27 隠された真実②
この世界に“歪み”や“綻び”や“淀み”が溢れると、異世界から聖女となるべく者を召喚する。それは、異世界を跨ぐ者に神からの加護が授けやすいからと言う事と、こちらの世界が崩壊すれば、あちらの世界も崩壊するとも言われているからだ。
数年前、竜王国に“綻び”が現れ、聖女を召喚する事となり、その召喚をする魔道士として私─レナルド=サンフォルト─が神託を受けた。
そうして、召喚してやって来たのが“ユマ”だった。当時のユマは成人したばかりの18歳だった。いきなり異世界に召喚されたにも関わらず、何事にも動じる事はなく、寧ろ楽しそうに聖女として動いてくれた。そのお陰で、数年で竜王国の“綻び”も落ち着いた。ユマは、それからも竜王国に留まり、聖女として、人々の病気や怪我を癒やしながら穏やかに過ごしていた。
だが、ユマはとある日忽然と姿を消した。
元の世界に帰ったのだろう──
そう言われている。
「お母さんが?え?聖女って……え?それに……戻れる?」
「まさか、君がユマの娘だとは……思わなかった。このネックレスは、私がユマの為に作った物だ」
「えっ!?まさか……サンフォルトさんが…私の──」
「違う。私は君の父親ではない」
そう言ってから、サンフォルトさんが竜王様に視線を向けると、竜王様は静かに頷いた。
「これから話す事は、私と竜王陛下と、極々一部の者しか知らない事だ───」
と言うと、サンフォルトさんはまた、静かに語り始めた。
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聖女ユマには、護衛騎士が付けられた。竜騎士の1人で、彼はいつもユマの側に控え、ユマをいつも護っていた。それは、綻びを修復し終えた後も続いていた。
『竜王国で、救国の聖女であるユマを害する者は居ない』
と言っても、その護衛騎士がユマの側から離れる事はなかった。そうして月日を過ごすうちに、2人は想い合うようになった。
「その時の2人は、本当に幸せそうだった。このまま、結婚するのでは?とさえ思っていた。それが──」
『あぁ……私の番!』
そう言って現れたのは、竜人のベレニス=トリオール公爵令嬢だった。
「竜人にとって、番は本能で最優先される存在で、唯一無二の存在。それでも巡り会う確率は低い。だから、巡り会えれば幸運と言って良い。一度巡り会ってしまえば、もう離れる事ができない程惹かれ合うそうだ」
獣人にも番の存在があるけど、竜人程の執着はないそうで、番だと分かった相手が居ても、番とは違う相手と結婚する事もあるそうだ。獣としての血が薄くなっているのだろう。
「その護衛騎士とベレニス令嬢も然り」
番と巡り会えた事は、本当に幸運な事だが、そこで問題になったのがユマだった。竜人は、番と巡り会うと、相手に異性が近付く事を嫌がるようになる。その度合いは竜人によってまちまちで、嫉妬する程度のものから邸の奥に閉じ込めてしまうものなど。
2人の場合、護衛騎士の方は軽いものだったが、ベレニスはそうではなかった。相手が救国の聖女であろうが、ユマを排除する動きを見せ始めた。その護衛騎士が聖女を護る為にベレニスを止める事で、更にベレニスが暴走するようになった。
「そこで、私が竜王陛下に提案したんだ。“聖女ユマをオールステニア王国で保護する”と」
「番による暴走は、罪に問う事が難しいところがある故、それが最善策だと判断したが───」
ベレニスは、オールステニア王国に迄追手を遣って、ユマを排除しようとした。
そこでまた、大きな問題が起こった。
「ユマが………身篭っていたんだ」
「っ!?」
ヒュッと息を呑んだのは、私だけではなかった。
「自分以外の女が、自分の番の子を身篭っていると、ベレニスが気付けばどうなるのかは、火を見るよりも明らかだった」
人間が竜人の子を身篭り産むと言う事も、かなりの危険をともなう。だから、人間が竜人の子を身篭ると、竜人からの助けは必須なのにも関わらず、助けはあてにならない。
「それでも、ユマは……子は必ず産んで育てると言い張った」
ーお母さん……ー
「そこで、私が考えたのが、ユマを元の世界に帰す事だった」
ユマは正式に神託を受けて召喚した渡り人であり、この世界の綻びを修復した聖女だから、ユマ自身が望めば元の世界に帰れるかもしれない。でも、過去に帰った渡り人が居なかったから、帰れるかどうかは賭けだった。それでも、ユマは、自分の子を守る為に帰る事を選んだ。
そして、竜王陛下に頼んで魔法陣を使用してユマを元の世界へと転移させた。
「それが上手くいったのかどうかは、私には分からなかったが……上手くいっていたようだな。まさか、ユマの娘がこっちに来ているとは思わなかったが……」
「訊きたい事はいっぱいあるけど……マシロは竜人の血を引いているのよね?でも、マシロからは竜人の気配すら感じないのだけど?」
リオナ様の言う事は尤もな事だ。
「それは、そのネックレスが原因です」
私がユマに渡したネックレス。そのネックレスには魔石が付いていて、その魔石には竜力や魔力を閉じ込める魔法を掛けている。ユマが竜人の子を身篭っている事をベレニス達から隠す為に作った物だ。
「そのネックレスせいで、マシロの竜人としての力が隠されていたんだろう」




