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42 ベレニス=ウィンストン

*ベレニス=ウィンストン視点*



イーデンを見た瞬間に分かった。


「ああ……私の番!」


心が震えた。視界の全てがイーデンの色に染まった。イーデン以外の者が見えないぐらいに、本能がイーデンを求めた。イーデンもまた、私に蕩けるような笑みを浮かべて私を抱きしめてくれた。お互いの竜心ができたのも、番である証拠だ。




******


「イーデン様に番が?」

「そうらしいわ」

「でも、それじゃあ、ユマ様はどうなるの?」

「それは───」


ーユマ?聖女ユマ様の事?ー


イーデンとの婚約が調ってから、1ヶ月程経ったある日。王城内にある竜騎士の訓練場に、差し入れを持ってやって来た私の耳に入って来たのは、イーデンと聖女ユマ様の話だった。その話をしているのは、王城付きの女官のようだった。


ユマ様は異世界から召喚されてやって来た聖女で、竜王国を救った救国の聖女で、竜王国だけではなく大陸中で尊敬されている存在でもある。その聖女ユマ様の護衛をしていたのが、イーデンだった。それは勿論知っている。でも、大陸に平和が訪れた後も、イーデンがユマ様の側に居続けていた事は知らなかった。その上、恋仲だった事も知らなかった。




「ユマ様と恋仲だったのは、本当なの!?」

「本当だが、それはベレニスと出会う前の話で、ベレニスと会ってからは何も無い。今はベレニスだけだ」


私と会う前の事なのだから、イーデンは何も悪くはない。私と出会ってからは私だけなのは、私が一番よく分かっている。


「大声を上げてごめんなさい」

「大丈夫だよ」


番が相手だと、どうしても本能が大きく膨らんで感情がコントロールできなくなる。イーデンを愛しているから。でも、イーデンは?イーデンからも勿論愛情は伝わっているけど、私のように感情が揺さぶられる事はない。番の私を閉じ込める事も無く、自由に外に出ても良いと言う。それが、イーデンの優しさなのかもしれないけど、私にはそれが少し寂しくもあった。





それは、王城勤めの父に呼ばれて登城した日の事だった。婚姻に関する話で、1時間程で終わった為、イーデンの居る竜騎士の執務室に向かう途中の事だった。


「私、これでも結構強いのよ?」

「それでも、ユマ様には必要ですから」


イーデンと聖女ユマ様が、渡り廊下を並んで歩いていた。イーデンがユマ様の半歩後ろを歩いているのだから、それが護衛の為に一緒に居るのだと言う事が分かる。言葉遣いもそうだ。それでも、イーデンが私以外の女性の側に居る事が、優しい目を向ける事が──



赦せなかった



「イーデンに近付かないで!」

「っ!?」

「なっ──ベレニス!?」


駆け寄って、ユマ様を突き飛ばそうとする前に、イーデンに止められた。


ーどうして、私ではなくユマ様を護るの!?ー


イーデンがユマ様を護る事は当たり前の事だ。護衛なのだから。でも、私は番なのだ。何よりも優先されるべき番なのだ。


「ユマ様、申し訳ありません」

「私の事は気にしなくて良いから、彼女を家まで送ってあげて下さい」

「ありがとうございます。ベレニス、家まで送らせてくれ」

「はい………」


イーデンが私の手を取ってくれた事は嬉しかったけど、ユマ様のその余裕な姿が腹立たしかった。


それからも、私はユマ様を排除する行動を取った。彼女が竜王国から去り、オールステニアに降りて行っても追い掛けた。


『聖女を排したいなら、手伝ってやろうか?』


と、声を掛けて来た者も居たが、流石にそれは断った。


『それは残念。でも、いつでも手を貸せると覚えておいて欲しい。では、また───』





その“また”の機会は無かった。何故なら、ユマ様が元の世界に帰ったから。この世界から、ユマ様の存在が消えたから。



それからのイーデンは、それ迄よりも私の側に居てくれるようになり、私を愛してくれるようになった。子供もできて幸せな日々だった。


それが、イーデンの様子がおかしくなったのは、3年程前だった。

私と居ても、上の空になるようになった。毎日夕食は一緒に取っていたのに、取る事が減った上、帰りも遅くなる事が増え、休日でも家を不在にする事も増えた。ここ数ヶ月に至っては、私に隠しているけど、お忍びでオールステニアに行ったりもしている。


そこで、ウィンストン家ではなく、私の実家のトリオール家に頼んで密かにイーデンの行動を調べさせた。



“イーデン様は、誰かを探しているようだ”



ー一体、誰を探しているの?ー


可能性としては、竜王直々の命を受けて極秘で誰かを探している。それなら、妻の私にも言えない。


ーそうだったら良いのにー



そんな楽観的な願いは、直ぐに崩れる事になった。





“オールステニアにて、イーデン様が人間の女性と接触。人違いではあったが、その女性を『ユマ』と呼んでいた”



「ユマ………」 


ドクンッ──と、心臓が大きな音を立てた。

あの女は、元の世界に帰ったのではなかったのか?

行方が分からなくなっただけで、本当はオールステニアに居たのだろうか?


「ユマ………」


また、私達の邪魔をすると言うの?イーデン様は私の番だ。また邪魔をすると言うのなら、今度こそ──





「イーデン様は、誰にも渡さないわ」






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