48 転機
「うん。熱は下がって来たみたいね」
発熱してから3日目にして、ようやく熱が下がって来た。とは言え、まだ体は怠くて重くて起き上がる事はできない。そんな私を起こして、支えてくれるのはカイルスさん。体力を付ける為と薬を飲む為にも、食べれる物を食べる時に、カイルスさんが支えてくれるのだ。辛い時に支えてくれる事に、素直に「有り難いなぁ」と思うだけだったけど、熱が少し下がった今では、恥ずかしさと申し訳無さが上回っている。
髪はボサボサだし、体もきっと汗臭い……筈。
「支えてもらって…すみません」
「病人なんだから、気にする事は無いよ。素直に頼ってもらって良いから」
「ありがとうございます」
更に正直に言うと、恥ずかしいのは恥ずかしいけど、カイルスさんに支えてもらうのは、やっぱり安心する。“護られている”感が半端無い。
「お母さんは……大丈夫そうですか?」
今のオールステニアや竜王国の事を考える。きっと、お母さんは、聖女として今すぐにでも動きたいと思っている筈だ。何もできない自分を責めていないだろうか?
「せめて、私が竜化できるようになっていれば…ベレニスさんに対抗できる力があったら、お母さんはオールステニアや竜王国を、また救えるのに……」
一度、自分が救った世界が、目の前で崩れて行くのを黙って見ているだけだなんて、どんな気持ちになるのか。悔しいに決まってる。
「マシロやユマ様が、気に病む事はない。ユマ様には一度救ってもらっただけでも有り難い事なんだ。そもそも、この世界の事は、この世界の者が何とかしないといけない事なんだ。あぁ、マシロ達部外者が出しゃばるなと言う事じゃないからね。マシロ達が、そこまで責任を負わなくても良いと言う事だ。今はおとなしく、この世界の者達─俺達に護られていてくれと言う事だ」
「カイルスさん……」
カイルスさんには何度助けてもらっただろう?今もこうして、心を助けてもらった。
「いつも、ありがとうございます」
「取り敢えず、今は元気になる事が一番だな」
「はい」
それから2日後、ようやく熱が下がり、3日後にはベッドから起き上がる事ができた。
多少の体力の低下はあるけど、食欲も元通り。竜力の流れは──うん。特に問題無く流れている。やっぱり、後は竜化する事だけ──の前に、私とお母さんは、今の状況をカイルスさんに教えてもらう事にした。
オールステニア王国では、穢れが溢れた所を聖女に浄化してもらい、騎士や魔道士が魔獣や魔物を討伐していて、レナルドさんもその討伐に参加している。
竜王国は、守護竜が不在の西の領の綻びが酷いようで、ここも聖女が修復しつつ、アルマンさん達竜騎士が警備を強化しているとの事だった。
しかも、今回の事には魔族が絡んでいるそうで、両国は連携を保ちながら警戒を強めている。
この魔族と言うのが、あの人身売買と関わっていた可能性が高いのだとか。
「この世界には魔族も居たんですね」
「意外と、見た目は人間と変わらなかったりするのよね」
お母さんは魔族に会った事もあるようだ。見た目が変わらないと言う事は、私もあのオークションで会っていた可能性もある。
「先々代の魔王の時代に、平和条約が結ばれてからは、魔族と人間と竜人と獣人の間に争いが起こる事もなく、お互い友好的な関係が続いている。だから、今回の件に関しては、魔王も直々に動いているいるそうだから、マシロやユマ様もあまり気にしなくても大丈夫だろう」
「魔族の王が動いてくれるなら、魔獣や魔物の心配も大丈夫そうね」
ホッとしたように呟くお母さん。やっぱり気にしていたようだ。
『………カイルス様、少し外に出て来ても良いですか?』
「良いよ」
カイルスさんが許可すると、キースは隼の姿で窓から外へと飛び出して行った。
「何かあったんですか?」
「定期的な見回りだ。レナルド殿の結界はあるけど、念の為に見回りをしているんだ」
確かに、キースは時々外に出る事がある。本当に有り難い事だけど、こう言う生活をいつまで続けなければいけないのか。自分のありのままの姿で、自由に外に出られる日が来るのか。
ー竜化さえできればー
焦りは禁物と言うけど、焦ってしまうのは仕方無い。このままだと、イーデンさんやベレニスさんを恨んでしまう。恨んでも良いのか……な?
「私達が今できる事はないから、おとなしくしておくだけね」
「私は竜化を目指して頑張る!」
それから、お母さんと2人でランチを作って、後はキースの帰りを待って4人で食べるだけ。
『キー………』
タイミング良くキースが帰って────
「「「キース!?」」」
飛び立った窓から帰って来たキースが、隼の姿のままヨロヨロと落ちるように床に降り立った。
「キース、何があった!?」
そんなキースを救い上げたのはカイルスさん。よく見ると、片翼が切られていて血が出ている。
「取り敢えず、怪我を治癒するわ」
そう言って、お母さんが魔道具を外す。
お母さんがキースの翼に手を翳すと、その手からキラキラと金色の光が溢れた。
ーこれが、聖女の癒やしの力?ー
それはとても綺麗で、温かくて優しい魔力。
『……ユマさま……だ…め…です』
「え?」
パリンッ───
キースの声と、何かが割れる様な音がしたのは、ほぼ同時だった。
「見付けたわ」




