55 西の守護竜
“西の側衛”、“西の主”、“白竜”
それらが何を表すのか───
『誰がどうやって選ぶんですか?』
『それは、俺達は詳しくは知らないが、守護竜と判る者が選ぶんだそうだ。ただ、選ぶ側も誰がそうなのか、どうやって選ぶのかは分からないらしい』
今ならハッキリと分かる。私は───
『ベレニスを離せ!!』
「「「──っ!!」」」
そこに、青色の竜が現れた。発した言葉から、その竜はイーデン=ウィンストンだろう。番が2人の男性(レナルドさんとプラータ王子)に拘束されているのだから、怒って攻撃を仕掛けて来たと言ったところだろう。レナルドさんもプラータ王子も、竜のままのベレニスさんの拘束で手が離せず、イーデンさんへの対応に遅れてしまっている。
『レナルドさん!プラータ王子!』
躊躇う事なく、レナルドさん達に水の攻撃を仕掛けたイーデンさん。その攻撃が2人に届く前に魔法陣が展開され、水の攻撃が霧散した。それでもイーデンさんは止まる事なく、2人に飛び掛かった。
「───いい加減にしなさい!」
『───っ!?』
ドォーンッ────
そのイーデンさんの勢いを受け止めて、衝撃音が響いた。勿論、受け止めたのはお母さんだ。
ーマジですか?相手は竜だけど?ー
『………ユ………マ?』
「難しいかもしれないけど、竜化を解いてもらえますか?ベレニス夫人の事を説明しますから」
『…………』
「お願いします。ウィンストン伯爵様」
『ユ………承知した。聖女ユマ様』
グルルッ──と、少し呻った後、イーデンさんは人の姿になり、お母さんも防御の魔法を解いた。
今は、お母さんとイーデンさんが静かに向き合っている。
「先ずは、ベレニス夫人は──」
「その前に、一つだけ訊いておきたい」
「何を……ですか?」
イーデンさんが、私の方へと視線を向けた。
「あの白竜は………」
「あの子は私の娘です。それ以外の何者でもありません」
「………そう………ですか…………」
それは、キッパリとした線引き──“拒絶”だった。
「では……ベレニス夫人は“狂い竜”になりかけていたので、拘束させてもらいました」
「狂い竜に!?何故───」
「それは、また改てゆっくりとお話させてもらいます。兎に角、先に攻撃を仕掛けたのはベレニス夫人です。私達はそれに対抗しただけです。主に夫人に攻撃をしたのは、そこに居る魔族です」
その魔族の王弟は、戒めの拘束の影響で気を失っている。イーデンさんはその王弟に怒りを向けてはいるけど、耐えている感じだ。それから、目をギュッと閉じて息を吐いた。
「責任は私が持つので、ベレニスを預かっても良いですか?」
「その方が助かります」
「ありがとうございます」
イーデンさんがお礼を言うと、ベレニスさんの元へ行き、ベレニスさんの体に手を触れて何かを呟くと、竜だった体が人の姿へと変化した。
「ベレニス、大丈夫か?」
「イーデン………どうして………あそこに居る竜は……あの娘が………どうしてもあの存在が赦せない!」
「ベレニス!」
ベレニスさんが更に私に殺気を向けた時だった。
キ───────ンッ
と耳鳴りの様な音が響き渡った後、私を囲む様に三つの光の柱の様な物が現れた。そして、その光の中から、黒色と青色と赤色の竜が現れた。
青竜、赤竜、竜王でもある黒竜。
その竜達にも、それぞれ黒色のジャガー、アイスブルーの狼、紅葉色の狐が控えている。そのジャガーと狼と狐が前に出て頭を下げる。
『『『西の守護竜様に、お慶び申し上げます』』』
頭を下げたまま、黒色のジャガーが言葉を続ける。
『長きに渡る不在の西でしたが、これより、竜王国も安定へと向かいましょう。新たな西の守護竜様をお迎えできた事、恐悦至極に存じます』
アイスブルーの狼が続ける。
『西の側衛キースも、唯一の主と出会えた事、おめでとうございます』
紅葉色の狐が続ける。
『我々6名が、証人となります。西の守護竜、白竜マシロ様、おめでとうございます。謹んでお迎え申し上げます』
挨拶が終わると、それぞれの側衛からそれぞれの色の玉が現れて、その玉がキースの体に吸収されていき、キースからは白い玉が三つ現れ、それぞれの側衛に吸収されて行った。
『私は西の側衛、隼のキース。どうぞ、宜しくお願い致します』
今迄全体的に黒っぽかった隼だったのに、真っ白の隼になったキース。どうやら、主従関係が確立して、私の色に変化したようだ。
「まさか、マシロが白竜だったとはな……」
軽い口調で笑っているのは黒竜の竜王様だ。
『私が一番驚いてます』
「それもそうだな」
「マシロが……白竜?西の……守護竜?有り得ない……」
「ベレニス!」
「赦さない!私はマシロを────」
「いい加減にしなさい。ベレニス=ウィンストン伯爵夫人」
「っ!」
ゆらりと怒りを表したのは、真っ赤な色の髪と瞳の女性──赤竜だった。




