56 休息
南の守護竜─赤竜の静かではあるけど、その怒りはピリピリとした空気を発していて、肌を刺激する。流石のベレニスさんも口を噤んだ。
「ここでこのまま言い合うのも良くない。プラータ王子、ダミアンはそちらに任せて良いか?」
「勿論です。叔父上は僕が責任を持って処理します」
プラータ王子がニッコリ微笑む。
「頼もしい限りだ。それじゃあ、他の者達は竜王国に来てもらおう。話はそれからだ。レナルドも、俺からオールステニア国王に連絡を入れるから、竜王国に来てもらえるか?」
「分かりました」
「それと……カイルスは大丈夫なのか?」
『あ!カイルスさん!!』
「カイルスさんなら大丈夫よ。茉白が放った白色の光を浴びたら怪我が消えたのよ。今は、気を失っているだけだから」
確かに、目は閉じたままで横たわっているけど、顔色も良くなっているし、息をしているから胸が僅かに上下に動いているのが分かる。
ー良かったー
私にも、カイルスさんを助ける事ができて良かった。失わなくて良かった。
「それなら、カイルスは私が運んで行きましょう」
と言ったのは、黒色のジャガーの側衛さん。獣人だったようで、人の姿になり、カイルスさんをヒョイッと抱き上げた。
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竜王国の王城にやって来ると、王城内は大騒ぎ状態だった。“西の守護竜が現れた”と言う報せが既に伝わっていたのだ。そんな所にやって来た白竜の私。騒がれない訳がなかった。これ以上の騒ぎは勘弁して欲しいと思ったところで、今度は人の姿に戻れないと言う事に気が付いた。
「それは仕方無いな……」
と、竜王様に苦笑されてしまった。本当に、まだまだ何もかもがうまくいかない。
今回、一番被害を受けたカイルスさんは、医療室に運ばれて行った。見た目は何ともないけど、詳しく診察する必要があるとの事だった。兎に角、無事で良かった。
プラータ王子と王弟は、一度竜王国にやって来たけど、王城で待機していた父である魔王と合流した後、魔王国に帰る事になった。
「お姉さん……マシロ様と呼ぶべきですね」
『様は慣れてないから、“マシロ”と呼んで下さい』
「では、僕の事も気軽に“プラータ”と呼んで下さい。遅くなったけど、あの時は、僕に寄り添ってくれてありがとうございました。お陰で、あの場を乗り切る事ができました」
まだまだ幼いのに、しっかりしているのは、やっぱり王子様だからだろうか?
『それぐらいしかできなかったから…でも、プラータの実力なら、私が居なくても大丈夫だったかも?』
「いえ、お姉さんが一緒に居てくれたお陰です。それと……また、ゆっくりお話しがしたいと思ってるんですが……」
キュルンとした上目遣いのプラータが可愛い。断る事なんてできない。
『勿論、いつでも!』
「良かった。また、落ち着いたら連絡します」
ニッコリ笑顔がまた更に可愛い。キースに次いでの癒やしかもしれない。
「レナルドさん、プラータ王子って確か………」
「そうだ。30年以上前に、私に魔法を指導してくれた師匠だ」
「レナルドさん、プラータ王子、茉白の事“お姉さん”って……」
「そうだ。王子の方がお兄さん──どころかおじさんだ」
「私の茉白、純粋で単純過ぎない?そこが可愛いところだけど、心配になるわね」
「……だな…………」
ー本当にユマの子か?とは、冗談でも訊かない方が良いだろうー
それから、騒ぎは竜王様の一喝で取り敢えず落ち着き、正式な公表は後日改めてする事となった。
そして、今日はそれぞれ休む事になり、明日、改めて集まって話をする事になった。ちなみに、キースは私にあてられた部屋で隼の姿のままで寝ている。
側衛として主の守護竜を見付けて宣言する──
それは、かなりの力を消耗する上、主となった守護竜の竜力を吸収して自身の色が変化する為、身体にかなりの負担が掛かるようで、宣言後は、数日は眠り続けるんだそうだ。それは、守護竜となった私も同じで、詳しくはまだ聞いてはいないけど、眠り続ける事はないけど、数日の間は眠気が強くなるらしい。
お母さんも、かなりの魔力を消耗したようで、私とは違う部屋で治療を受けた後、あっと言う間に寝落ちして、今はぐっすり寝ている。
ーお母さんは、本当に凄かったー
3mぐらいある竜の突撃を受け止めていた。魔族の王弟の魔法を簡単に倍返ししていた。聖女って、そんなにも逞しい存在だったっけ?ひょっとしたら、お母さんの力の影響で守護竜になった──とか?
『有り得る!』
黒竜には憧れたりもしたけど、白も綺麗で嬉しい。キラキラと光る鱗。
『──まだまだ幼い可愛い竜だろうね』
そう言っていたカイルスさん。今の私の姿を見ても「可愛い」と言ってくれるかなぁ?
『………』
ブンブンと首を左右に振る。
今はそんなお花畑脳は置いておく。
今一番の問題は、ベレニスさんとイーデンさんだ。この2人の問題を解決しなければ、この竜王国で心穏やかに過ごす事はできないから。




