43 竜力
「マシロから竜力を感じられるようになったね。マシロも、俺達の竜力を感じられるようになったんじゃないかな?」
「んー……今迄意識しなかったから分からなかったけど……」
お父さんの竜力は分かったから、意識すれば──
「あ、分かります!アルマンさんは水竜なだけあって、少し冷たいけど清々しい感じの竜力ですね!」
「そ……うなんだ………」
ーあれ?私、何か変な事言ったかな?ー
「それなりの魔力持ちなら、他人の魔力を感じる事ができるわ。でも、その魔力の違い迄を感じるのは、相当の魔力持ちでなければ不可能なの。私やレナルドさんでも何となく違いが分かるぐらいなんだけど」
「竜力もそうです。前にも言ったけど、番同士であればお互いの竜力だけは識別できるけど、それはあくまで“番であるか”“番でないか”が判別できるだけです。」
「え?」
「ひょっとしたら、マシロはかなりの竜力持ちかもしれないから、竜王陛下に相談した方が良いかもしれない」
今迄人として過ごした時間が長く、短期間で竜力の流れが良くなった事で、竜力が強過ぎてコントロール出来ずに竜力が暴走する可能性があり、暴走すれば、アルマンさんでも止められるかどうか。
「ユマ様が居れば大丈夫な気もしなくはないけど、マシロの力がハッキリと分からないから、早目に対処できるようにしておいた方が良いと思う」
本当は、直ぐに対処できるように竜王国で過ごす事が一番なんだろう。オールステニアで暴走すれば、確実に被害は出るし、小規模では済まない。
だから、今できるベストを考えると、私自身が自分の竜力の把握をして、少しでも早くコントロールできるようになる事しかない。
ーお母さんと平和に過ごす為なら頑張れる!ー
その日はアルマンさんは直ぐに竜王国に戻って行き、私は更に訓練を続けた。
*竜王国*竜王バージル視点*
「流石はユマの娘だな」
アルマンからの急ぎの報告を聞いても、全く驚かなかった。ユマの娘だと知る前、初めてマシロと会った時、見た目のか弱さとは裏腹に、ピリピリとするような空気を纏っていて驚いた。だから、ユマの娘だと知った時に「なるほど」と納得していたからだ。ただ、俺と同じ黒竜か?と訊かれれば、それは正直なところ「分からない」だ。確かに、「マシロは黒竜だ」とすれば、納得のいくところなのだが。
本来なら、竜王国でゆっくり竜人として見守りながら育ててあげたいところだが──
「万が一の時に備えて、俺に直接連絡が取れる手段と、俺がマシロの元にすぐに転移できる手段を確保しておこう」
「ありがとうございます」
ー黒竜の俺と、ユマが居れば何とかなるだろうー
「で、話は変わるが、あのオークションで捕らえられていたバジリスクとコカトリスだが、あれには魔族が絡んでいたそうだ」
「やはりそうでしたか」
幻獣クラスの魔獣を捕らえて従わせられるとしたら、魔族で、その魔族でもトップクラスの実力がなければ不可能だ。だから、魔王が直々に調査に当たっている。既に、犯人の目星は付いているようで、今は証拠集めをしていると言ったところだった。
「その魔族がな、どうも竜王国を狙っている可能性が高いんだそうだ」
「竜王国を……ですか?」
「そうだ」
まさか、竜王国を狙う者が居るとは思わなかった。竜人は竜化すれば2~3mと巨体で、武力も備わっているから、滅多に手を出して来る者はない。唯一、巨大な魔力を持つ魔族であれば互角と言ったところだが、ぶつかったところで、被害が大きくなるのは必至で、双方痛み分けになると見えているから、敢えて干渉しないと言う暗黙の了解がある。にも関わらず、今回手を出して来た魔族。おそらく、今の竜王国には“穴”があるからだろう。
西の守護竜の不在
ユマに埋めてもらった穴ではあるが、不安定である事に変わりはない。それを狙っているのだろう。我々竜人を従わせる事ができれば、名実共にこの世界のトップに君臨する事ができるから。
「まぁ、そんなに簡単に手は出させないがな」
何度狙われても打ち返すだけだ。
「魔王直々に動いているから、そう簡単にまた動くとは思わないが、マシロも竜人だ。必ずキースを側に置くようにしろ」
「承知しました」
キースのマシロへの執着ぶりも気になるが、それよりも──
「カイルスとマシロは何か進展があったか?」
「ありませんよ」
「つまらんな……」
「陛下………」
カイルスとの付き合いもそこそこ長いが、カイルスがあそこまで気にする女性はマシロが初めてだ。カイルス本人に自覚が無いのが面白い。
「カイルスもいつ気付くのだろうな?」
「マシロもマシロですから、まだまだ先の話かと……」
「そうだな」
最大の障害であるユマには認められているだろうから、後はカイルスが自覚して行動で示して、マシロを振り向かせるだけだ。
「カイルスはともかく、マシロには幸せになってもらいたいな」
「カイルスも入れてあげて下さい」




