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なまいきさかり  作者: 小坂あと
第一章

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第6話「姉離れの予感」










 うーん。


 やりすぎちゃった。


 大好物を前におあずけくらってるのつらすぎて、暴走しちゃったな。これは素直に反省。


 この先の長い人生を考えると、一瞬の快楽に身を任せて溺れるのは悪手だって戒めてきたつもりだったのに。呆気なく、崩壊しそうになってしまった。


 刹那的で爆発的な欲望と、恒久的な関係を壊したくない臆病な願望の狭間を、うろついて生きる。


 わたしが我慢のできる良い子であったなら、本能と理性の板挟みな悩みも抱かなくて済んだのにな。


「……日頃の行いってやつかな」


 まぁ、だけど。


 どうせいつか壊れるなら、早い段階で壊しちゃうのもあり。


 わたしと違って奥ゆかしくて我慢強い姉は、きっと近い将来、進路の話や恋愛関係の話が出てきたら「神楽のため」とか言って離れる未来が容易に想像できる。


 足枷になりたくないとか、思ってんだろうな。


 本気で養おうって考えてることなんて知りもしないでさ。誰のために嫌いな勉強も頑張ってるのか…ほんとバカ。


 愚図で、愚鈍で、愚劣で。


 ぐずぐずに泣かせたくなるくらいの愚か者なとこも、好きなんだけど。


「今日も勉強教えるから。部屋来て」

「あ……え〜…?どうしよう、かな」


 最近は、察しが良くてかわいくない。


「そんなに怯えなくても、なんもしないって」

「お、怯えてるとかじゃ……ないよ」

「じゃあ、黙ってついてきて?祈里姉と違ってわたし忙しいの。時間もったいない」


 あとどのくらい、一緒にいられるかも分かんないのに。


 どうせあんたはそのうちわたしを置いて、男と付き合って、結婚して、子供を産んで。


 普通の幸せを手に入れて、普通に生きていってほしいと健気に願う気持ちも、実はある。こう見えて、わたしは思慮深いんだ。


「ね、ねぇ……神楽?」

「ん?なに」

「お姉ちゃん、そろそろひとりで勉強しようと思うの」


 だからこうなる日が来ることも、予め見越していた。


「……なんで?」


 動揺することはない。はじめから、分かっていたことなんだから。


「さ、さすがに、甘えすぎかなって」

「別に。わたしがいいって言ってんだから、頼ればいいじゃん」

「でも……ね。うん。おまじないも、もう私たち高校生だから、やめたいなって」

「嫌なの?」

「ちがうよ。そうじゃ、なくて」


 姉は基本的に、否定しない。小心者で、わたしのことが大切だから。嫌だって言ったら傷つくと思って、否定できないんだよね。


 それだから、うまく利用して丸め込んできたのにな。


「ほら、恥ずかしい……じゃない?いつまでも、そんなことまで妹に頼って」

「だからさ、わたしがいいって言ってんだから良くない?」

「とにかく、ひとりでがんばりたいの」


 頑なだなぁ。


 何か、そうせざるを得ないくらいの変化があった?昨日の今日で、突然。


 もしかして、わたしの気持ちに勘付いたから警戒してる、とか。


「わかった」


 だとしたら、一回は引いた方がいいか。


「勝手にすれば?」


 逆にこっちから突き放した方が、不安を煽れて良いかな。


 恋愛は駆け引きだとか、聞いたことがある。どっかで。


 失敗したら、どん詰まり。一生、相思相愛になれないことが確定する究極のギャンブル。


 勝ったところで、先は見えてる負け確定の人生ゲーム。


 それなら、大胆に賭けて楽しんだもん勝ち?


 それとも、健全に堅実に積み上げるべき?


「なんかあったら、頼って」


 失う恐怖を考えたら、とてもじゃないけど賭けには出られない。これでも、石橋は叩くタイプ。


 叩きすぎて、たまに壊しかけちゃうだけで。


 内心は姉と同じ臆病者の小心者で、わたし達は正反対なように見えてどこか似ている。


 ちゃんと、両親の血を引き継いでる。


 物語みたいに、都合よく養子とかない。……嫌な世界だ、ほんと。


「一応、時間作ってあげるから」


 繋ぎ止めるための優しさを、“姉思いの良い子だ”と解釈されるのも癪だけど、今回ばかりは仕方ない。地道な好感度上げと割り切って目を瞑ろう。


「ありがと。神楽は、やっぱり優しいね」


 当たり前でしょ。


 愛してないとできないよ、こんな我慢。


 虚しくなるから、眩しすぎて直視できない笑顔から顔を背けた。


 







 




 






 

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