26 隠された真実①
竜王国の朝は早い。雲の上に存在するから、日の明るい時間も長い。雲の下が雨でも、お城はいつも晴天。それでも雨は必要なものだから、たまに雲の下に移動させたりもするそうだ。
「ファンタジー!」
「マシロは今日も元気そうね」
「あ、リタさんイネスさん、おはようございます」
「おはようございます」
イネスさんは、サリアスさんが言っていた竜王国の人で、ここに居る間、私達のお世話をしてくれる人だ。
「今日はリオナさん達に会えるから、早くから目が覚めちゃいました」
今日はリオナさん達が竜王国にやって来る日。昨日の1日で、なんとかお礼の用意もできた。私ができる事は限られているから、大した物は用意できなかったけど。
それと、竜王国に来てからは体も軽く感じる。天空に居て、空気が綺麗だからなのか?
「それじゃあ、朝食を食べたらお迎えの準備をしましょう」
「はい!」
朝食を食べた後、服を着替える。
竜王国の服装はドレスとかではなくシンプルなもので、異世界の私でも着やすい。オールステニアでは女性はスカートが基本だったけど、竜王国では女性もズボンを穿いたりもしている。
『カイルス様が取り敢えずで用意された既製品なので、また後日改めて、マシロ様に合ったものを作るようにと言われてます』
と、10着の色んな服が用意された事に驚いたのが昨日。10着でも多いやら有り難い事な上、更にオーダーメードで作ろうとする事に驚いたのに、この服を選んだのがサリアスさんだと聞いた時は更に驚いた。しかも、サリアスさんのセンスが良い。
お礼を言いたいけど、まだ会えていないから、今日会ったらお礼を渡して、これ以上の服は要らないと伝える予定だ。
今日選んでもらった服は、薄い緑色のワンピース。自分ではあまり選ばない色だけど、意外と合っていると思う。
「まさか、カイルス様が自ら選ぶとは……」
「マシロに似合っててビックリだわ」
「マシロ!元気そうね!」
「リオナさん!」
そこへやって来たのはリオナさんだった。
会えて嬉しさのあまりギュッと抱きつくと、リオナさんも受け止めてくれた。やっぱりリオナさんは温かい。ルパートさんと、今回一緒に来ていると言う魔道士の人は謁見室に居て話し中らしく、リオナさんは私を迎えに来る名目で抜けて来たそうだ。
「たったの3日程だけど、顔色も良くなってて安心したわ。ゆっくり話すのはまた改めて。兎に角、行きましょう」
そうして、私とリタさんはリオナさんと一緒にルパートさん達が居る所へと向かった。
案内されてやって来たのは、謁見室ではなく応接室だった。そして、そこには竜王様とサリアスさんとルパートさん、青色の髪と瞳の男性と、フードを被った人が居た。
「俺とは初めてだったよね?俺は竜騎士のアルマン=サンチェスだ」
「マシロです。宜しくお願いします」
同じ竜騎士のサリアスさんとは、全く違う雰囲気を持っているサンチェスさん。見た目だけでは騎士とは分からないぐらいに細い感じの男性だ。
「で、この人が魔道士のレナルド=サンフォルトよ」
リオナさんの紹介でフードを外すと、その魔道士の人もまた、黒色の髪と瞳をしていた。
「レナルドです。あの……マシロ、以前何処かで私と会った事は……」
「無いと思います……」
きっと会っていたら覚えている筈だ。同じ黒色だから。
「………」
「兎に角、先ずは座ってからにしようか」
考え込むように黙り込んだサンフォルトさん。私達は、竜王様に促されるまま、既にお茶の用意がされている席に座った。
「それで?さっきレナルドが言い掛けていたのは?」
話を切り出したのはリオナさんだった。すると、サンフォルトさんはまた少し思案した後、口を開いた。
「微量だが、マシロから私の魔力を感じるんですよ」
「サンフォルトさんの……魔力?」
私だけではなく、他の人達も分からないと言う顔をしている。
魔力を持っている人は、相手が魔力を持っていると分かるんだそうだ。更に、それなりの魔力の持ち主となれば、それが誰の魔力なのかも分かったりするそうだ。
「でも、私は魔力なんてありません」
「だから、余計に不思議なんだ。マシロには魔力が無いのに、私の魔力を感じるから……」
「あ、ひょっとして、マシロが着けてる翻訳機能の魔道具が原因とか?」
「いや、それも違う。それに込められている魔力は一般的なモノです」
込められている魔力の違いも分かるとは、凄い魔道士さんなのかもしれない。
「その魔道具以外に、何か持ってないかな?」
「持ってる物……と言うか、ずっと身に着けている物ならありますけど……」
私が高校生になった時にお母さんから貰った物。流石に高校に行く時には着けていなかったけど、大学に通うようになってから着けるようになって、お母さんが行方不明になってからは入浴時と寝る時以外はずっと着けている。
服で隠れていたネックレスを外して、サンフォルトさんに手渡すと、サンフォルトさんが驚いたように目を見開いた。
「マシロ……君の母親の名前は────」
「母の名前ですか?えっと…“由茉”です」
「「──っ!?」」
その母の名前に反応したのは、サンフォルトさんと竜王様だった。




