57 拒絶
翌日の朝は、比較的ゆっくりと迎えた。
それは、守護竜として覚醒した後は眠気が強くなり、身体にも負担が掛かりやすいから、私に無理の無いように──と、竜王様が指示してくれていたからだ。
ちなみに、寝て起きても、やっぱり竜の姿のままだったし、キースもまだ眠り続けている。気持ちよさそうに寝ているキースを見ているうちに、私もまた寝てしまった。
*由茉視点*
「あらあら。2人ともよく寝てるわね」
昨日は、かなりの魔力を消費したせいで、部屋に入ってすぐに寝落ちてしまったから、茉白の状態を確認できなかった。起きてすぐに茉白の部屋に来たけど、茉白は竜の姿のままで、隼のキースと並んで寝ている。
「竜になっても可愛いわね」
大人になった竜は3mぐらいになる。茉白は1mにも満たない、小さな小さな幼い竜。だけど、竜王国を守護する白竜。これから茉白は、この竜王国で過ごして行く事になる。ならば、私が今すぐするべき事は一つだけ。
茉白が寝ている間にと、竜王にお願いして、急遽場を設けてもらった。場所は王城の応接室。この場に居るのは、バージル様、レナルドさん、私、イーデンの4人。ベレニスは魔法で眠らせている。
私はレナルドさんと横並びに座り、正面にバージル様、斜め向いにイーデンが座っている。イーデンがチラチラと私に視線を向けている事に気付いているけど、私は気付かないふりを通している。
「この場を設けてもらってありがとうございます。竜王陛下」
「それは構わない。俺も必要だと思っていたから丁度良かった。先ずは、ベレニスの事だか──」
あれからのベレニスは、イーデンが側に居た事で少しは落ち着いたようだけど、どうしても私と茉白の纏うイーデンの竜力が気に食わないようで、自身の竜力が暴走しそうになり、魔法を掛けて眠らされたそうだ。イーデンは?と言うと、茉白が自分の竜力を纏っている事に何とも言えない感情はあるものの、嫌な感情は無いようだ。ただ、これから茉白が竜王国で過ごすのであれば、ベレニスは不安材料にしかならない。正直なところ 、茉白が住む西の領地から離れた領地に移動させるか、何かしらの拘束をしてもらいたい。
「竜力に関しては問題無い。これは、守護竜となった者だけが知る事なんだが──」
驚いた事に、守護竜となった竜は竜力が完璧に変わってしまうらしい。基本、竜力は親の竜力を引き継ぐ。そして、その竜力は一生変わらない。例外は守護竜だけ。守護竜は国を護る柱である為、誰にも影響を受ける存在であってはならないから。“繋がりを切る”と言う意味合いがある。
「それに、守護竜には番の存在も無くなる。理由は言わずもがな──だ」
ーそれ、本当に言わずもがなだー
番次第で人が変わってしまうのだから、守護竜にとっての番は問題にしかならない。ベレニスが良い見本だ。
「茉白も例に漏れず、少しずつ竜力が変化して、親から継いだ竜力は無くなる。でも、ユマから引き継いだ魔力は残るかもしれない」
「そうなの?」
影響を受けない為には、魔力も変化するかと思っていた。
「西の守護竜は“浄化の竜”だ。ユマは女神に愛された最強の聖女だ。マシロに、ユマの魔力が残ったとしても、何の問題もないからな。ま、あくまで俺の推測なだけだから、どうなるかは様子を見るしかない」
私と茉白を繋ぐものの一つが残るのなら、それは素直に嬉しいしホッとする。イーデンは、色々訊きたい事があるだろけど、黙ったままで聞いている。
「竜力が完全に変化すれば、ベレニスも本能的にマシロを攻撃する事はなくなるだろうが……理性的に判断して感情を抑えられるかどうかだな。イーデン、お前次第でもある事は分かっているか?」
「はい………」
何とも歯切れの悪い返事なんだろうか。番なのだから、番を愛でまくって安心させるなんて、簡単ではないのか?なんなら、閉じ込めて囲う勢いの愛情があるんじゃないのか?
「ユマ……さま。白竜マシロ様は……」
「ウィンストン伯爵。何度訊かれても答えは変わりません。茉白は私の娘です。ただ、それだけです」
ーここで、ハッキリさせておこうー
「もし、またベレニス様が茉白に手を出すなら、私は何の躊躇いもなく娘を護る為に反撃します。ウィンストン伯爵は、そうなった場合、私と茉白を護れますか?番を止める事ができますか?」
「…………」
できる筈がない。本能に勝てる筈がない。そうなった場合、茉白を護るどころか、昨日と同じで番に同調して攻撃をするだけだろう。
「娘を護れない父親なんて、父親ではありません。“番だから”なんて言う免罪符は、人間の私達にとってはいい迷惑でしかないんです。そんな理由で命まで狙われて、好意を持てる訳もありません。私からお願いする事があるとすれば、これ以上、必要以上に私達に関わらない事」
イーデンが竜騎士副団長である限り、全く関わらないと言うのは無理だろう。
「ウィンストン伯爵が大切にすべきは、番であるベレニス様です」
私達に、イーデンは必要無いのだ。




