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38 一段落

「結婚して、辺境地に??」

「ええ。だから、もう二度と()()()と王女に会う事は無いと思うわ」


いきなりの結婚には驚いたけど、もう二度と会う事はないと思うと、ホッとしたと言うのが本音だ。好きだった筈なのに、フィンの名前を耳にする度にあの時の恐怖が蘇っていたから。


「ユマは、名前を覚える気はないんだな」

「覚えてどうするの?」


お母さんとレナルドさんは通常運転だ。


「マシロは大丈夫か?」

『キーキー』


私を心配してくれているのは、カイルスさんとキースだ。一緒に過ごす時間が増えて来ると、『家名だと堅苦しいから』と言われて、名前で呼ぶようになった。


「大丈夫です。もう会わなくて良いと思ったら、安心したぐらいです」

「そうか。なら良かった」

『キーキー』

「そう言えば……キースって、私達の言葉が分かるみたいだけど、普通の隼じゃないの?」

「「「『…………』」」」


ーあれ?駄目な質問だった?ー


「あー……実は、キースは獣人なんだ」

「獣人……と言う事は、カイルスさんみたいに人の姿にもなれると?」

『話もできます』


と言って、キースがクルンッと回ったかと思えば、人の姿になって私の目の前に立っていた。

灰色掛かった黒髪で、瞳は黄色。隼らしい色と言える。歳は、私よりも少し上ぐらいだろうか?


「騙すつもりは無かったんですけど、黙っていてすみませんでした!!」


と、勢いよく謝られた。土下座で。


「え?いや、別に怒ってないですよ!?と言うか、逆に、知らなかったとは言え、頭を撫で回したりしてすみませんでした」


動物に懐かれた事が嬉し過ぎて、キースを見る度に撫で回していた。首辺りもずっと撫でていた。セクハラ並みに………。


「それこそ問題ありません!俺も竜騎士ですから、嫌な事は嫌だと意思表示して反抗するんで!寧ろ、撫でられて気持ちよかったので!」

「なら……良かった?」


ニカッと笑うキース……さんは爽やかな青年だ。


「マシロの護衛を兼ねて、竜王陛下が付けていたんだ」

「そうなんですね。色々と配慮してもらって、ありがとうございます」


竜王国の人達には助けてもらってばかりだ。


「取り敢えず、オールステニアでの問題は解決したとして……次は竜王国の問題の前に、竜人についてよね」


竜人──


そう。どうやら、私は本当に竜人なんだそうだ。異種族間でできた子供が、どちらの種を受け継ぐのかは、生まれて来る迄分からないそうだ。特に、竜人は子供が出来にくいそうで、異種族との間の子供は竜人ではない方の子が生まれる確率の方が高いらしい。


「子が竜人で母胎が人間なら耐えられないと言う事があるからだろうけど、ユマならマシロが竜人でもおかしくないな」

「そうね……私、超安産でね。マシロは3時間で生まれたわ」


ーお母さんはチートだー


「本来、子が竜人なら、人の姿で生まれるけど、半年程すれば竜化して、3歳頃迄は竜の姿のまま成長して、その間に竜としての本能や基本的な事を自然に学ぶと言うか、身に付けて行くらしい。それがマシロにはその期間が無かったから、竜化する事も無理だと思う。ただ、竜人が竜化しない事が、自分自身にどんな影響が出るのか、出ないのかは分からない」


今、ここに居るのは人間のお母さんとレナルドさんと、獣人のカイルスさんとキースさんだけだから、竜人の事はいまいち分からない。分からないけど、このまま人としてだけで生きて行くのは難しいのかもしれない。勿論、今の段階で父親であるイーデン=ウィンストンさんに助けを求める事はできない。


「ベレニス様の事はなんとでもできるけど、できる限りは平穏に済ませて、マシロと2人で静かに暮らしたいから、誰か信頼の置ける竜人を紹介してもらえないかしら?」

「それなら、竜王陛下にお願いしてみます。ユマ様のお願いなら、直ぐに叶えてくれるでしょう」


と言う事で、カイルスさんは鷲の姿になり、直ぐに竜王国へと向かってくれた。


「私は今からちょっとした用事があるから、レナルドさんとキースとお留守番しててくれる?」

「分かった。気を付けて行ってらっしゃい」


お母さんは何かあるようで、私は素直にお留守番する事にした。







******



「ベネットさん──国王陛下と呼んだ方が良いのかしら?」

「“ベネット”と呼んでもらった方が、私の心臓には助かる」


私─ベネット=オールステニアの目の前に現れたのは、聖女ユマ。可愛らしい見掛けとは裏腹に、とてつもなく戦闘能力の高い聖女だ。この世界を救った聖女だ。名実ともに、この世界ではトップに立つ女性だ。


「まともな王太子だったし、まともな国王になったと聞いていたけど、娘の教育だけは失敗したのね。息子がまともで良かったわ」

「ごもっともで……」


可愛らしい娘で甘やかしている自覚はあった。ただ、聖女として王女としては(表面上は)問題無く、いずれかは降嫁するのだから─と、少しの傲慢さには目を瞑ってしまっていた。そのツケが来たのだ。


「よく、あの2人が素直に()()に従ったわね」


“流刑”


伯爵とは言え、あの最北端の領地は流刑場所と言っても過言ではない。国内とは言え大きな川で隔たれていて、1年の半分は寒期で外に出る事も難しくなる。それ故に、王都への行き来も困難で、再び社交界に戻ると言う事もできない。



『魔力を失い、魔道騎士の職も全うできず、マシロも手に入らないなら、もう王都に未練はありません』


そう言ったフィンレー=コペルオン。


『ただただ、私は……王女殿下が……憎い……』


父親でもあり、国王でもある私にそう言ったのだ。


『王女殿下がマシロに手を出さなければ─』

『王女殿下が私を手放してくれたら─』


恨みつらみを吐いた後、『私と一緒に()()()もらわないと……気が済まない』


不敬罪で処刑されても、おかしくはない言動だった。


「2人とも、素直に罪を認めて、心から謝罪する事は無かったのね」


だから、2人の魔力は元には戻らなかったのだろう。女神の怒りに触れたのだ。ユマは、女神に愛されているから。


「それでも、ある意味フィンレーが居れば、アンジェリアが何かをすると言う事は二度と無いと思う」


フィンレーの望みが、アンジェリアの破滅だから。


「それを聞いて……安心したわ…」


と言ってはいるが、人を傷付けて喜ぶユマではない事を知っている。喩え、正当な理由があったとしても。


「ユマが好きだった果物と、ユマが好きそうなワインがあるんだ。お詫びに贈らせてもらうから、ゆっくりしてくれ」

「ありがとう……」


フワリと微笑んだユマは、以前のユマと同じ笑顔だった。


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