29 父と母
「イーデン様は、マシロには何も感じてはなかったわね」
「はい。“知り合いに似ている”と手紙には書いてあったけど、それ以外は何も……」
あの手紙のやり取り以降、あの人との関わりは一切無い。竜王国にやって来てから3日程だけど、会う事もなかった。それが良かった事かどうかは分からないけど。
「取り敢えず、このネックレスは必ず身に着けていた方が良い」
そう言って、サンフォルトさんからネックレスを受け取った。
「私はサンフォルトさんに助けてもらっていたんですね。ありがとうございます」
これがなかったらどうなっていたのか?ひょっとしたら、あの庭園で実の父親に殺されていたかもしれない。お母さんから、お父さんに関しての愚痴を聞いた事は一度も無い。お父さんの話自体滅多に聞く事はなかったけど、『優しい人だった』と言った時のお母さんの顔は、とても優しい顔だった。本当に、お父さんの事が好きだったんだろうなと思えた程に。だから、私も見た事は無いお父さんだったけど、恨んだり嫌ったりする事はなかった。でも、事実を知った今では、イラッとしてしまうのは、私が狭量なのか?
「マシロはユマにはあまり似ていないが、笑うと雰囲気がユマと同じだな」
「母とは似ていないとよく言われてました。父親似……なんですか?」
顔を全く覚えていなかったから、サリアスさん達を見ると「「似ていない」」と言われた。
「それなら、竜人だと言う事を隠せていれば、誰も気付かないかもしれませんね。本人が私の存在すら知らないのなら尚更……」
実の父親が気付かないのだから、他人が気付く事もないだろう。今更、私も父親に認めてもらいたいとは思わない。正直、何よりもお母さんと私が穏やかに過ごせるのなら──とは言え………
「母とも何年も会ってないんですけどね……」
行方不明のまま。更に私までもが行方不明。いっその事笑い事で済ませてしまいたい。
「ああ!そうだ!ユマだ!失念していた!本当に申し訳無い!!」
ガバッと頭を下げてまたまた謝罪するサンフォルトさんに、私達は驚く。
「これは……本当に誰にも言っていない事で………マシロ、その………ユマは今、オールステニア王国に居るんだ」
「─────────────は?」
*レナルド=サンフォルト視点*
「転移魔法陣の使用を許可する」
と、竜王陛下が直ぐさま許可を出してくれ、その場で魔法陣を展開させると、竜騎士の1人カイルス=サリアス様が護衛として同行してくれる事になった。彼はマシロの事が気になる様子だった。私はそれなりの魔道士で腕にも自信はあったが、何かあった場合、ユマとマシロの2人を確実に護れる自信まではないから、カイルス様の同行は素直に受け入れた。そして、急いで魔法陣を展開させた。
転移先は、私の家の地下にある部屋。魔法陣で私の許可が無ければ入れない部屋だ。そこから階段を上がって1階に行けば、普段使用しているリビングとなる部屋があり、ユマはそのリビングか2階にある自室で過ごしていることが多い。今はティータイムの時間だからだろうか、1階に上がれば甘い香りが漂っていた。
「ユマ」
「えっ!?レナルドさん!?あれ?竜王国に行って今日は帰れるかどうか分からないって───」
「お母さん!!」
「──────え!?」
私の後ろに控えていたマシロが飛び出して、そのままの勢いでユマに飛び付いた。
「え!?まし……ろ!?茉白なの!?」
「お母さん!会いたかった!ずっと……待ってた────っ!」
「本当に……茉白なのね!」
2人で抱き合ったまま涙を流して喜び合っている。ユマが再びこちらに来てから3年。その間、マシロはずっとユマを待ち続けていたのだ。ユマも口には出さなかっただけで、娘の事を心配していた筈だ。
ー暫くは2人だけにしてあげようー
そう思ってカイルス様を見ると、彼も同じ事を思っていたのだろう、静かに頷いてから私と一緒にリビングから出て行った。
「まさか、ユマ様が戻って来ていたとは……」
「隠していて、申し訳無い。でも、再び命が狙われるかもしれないと思うと、どうにも………」
「あ、いえ。非難しているのでは無いんです。寧ろ、ユマ様を護ってもらって感謝しています。ベレニス様の事は、全く知らなかったから……ただ……」
カイルス様が少し躊躇った後話したのは、イーデン様が番であるベレニス様に対する感情が、幸せそうには見えないとの事だった。
他人の、しかも獣人のカイルス様がそう感じると言う事は、番であるベレニス様もそう感じている可能性が高い。そうなれば、ユマとマシロの存在がバレれば、必ず2人に手を出して来るだろう。
「ユマは竜王国を救い、マシロは身勝手に召喚されただけなのに……理不尽な事だ………」
ー何としても、2人を護らなければー




