第15話「生理が終わったら」
お母さんが、愚痴っていた。
「神楽……あの子、もうすぐ祈里の誕生日だっていうのに」
ここ数日、毎日のように外泊していて全然帰ってこない神楽のことを案じて、頬に手を当てる姿を眺める。
どうやら友達のところにいるんだとか、なんとか。
家で会えない寂しさはあるものの、いる時はとびきり甘えてたくさん話して、親には内緒のおまじないだってしてくれるから、私は特に文句なんかない。
むしろ最近はやたらと機嫌が良くて、
「おいで……お姉ちゃん」
「ん…」
「生理、しんどいね。…お腹、さすってあげるからね」
いつにも増して甘々な声と対応をしてくれるから、満足。
今もベッドでふたり。後ろから抱き寄せて、おへその下に手を当てた神楽は穏やかな顔つきで微笑んでいる。
そういえば……生理の時はだいたいこんな感じで、お泊まりの回数が増えるのも生理中。ちょうど月に一回くらいのペースで、連泊してる気がする。
何か関係ある?って疑問が過ぎるけど、バカな私は点と点を線で繋げられない。
でも、なんにも考えてなくてなんとも思ってなかったのに、気になりだすと止まらない。変にソワソワしてしまう。
もしかして、彼氏――とか?
「他に、痛むところある?」
「ん……んー。ここ」
タイミング良く聞かれたから、ズキリと痛んだ胸の辺りを自分でさすった。
神楽は何を思ったのか、何も言わずただ肩に顎を乗せてくる。
「そこはさすがに……キスできないよ」
「だ、だよねー…」
「……お姉ちゃんがいいなら、する。けど」
耳元で聞こえた言葉に驚いて振り向くと、なんでもないような表情をしてる風に見せて、唇や目線の逸らし方から緊張や照れを持っていると分かる神楽がいた。
び……っくり、した。
いつも、冗談でもそういうこと言わないから。
触りたいの欠片も落としてくれないから。
まだ、残ってたんだ。
「ぃ……いい、よ」
神楽の中に宿る“好き”の可能性を見つけて、それを引きずり出したい一心で、首を縦に動かした。
普段の余裕はどこかに飛んでいってしまったようで、途端に動揺して言葉を詰まらせた神楽は、それでも震える手をパジャマのボタンに乗せて、グッと力を込めた。
「え。……ほ、ほんとに、いいの」
止めないから不安になったらしい。
「い、いいってば」
私も私で恥ずかしくなってきて、強めの口調でツンケンとした態度で返してしまった。
怒らせたとビクついて、硬直した神楽は怖気づいたのか、手を下ろす。
「な……し、してくれないの。おまじない」
「や。する、けど」
とか言いつつ反応を伺ってる辺り、本当はするつもりないんだろうな。
「どこまで……いいの」
落ち着きなく、さり気なくお腹を触りながら、さらなる伺いを立てられる。神楽は意外と臆病で、石橋は何度も叩くタイプ。
「ど、どこまでとか、ないよ」
本当は、どこまでだって――膨張していく欲の塊は、まだ体内に閉じ込めておく。
確信が持てるまで言わないし、言いたくない。
だってもし違ったら、終わっちゃう。
せっかくかろうじて保たれている姉妹の関係ごと、無くなってしまうから。
そんなの、耐えられないから。
「や、でも。さすがに。生理、終わったら……ね。うん。そうしよう?祈里姉」
それ、って。
つまり…?
色々を考えての結論が下されて、ひときわ強く抱き締めてくれた神楽の、サラサラな髪で隠された顔は真っ赤で。
期待、する。
生理不順はもう、とっくの昔に改善されていて、今は周期通りに来て終わる……から。頭の中で、なんとなく計算する。
早ければ、三日後。
予定通り終わればそのくらいには、神楽と――
こわい。
けど、それ以上に。
「終わったら……教えて」
「ぅ、うん」
お父さん、お母さん。
私……いやらしい子で、ごめんなさい。
二年前は我慢できたのに、今になって我慢できないのは、“あの夢”を見なくなって久しく、意に反して体が疼いてしまうようになったせいだ。
起きてる時には初めてだから、不安もあるけど。
覚醒した意識の中で行われる儀式は、どんなに気持ちいいんだろう?って。
期待感と興奮によって、全てがかき消された。




