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7 優しいライオン


目の前に広がるのは、真っ白な空間だった。

何処を見ても真っ白で、先に続いているのか行き止まりになっているのか、どうなっているのか全く分からない。ただただ白いだけの空間。


ーこれが、死後の世界なの?ー


死んでも尚、首輪が着いたままで声が出ない。死後の世界も、私には全く優しくない。ただ、体は軽い。白い空間をゆっくり歩く。暫く歩いていると、今度は体がフワフワとした感覚に襲われた。それと、何故だかホッとするような温もりが体を包み込んだ。


『戻っておいで』


と言われているような声も聞こえる。


ー戻る?何処に?日本に戻れるの?ー


勿論、日本に……あの日常に戻れるのなら、今すぐにでも戻りたい。でも、戻った先が、またあの森だったら?あの大蛇や鳥やライオンはどうなったの?いっその事、ライオンに食べられてしまってたら良かったのに。


『大丈夫……』


ー本当に、大丈夫なの?ー


ふと、睡魔に襲われたように目蓋が重たくなって来た。目を閉じて、次に目を覚ました時、私はどうなっているんだろう?不安に思いながらも、襲って来る睡魔には勝てず、私はまたそこで意識を失った。











「❋❋❋❋❋❋❋❋」

「❋❋❋❋❋❋」

「─────?」


体は温かい何かに触れているけど、動かそうと思っても動かない─動かせない。白い空間では軽かった体は、重りをつけたように重い。


()()───


ーまさか!?ー


バチッと目を開けると───


『❋❋❋❋?』

「────っ!!!???」


目を開けて視界に入って来たのは、まさかのライオンだった。ヒュッと息を呑む。何処をどう見てもライオンだ。私が思っていたよりも少し薄い茶色のライオン。多分、あの時見た、リスを咥えていたライオンだ。不覚にも安心感を覚えてしまったライオンだ。恐ろしい筈なのに、合った視線を外す事ができず、お互い見つめ合った状態のままだ。何故、こんな至近距離に居るのか?今はお腹がいっぱいだから食べられてないけど、後で食べようと思っていて、私が逃げないように見張っているのか?


『❋❋❋❋❋❋?』

「っ!?」


すると、そのライオンが私の額にポンッと前足を添えて、更にフニフニとさせて、それがまた気持ち良かった。


『❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋?』


気のせいかと思っていたけど、このライオン………何か喋っている。喋るライオン。見た目は見慣れたライオンだけど、やっぱりここは日本ではない何処かで、普通のライオンではないようだ。何を話しているのかはサッパリ分からない。でも、不思議と恐怖心は無い。取り敢えず、首に着いている首輪に手を当ててから口に手を当てて、首を横に振る。


“この首輪のせいで声が出ない”


伝わったかな?と思っていると、そのライオンは『グルルルッ──』と唸り声を上げた。


「っ!?」


ビクッと私が反応すると、そのライオンはハッとして唸るのを止めて、今度は私の頭をポンポンと前足で撫でた。それはとても優しいものだった。その優しさに、少しずつ気持ちが落ち着いて来て、ようやく自分の状況が見えて来た。ここは何処かの部屋で、大きなクッションの上にライオンが寝転がっていて、私はそのライオンのお腹の上に横になっている。


ーここから退かないと!ー


と、動こうとしても、やっぱり体が思うように動かない。1人焦っていると、そのライオンはまた私を安心させるかのように、背中を優しく撫でてくれた。


『❋❋❋❋❋❋❋❋』


言葉は分からないけど、“そのままで大丈夫”と言われているようだった。


それから、そのライオンが声を上げると、部屋の外から男性が入って来て、ライオンがその男性に何かを話すと、その男性は出て行き、また暫くすると、さっきの男性と一緒に年配の女性もやって来た。


「…………」


男性は茶髪に茶色の目だったから何も思わなかったけど、その年配の女性は翡翠の様な色の髪と目をしている。


ーやっぱり、ここは日本じゃないんだー


喋るライオンだって普通じゃない。夢でもなんでもなかった。これが、現実なんだ。


「❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋?」

「…………」


勿論、その年配の女性の言葉も分からなかった。ただ分かるのは、私を心配していると言う事だけ。

その年配の女性が微笑みながら私の手を握って、何かを口にすると、首輪が少し熱くなった?と感じると同時に、その首輪がカシャンッと音を立てて外れて足元に落ちた。


「────あ………こほっ…こほっ」


久し振りに喉に空気が通る感覚に、思わず咳が出た。

その咳が暫く止まらず、何故か慌てるライオンと、そのライオンを落ち着かせるようにしている男性と、少し呆れている年配の女性。視界的には何とも言えない状況なのに、何だか安心している自分が居て、久し振りに自然と笑みが溢れた。




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