75 出迎え
私が入宮した翌日─
早朝に使用人達がやって来た。
初めて離宮に入る人達は、主である私が迎え入れなければ門にも入れない為、私も朝早くから起きて準備をした。
「貴方達を歓迎します」
「「「「ありがとうございます」」」」
この一言で、この門に張られている結界を通り抜けられるようになる。この一言がなければ、離宮には辿り着けない。
取り敢えずは、早朝に来た使用人達は全員無事に離宮に入って行った。
「後は、お昼前にユマ様とリシャールと、近衛のカイルス様とアルマン様とマイラ様と、残りの使用人達が来ます」
「分かったわ」
ーカイルスさん。久し振りに会うから緊張するなぁー
の前に!リシャールだ!『引き取る』と言ったものの、リシャールが素直に西領に来るかどうかも分からない。お母さんと私の事をどう思っているのか──。会う前から悩んでも仕方無い。会ってから考えるしかない。
それから、人が増えた事で宮殿内が少し賑やかになったけど、心地良い賑やかさだ。どうも、静か過ぎると落ち着かないのだ。
お母さん達が来る前に、執務室で報告書を読む。
イーデンさんとベレニスさんが、北領の牢獄に収監された。詳しくは説明されていないけど、イーデンさんが、ベレニスさんへの番の認識を失ったそうで、これから先、ベレニスさんが狂い竜になる可能性が高いんだそうだ。もう、二度と会う事は無い。父親であるイーデンさんと二度と会う事が無いと思うとホッとする──なんて思うのだから
「私は薄情な娘だよね」
「薄情ではないと思うが……」
「ふぇっ!?」
部屋には、私1人だった筈で、今のも独り言だった筈なのに返事があった。驚いて報告書から視線を上げると
「カイルスさん!?」
「ノックして何度か声を掛けたけど、返事が無くて……勝手に入ってしまって申し訳無い」
「あ、すみません!全然気付かなかった!でも、大丈夫です──けど、あれ?私、迎え入れました!?」
カイルスさん達が来るのは、お昼前だった筈。
「実は、俺だけ先に第一陣で来たんだ」
「全く気付かなかった………」
会ったらどうしようか?と緊張していたけど、そんな緊張もどこかへ吹き飛んでしまった。緊張よりも、予定より早く会えて……嬉しかったりする。
「あ……申し訳ありません。口調を正さないといけませんね」
「慣れないので、今迄通りでお願いします。時と場合でも良いので!」
「分かった」
カイルスさんの温かい笑顔は健在だ。
「あ、カイルスさんは、リシャールがどうなってるか知ってますか?」
「リシャールは、ユマ様が対応している─と言う事しか……」
「そうなんですね」
と言う事は、特に問題も無い─と言う事なのかも?
「兎に角、ユマ様と一緒にここに来る予定だ」
それなら、後は来るのを待って、直接会って話をするだけだ。
「これをどうぞ」
「わぁ…可愛い」
カイルスさんがくれたのは、白色のミニブーケ。卓上に飾れる位の丁度良いサイズだ。まさか、異性からブーケを貰う日が来るとは。勿論、自惚れたりはしない。これは、“入宮お祝い”だ。
「白竜マシロの綺麗な白色には劣るけどね」
「あーりがとうございます!」
カイルスさんに“綺麗”と言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらで、ドキドキするのは仕方無い!
「えっと………あ…アルマンさんとマイラさんは、第二陣で来るんですね?」
「そうだ………ふっ………」
カイルスさんに笑われた。恥ずかしくて、話を逸らした事がバレている。
「あ、それと一つ報告が。第二陣で、レナルド殿も来ると言っていた」
「レナルドさんも!?」
ずっと気になっていた。オールステニア王国は、竜王国の(中央にある)王都から東側にあるのに対して、私の離宮は真反対の西側にあるから、そう簡単に会いに行く事ができなくなるのでは?と思っていた。まだそう言う仲ではないんだろうけど、お母さんとレナルドさんが離れると言うのが、なんだか受け入れ難いと言うのが、私の正直な気持ちだ。レナルドさんがここに来ると言うと事は……
ー少しは期待しても良いのかなぁ?ー
レナルドさんなら、私も安心してお母さんを任せる事ができるし、私も色んな意味で受け入れられると思う。勿論、お母さんの気持ちが一番だけど。
「レナルド殿が来る事が、そんなにも嬉しい?」
「勿論です!だって───」
「俺の事よりも?」
「ふわぁいっ!?」
ー今、何をおっしゃいましたか!?ー
「今、ここに居るのは俺なのに?」
「ふぁー………」
ー何がどうなってますか!?ー
さっきから変な声しか出ない。誰か、私に!今!声が出なくなる拘束具を嵌めてくれませんか!?
「マシロ様、失礼します。そろそろ出迎えの準備を───あ、カイルスさ────失礼しまし──」
「キース!待って!直ぐに行くから!」
「いえ、直ぐじゃなくても───」
「今すぐ行くから!!」
「………くくっ………」
と、キースと一緒に部屋を出る私の後ろを、笑いながら付いて来るカイルスさん。今のはなんだったのか?揶揄われただけなのか?分からないだらけで、私は気を紛らわすように駆け出した。
「俺、確実に邪魔した………よな?俺、カイルス様にヤラれる???」
と、キースもまた違う意味でドキドキしていたのは、言うまでもない。




