63 父との対面①
「何かして来るようなら、容赦なくヤルのよ」
「勿論です!」
今日は、イーデンさんと対面する日。
気合を入れるかのように、いつもより早い時間に起こされて朝風呂に入らされ、新調されたオフホワイトのワンピースを着せられた。何故白色なのか?
「“イーデンよりも格上の白竜”だと言う事を分からせる為よ」
どうやら、お母さんとキースは戦闘モードに入っているようだ。キースにとっては元上司で、憧れの存在だった筈なのに、今では敵意や嫌悪感を隠す事もしない。それも、キースが私の側衛になったからだろうか?
「ユマ様もキースも、ヤル気満々だな」
「カイルスさん!?」
今日の対面に付き添ってくれるカイルスさん。カイルスさんに会うのは、あの目覚めた時以来だ。あの時も元気だったけど、今日も元気そうで良かった。キースやバージルさんからも、カイルスさんは元気になって毎日訓練に励んでいると聞いていたけど、ずっと気になっていたから、直接会って確認できて、ようやく安心する事ができた。
「久し振りです」
「お久し振りです。今日は宜しくお願いします」
「俺が動かなければならないような事が起こらなければ良いんだが……まぁ、何があっても必ず護るけど」
そう言って、私に向ける視線は変わらずに優しい。カイルスさんの側は安心するけど、ハッキリと気持ちを自覚した分、心臓がドキドキして落ち着かなくもある。何度も護られて必ず護ると言われて、こんな優しい目を向けられて、ドキドキしない方がおかしい。
「ありがとうございます」
だから、お礼を言うだけでいっぱいいっぱいだ。
「お母さん、それじゃあ、行って来ます」
「ケーキを作って待ってるわ」
お母さんに笑顔で見送られながら、私はカイルスさんとキースの3人で、イーデンさんが待っている部屋に向かった。
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「お待たせしました」
「いえ……」
バージルさんに指定されていた部屋にやって来ると、イーデンさんが既に椅子に座っていた。イーデンさん側は勿論1人だけだ。私はイーデンさんの真正面の椅子に座り、カイルスさんとキースは私の背後に立っている。
イーデン=ウィンストン。銀髪に青い瞳の青竜。竜力は少し冷たい。どこをどう見ても私と似ている所が無い。おまけに同じだった竜力も違うものになったから、もう赤の他人レベルだ。
竜力が違う事に気付いているんだろう。イーデンさんが戸惑っているのがよく分かる。
「私と話したい事があると聞いたんですけど、どんな事でしょうか?」
「あ……と、それは………」
イーデンさんは少し言い淀み、カイルスさんとキースに少しだけ視線を向けた後、私に視線を戻した。
「ユマ……様は否定も肯定もしなかったが、マシロ様の父親は───」
「私に父親は居ません。正直に言うと、母から父親の話を聞いた記憶もありませんし、私から訊く事もありませんでした。父親が居なくても、私達は幸せに暮らしていましたから」
“だから、私も父親を求めてはいない”
「……以前、手紙で謝罪したが、あの時は申し訳なかった。マシロ様を見た時、ユマ様に似ている君の手を咄嗟に掴んでしまった……今思えば、君の竜力にも惹かれていたのかもしれない」
“君”“君の竜力”の言葉に、後ろで控えているキースが僅かに反応した。守護竜の私に対しての呼び方が気に食わない──と言ったところだろう。
「その時の謝罪は受け取りましたから、改めての謝罪は結構です。それと竜力に関しても、もう何も感じませんよね?私の竜力は、私だけの竜力ですから」
“私と貴方の繋がりは切れている”
「でも……」
はぁ……と、軽くため息を吐くと、イーデンさんは私を見つめたまま口を噤んだ。
「ハッキリ言わせてもらいます。番がどんな存在なのか知りませんけど、番云々は置いといても、既に妻子ある人が元カノを追いかけると言うのは、家族に対して不誠実ではないんですか?それとも、一夫多妻制が当たり前だから、番と巡り会えても元カノも好きだから妾にでもしようとかそんな感じなんですか?」
「そんな事は───」
「“全く無い”と言えますか?番なんて関係無く、貴方が一番に考えて一番に大切にしないといけないのは、ベレニスさんと息子さんなんです。私達は何も求めていないのに、擦り寄られても困るんです。貴方の身勝手な行動で、私達は狙われて攻撃されて、カイルスさんとキースは死にかけたんです。正直、いい迷惑なんです。攻撃されたのに、貴方を受け入れるなんて事はありません」
「それは…攻撃した事は申し訳無く──」
「番が拘束されていれば、本能で攻撃してしまうのは理解しました。なら、喩え私が貴方を父親として受け入れた所で、番のベレニスさんが“茉白を殺して”と言えば殺すかもしれないと言う事ですよね?そんな人を、どうやって父親として受け入れろと言うんですか?無理ですよね?貴方は、かつて愛した聖女由茉でさえ、護る事ができないんです」
イーデン=ウィンストンは、かつての聖女を護る騎士としても、もう失格なのだ。




