ひどいこと、たくさん言われちゃうんだ。


 いやだな。


 でもなんか、頭……痛いし、ぼーっとするし。


 神楽が生意気なのは、いつものことだし。


 いいや、もう。


 なんでも。

  








 

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