21 転機
「サリアスさん?」
ーどうしてここに?ー
「体調の悪い女性に無理を強いるのが、この国の魔道士の常識なのか?」
「違う!俺はマシロの事を──」
「彼女の事を本当に思っているなら、ここは下がるべきだと思うが?」
「っ!分かりました……マシロ、本当にごめん。また、落ち着いたらゆっくり話をさせてくれ」
それだけ言って、私の返事を聞かずにフィンは部屋から出て行った。
「マシロ、大丈夫!?」
「リオナさん……少し……キツいものがありますね」
私を召喚したのはフィンだった。召喚しておいて放置されていたのだ。成功してた?会えて嬉しい?有り得ない。笑える筈もない。一緒に居るなんて無理だ。私は、フィンのせいで死にかけたのだから。
「あ、サリアスさん、ありがとうございました。また助けられました。ところで……どうしてここに?」
ここは王城の医療室のような部屋で、たまたま通り掛かって─とは考えられない。そもそも、竜人のサリアスさんがこの王城に居る事が不思議だ。
「俺はアルマンと2人で、竜王陛下の代理として、今回のパーティーに参加する為に来たんだ。それと、マシロにも用があってね。丁度城に居るからと聞いて来たら……大丈夫?」
「私に用……ですか?」
「あぁ…実は───」
『キーキー!』
「キース!?」
サリアスさんの言葉を遮るように、バサバサと飛び出して来たのは隼のキースだった。
「マシロに会えなくなってから元気が無くなってね。だから、今回ついでに連れてきて、マシロに会わせてあげようと思ってね」
頭を撫でると、キースは更に頭を私の方へと押し付けて来た。
「ふふっ…私も会いたかったよ」
『キーキー!』
「「「…………」」」
私とキースを見守っているリオナさんとリタさんとサリアスさんが、何とも言えない顔をしているのは気になるけど、今はキースを撫でる事が第一優先だ。
「んんっ……まさか、彼がマシロを召喚した張本人だったとはね」
「私もビックリです……」
私が庭園で気を失った後、通りがかった騎士の人が私を抱き上げてここまで運んでくれたらしいけど、その時にフィンが私に気付き、私に会いに行くと王女様に言うと、王女様が私とはどう言う関係なのか?と訊くと『私が召喚した女性です。迎えに行くと約束していたんです』と言い放ち、王女様がその場で泣き崩れ、その現場に、私の元へと駆けつける途中のリオナさんが通りがかり、泣いている王女様を無視する事ができず、どうしたのか?と話を聞けば私と関係する事実が判明。泣き崩れる王女様を慰めながら、私の元へと行こうとするフィンを引き止めようとするも無理な話で、王女様を侍女に任せてフィンを追い掛けて来てくれたそうだ。
「それも問題だけど……王女殿下よね………」
王女様とフィンの婚約は決定だ。王命に近い婚約だから、何があっても覆る事は無いそうだ。しかも、王女様は以前からフィンに好意を寄せていたそうだ。
「それが、ここに来て、彼が異世界から人を召喚していた上に、約束していたからなんて……これで、もし彼が婚約解消なんて願い出たりなんてしたら……」
フィンだけの問題では済まない。きっと、私も──
「私『待ってる』なんて約束はしていないんです。居なくなった母の事もあって、確かではない約束はできないからって。だから、また会えた時に気持ちが変わってなかったらって。それが、まさか違う世界に強制的に連れて来られるとは……思ってなくて……」
待てないと言ったのに、どうして“迎えに”ではなくて“召喚”したの?
「マシロは何も悪くないわ」
「リオナさん……どうしよう…リオナさんにも迷惑をかけちゃうかもしれない……」
今の私の保護者はリオナさんだ。リオナさんが公爵家の人だと言っても、相手は王族だ。公爵でも敵う筈がない。
「なら……マシロ、いっその事、竜王国に来るか?」
「「えっ!?」」
『キーッ!?』
そんな提案をしたのはサリアスさんだ。
「オールステニアの国王も、竜王国には手を出せないからね。それに、竜王国では黒色は好意的に見られるから、マシロにとっても過ごしやすい環境かもしれないし、渡り人に慣れている者も居るから」
「確かに、黒色のマシロにとったら、竜王国の方が過ごしやすいかもしれないわね。それに、彼も竜王国なら追い掛ける事もできないでしょうし…どうする?ゆっくり考えて─と言いたいところだけど、できるだけ早く決めた方が良いわ」
どうすれば良いかは、正直分からないけど、またフィンに会って話をするのも嫌で、リオナさんに迷惑を掛けるのも嫌なら、サリアスさんの提案を受け入れるのが良いのかもしれない。
「でも、サリアスさんや竜王国に迷惑を掛けませんか?」
「その心配は要らない。もし迷惑だと思っていたら、こんな提案はしないから」
そこまで言ってくれるなら、素直に甘えるだけだ。
「それなら……サリアスさん、宜しくお願いします」
「承知した」
ペコリと頭を下げてお願いすると、サリアスさんは微笑んで頷いてくれた。




