23 緊急帰国
*カイルス視点*
“マシロを狙った刺客が来た”
との報せが入ったのは、パーティーの中盤に差し掛かった頃だった。予想していた事で対策もしていたが、バタバタと少し大袈裟に会場を後にするリオナ様とルパート様に続いて行く前に、王女へと視線を向けると、笑いを堪えているような顔をしていた。
おそらく、王女自らが動かしたのではないのだろう。証拠が無ければ問い詰める事もできない。それが分かっていると言うような顔だ。
ーマシロが一体何をしたと言うんだ?ー
マシロは、ただ呼ばれて来てしまっただけの渡り人だ。しかも、呼んだ本人に放ったらかしにされて死にかけたのだ。運良く助かって、ようやく元気になって前を向き始めたところで、また命を狙われるとは。
一瞬にして殺気が溢れ出す。
「………」
また一瞬のうちに殺気を抑えて、俺も会場を後にした。
******
「マシロは大丈夫なの!?」
「大丈夫です。部屋で寝ています」
3人の刺客を縛り上げて俺達を待っていたのはキースだった。まだ若いと言っても竜騎士だ。人間の刺客程度なら全く問題無い実力者だ。マシロだけが、キースが隼獣人だと知らないだけ。
「この3人、どうしますか?」
「取り敢えずは、王太子殿下に報告するわ。ま、王女殿下が何かしたなんて証拠は出ないでしょうから、この3人の処罰だけで終わるでしょうね」
「なら、夜が明ける前に帰る事にしよう」
予定では、何も無ければ明日の昼過ぎにここを発ち、マシロを連れて竜王国に帰還する予定だった。
「国王への挨拶はアルマンに任せれば良いから」
「王太子殿下への報告と一緒に、アルマン様にも伝えるように言っておくわ」
そう言うと、リオナ様は王城へと遣いをやり、俺は帰る準備を急いだ。
「マシロ、予定よりも早いが、今から竜王国に向かう事になった」
「……はい………」
「「「『………』」」」
寝ていたマシロを起こして、今からの事を伝えて返事はしているが、半分寝ているのだろう。目がトロンとしていて体がユラユラと揺れていて、何とも可愛らしい事になっている。
「マシロ、すまないが……失礼するよ」
「うん?」
半分寝ているマシロに先に謝ってから、マシロを抱き上げる。
「また改めて竜王国に招待するから、またその時に……」
「分かったわ。マシロの事、宜しくお願いします」
竜王国への移動に関しては、問題が無ければ、竜化したアルマンに運んでもらう予定だったが、緊急性の時は─と、特別に王太子殿下と竜王陛下から許可を貰っていた為、転移の魔法陣を使用する。それなら、マシロに負担を掛ける事なく一瞬で移動ができる。
魔法陣の上に立ち魔法陣が展開し始め、視線を下に向けると、すやすやと寝ているマシロが居る。
ーあまりにも無防備過ぎないか?ー
勿論、寝ているのだから仕方無い。安心していると言うなら、それはそれで良い事だと思う。
ーこの先も、マシロが安心して過ごせるようになれば良いなー
そんな事を思っているうちに、俺達は竜王国へと転移した。
*その頃の王城でのアルマン視点*
「──と言う事で、マシロはカイルスが竜王国に連れて帰ったそうです」
「本当に申し訳無い……」
アッサリと頭を下げて謝罪するのは、オールステニア王国の王太子メレディスだ。妹の王女とは違い、マトモな人間のようで良かった。
「ただ、アンジェリアが何かをしたと言う証拠は出ないだろうから、処罰する事は難しいだろうけど、必ず報いは受けさせる」
「伝えておきます。では、私はこれで失礼します」
「報告ありがとう。気を付けて」
王太子に挨拶を済ませ、下城する為に廊下を歩いていると「すみません、少しよろしいですか?」と声を掛けられた。
黒色のローブを羽織った魔道士──
「レナルド殿か!?」
「あぁ、やっぱりアルマン様でしたか」
レナルド=サンフォルト
オールステニア王国の魔道士で、前魔道騎士団の団長だった。竜王国にとっては恩人の1人だ。2、3年前に引退したと聞いていたが、元気そうで良かった。
「アルマン殿もパーティーに呼ばれていたのか?」
「はい。来るつもりはなかったのですが……その…一つお訊きしても良いですか?」
「答えられる事なら」
「渡り人が現れたと言うのは本当ですか?もし、本当なら誰かが召喚したと言う事ですか?」
この情報は一部の限られた者にしか知られていないが、レナルド殿なら知っていてもおかしくない。
「ここだけの話だけど、本当だ。それで、召喚したのは……フィンレー=コペルオンだ」
「フィンレーが……なら、失敗しませんでしたか?」
「何故、失敗したと?いや……ここではゆっくり話せないから、また改めて話を聞いても?」
「勿論です」
と、レナルド殿と約束して、俺は急いでヴァルトールの邸に向かった。




