35 過不足無く*フィンレー*
*フィンレー視点*
ー一体、何がどうなっているんだ!?ー
ニホンでは魔法は使えなかったが、魔石に込められた魔力を使えば魔法を使う事はできた。だから、こちら側に帰って来る前にマシロに会った時に“追跡魔法”を掛けた。そうしておけば、マシロを召喚した時に直ぐにマシロの存在を確認する事ができるから。
だから、マシロがこっちに来ていたのに、その追跡魔法が反応していなかったとは思ってもみなかった。ちゃんと反応していれば、俺だってマシロを護れた。反応しなかったのだから、調べる必要は無いと思っても仕方が無い事だろう。勿論、マシロには怖い思いをさせて申し訳無いと言う気持ちがあるのも確かだ。だから、その謝罪の気持ちを込めて、これからは俺がマシロを護るのだと思っていたのに。
救国の聖女ユマ
この世界で、その聖女の存在を知らない者は居ない。
その聖女が、マシロの母親だとは思わなかった。しかも、その聖女ユマに魔力を奪われて飛ばされるとは思わなかった。先程握られた腕に痛みが残っている。魔力が殆ど無いから魔法を使って、ここが何処なのか調べる事もできない。何処かの森だと言う事しか分からない。ただ気になるのは、目の前に広がる森の木々が、普段目にする事がない物だと言う事だ。
ー辺境地にでも転移させられたのか?ー
王都から離れた領地では気候が違って来る為、生えている草木も様変わりする。魔力を失い体が怠いが、助けを求める為にも、この森から出なければと思い、ゆっくりと歩き出した。
何時間か歩いて、ようやく森から出る事ができ、運良く馬車が通り掛かった──と迄は良かったが
「❋❋❋❋❋❋❋❋」
「❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋」
彼らが話しているのは共通語ではなかった。と言う事は、ここがオールステニア王国では無い事。オールステニア王国とは国交の無い国で、大国の事を良く思っていない小国だと言う事だ。
容姿も全く違うから、俺が他国の人間だと分かっているのは明らかだ。どうするか?と考えていると、彼らが俺の首に何かを着けて、更に俺の両手にも枷をはめた。
ー何を───!?ー
そこで、声が出せなくなっている事に気付く。首に着けられたソレを知っている。闇のオークションなどで売られる人間に着けられる物だ。あのオークションの商品達にも着けられていた。声と魔力を奪う魔道具だ。
ドスッ──と、お腹に一撃を喰らってしまい、俺は意識を失った。
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次に目を覚ました時は、どこかの地下牢の一室だった。声も魔力も奪われた上、まともな食事すら与えられず思考回路も鈍っているようで、考える事すら出来なくなっている。たまに与えられる食事も、硬いパンと少量の硬い肉。食べなければ鞭で打たれるから、どんなに不味くても完食する。完食さえすれば、暴力を振るわれる事は無い。奴隷制度の残っている国なのかもしれない。
魔道騎士団の一員である俺が居なくなったとなれば、魔道騎士団が捜索に乗り出してくれる筈だ。そうなれば、直ぐに助け出してくれるだろうと思っていたのが1週間前。1週間経ってもまだ、助けにきてくれる気配が無い。このままでは、売られて奴隷となってしまう。
ーどうして俺がこんな目に遭わなければいけないんだ!?ー
俺が何をしたと言うのか?魔道士の皆は俺を探してくれているのか?言葉も分からない。魔法も使えないとなると、俺から助けを求める事は不可能だ。助けを待つ事しかできない。
ー魔法さえ使えればー
それから3日後
「❋❋❋❋❋❋!」
男が鍵を開けながら大声を出す。おそらく、「出ろ」と言っているのだろう。ふらつく体に力を入れて立ち上がり、俺は10日ぶりに地下牢から出る事ができた。
そして、連れて来られたのは仮面を着けた観客が大勢居る競技場のような所だった。そこで、簡単な防具を着せられた後、刃の欠けた剣を手渡され、競技場の真ん中へと放り出された。そこには、俺と同じような男が3人居た。何が始まるのか?オークションではないと言う事だけは分かる。
ギギギギ──と、競技場の入り口の扉が開き、その扉の奥から現れたのはワームだった。
魔法が使えるなら、俺にとっては大した相手では無いが、今の俺では───
他に居る3人も、どう見ても剣の扱いに慣れているようには見えない。ワームを見て怯えて何かを叫んでいるが、助けは来ないし、観客は歓声を上げて楽しんでいる。
ー俺が、一体何をした!?どうしてー
「❋❋❋❋❋❋!」
「❋❋❋❋❋!!」
ワームが1人、2人と獲物を捕食して行く。俺は何とかギリギリのところで逃げてはいたが、この10日の間に失われた体力も限界となり
ーもう駄目だー
諦めて死を覚悟した時、俺の足下に魔法陣が現れて白い光に包まれた。




