25 竜王国
「雲の絨毯だ………」
話には聞いていたけど、竜王国は本当に天空に存在していた。特に、私が今居る王城は一番高い場所にあるそうで、王城の端から外を覗けば雲の絨毯が広がっている。
ここは竜王国の北側に位置していて、黒竜の国王様が守護している。
他に、青竜が東、赤竜が南、白竜が西を守護していて、竜王国を護っているそうだ。ただ、この100年程西の守護竜が不在だそうで、その影響で綻びが出たそうだ。世代交代で、その守護竜が不在になる事は過去にも度々あった事だけど、ここ迄長い間不在なのは初めてらしい。
しかも、白竜であれば誰でも良いと言う訳でもないらしく、選ばれなければ守護竜とはなり得ないんだそうだ。実際、珍しい白竜でも2人存在しているそうだけど、選ばれていないから、守護竜ではないそうだ。
「誰がどうやって選ぶんですか?」
「それは、俺達は詳しくは知らないが、守護竜と判る者が選ぶんだそうだ。ただ、選ぶ側も誰がそうなのか、どうやって選ぶのかは分からないらしい」
ーナゾナゾですか?ー
“直感”と言うものだろうか?ここにもまた、ファンタジー要素が詰まっている。お母さんが聞いたら喜んだだろうなと思う。
竜王国で過ごす事になれば、そのうち守護竜さん達にも会えるだろうとの事だった。
先ずは、この竜王様の守護する北部で生活をする事になった。ここには、サリアスさんやアルマンさんも住んでいるそうで、私としても知っている人が1人でも多い方が安心だから良かったなと思う。
「リタには、このままマシロに付いてもらうけど、こちら側からも念の為護衛を付けさせてもらうから、また後で紹介する」
「はい、分かりました」
それからも、竜王国について色々話を聞きながら部屋まで戻って来て、そこからはまたリタさんにお願いして共通語の勉強をして過ごした。
*オールステニア王国にて*
「レナルドさん、おかえりなさい」
「ただいま。ユマもお疲れ様」
私はレナルド=サンフォルト
オールステニア王国の魔道士団の元団長で、引退した今は、何でも屋のような事をしている。
魔道士は高級職で、引退する迄独身だった事もあり、贅沢をし過ぎなければ働かなくても死ぬまで暮らせるぐらいの余裕がある。それでも、私の魔法で誰かの助けになるのなら─と、人助けのようなものをしている。
そんな私には、同居人が1人と、掃除や食事(夕食のみ)を作ってくれる通いの家政婦が1人いる。
同居人の名前はユマ。行く宛のない彼女を家に招いてから始まった共同生活。お互い恋愛感情は無く、ある意味“戦友”に近いモノがある。
「ユマ、急な話なんだが、明後日、竜王国に行く事になった」
「竜王国……また、どうして?」
「まだ詳しくは分からないから話せないんだが、渡り人が居るらしくてね。その渡り人が、私の魔法陣と関係があるかもしれないんだ」
「あの魔法陣が?」
「そう。だから、それを確認しなければならないから」
あの魔法陣を使ったのはフィンレー。フィンレーの魔力なら、あの魔法陣を展開させる事は可能だ。ただ、あの魔法陣は完璧ではない。それを使ったのなら、失敗する確率の方が高いのだ。おそらく、失敗して被害者が出たのだろう。最悪、どこかの異空間に閉じ込められて彷徨う事になったかもしれない。
『この魔法陣は、身勝手に使用する事のないように』
と、何度も注意をしていたのに。
フィンレーは実力がある。だから故に、少し驕ったところがあった。
「あの魔法陣は、破壊しておくべきだった」
「レナルドさん……」
あの魔法陣がある限り、この世界とあちらの世界の路が繋がり続ける。あの魔法陣は特別で、破壊するのにもそれなりの魔力が必要となる上、跳ね返りがある可能性もある。破壊がどんな影響をもたらすのか分からない。
「まぁ、今すぐは無理だが…兎に角、竜王国に行って確認してから話をするつもりだ。それで、最悪の場合……」
「私は大丈夫だから」
「すまない……」
いつものように謝ると、ユマもいつものように困った顔をして笑う。
「何度も言うけど、レナルドさんは何一つ悪くないないからね?寧ろ、私はレナルドさんに何度も助けられたの。感謝こそすれ、恨んでるなんて事は微塵も無いわ。本当にありがとう」
ふわりと笑うユマは綺麗だなと思う。ユマが泣いたのを見たのは一度だけ。あの時以降、泣くどころか愚痴すら聞いた事も無い。気にならない、忘れられる筈もないのに。だからだろうか?ユマの笑顔を見ると、たまに胸が痛くなるのは。安心して泣ける場所ができれば良いのにと思う。
ーそれが私でなくてもー




