20 再会
「───フィン?」
どうしてここに?魔道士?似ているだけ?
「あ、ご存知でしたか?彼はフィンレー=コペルオン様で、実力のある魔道士なんです。今回、王女殿下をお救いしたそうで───」
似ているんじゃなくて、彼はフィンだ。私が見間違える筈が無い。好きだったのだから。でも、魔道士と言う事は、私みたいに渡り人ではないと言う事だ。
『それでさ……いつとは言えないんだけど、また、マシロに会いに……迎えに来ても良い?』
“迎えに”が“召喚”だったら?
ーフィンが私を召喚した?ー
それなら、私がこの世界に来た説明がつく。説明がつくけど、どうしてあんな森に?あんな誰も居ない森に?迎えすらなかった。それから1人で森を彷徨って捕まって、地下牢に入れられて売られそうになって……その間、フィンは何をしていたの?私を探してくれた?
ー魔道士が助けたのは、私じゃなくて王女様だー
召喚したけど私が邪魔になった?それなら、私を召喚なんてしなければ、もう二度と会う事なんてなかった。違う。そもそも、フィンが私を召喚したとは限らない。でも、こんな偶然がある?
ーフィンが、私を殺そうとした?ー
どうして?──上手く呼吸ができなくなって、視界が歪む。
「お似合いのお二人で───って、大丈夫ですか!?」
「………おねが……リオナさ………」
「マシロさん!?」
リオナさんを呼んで欲しい─と言い切る前に、私の意識が途切れた。
『マシロ、大丈夫?無理をしたらダメだよ?』
『マシロはいつも頑張ってるよ。エライよね』
『……もし、俺が迎えに来て、その時にマシロの気持ちが変わってなかったら、少し考えてみてくれる?』
あの言葉は、本当は嬉しかった。
もしまた会えたなら──
「…………」
目を開けると、見慣れない天井が視界に入った。何だか目蓋が重たく感じるのは、泣いていたからなのか?
「マシロ!大丈夫!?」
「……リタさん………」
私の手を握ってくれていたのはリタさん。待合室で待機していたけど、私が倒れたと報せを受けて来てくれたそうだ。
「リオナ様は後で来るけど………少し問題が起きてしまって………」
「問題って───」
「マシロ!!」
「ちょっと!待ちなさい!!」
そこへ、ノックも無く部屋に入って来たのは、リオナさんとフィンだった。
「マシロ!?本当にマシロなのか!?」
「フィン…………」
やっぱり、フィンだった。
ー何故?ー
自分でも分かる程無表情になっているのに対し、フィンは私が茉白だと分かると、満面の笑みを浮かべた。本当に、とても嬉しそうに。
「マシロ、大丈夫?怪我はない?あぁ…会いたかった。召喚は、成功してたんだな」
「召喚……成功?」
そう呟いたのは、私ではなくリオナさんだった。リオナさんがサッと目配せすると、私に付き添ってくれていた女官の人が部屋から出て行き、部屋には私とリオナさんとリタさんとフィンだけになった。
「マシロとは向こうの世界で知り合って、いつか迎えに行くと約束してたんです。それで、ようやく召喚できたと思ったら、マシロが現れなくて……失敗したと思っていたけど、成功していたとは!良かった!」
ー成功?フィンは、本気でそう思っているの?ー
「でも、ちょっと問題もあるけど大丈夫だ。王女殿下も、俺が話せば分かってくれるだろうから。マシロ、これからは俺と一緒に───」
「私がここに来てから……どんな目に遭ったのか知ってる?」
「え?」
ギュッと手を握る。
「バイトの帰りに気が付いたら、誰も居ない森に居たの。歩いても歩いても誰も居なくて……ようやく人に会えたと思ったら、言葉が全く通じない上に拘束されて……地下牢に閉じ込められて暴力を振るわれて…売られそうになって………魔獣に殺されかけて…………」
「まさか………」
そこでようやくフィンから笑顔が消えた。
「そこで私を助けてくれたのは、リオナさんや竜人の人だった。リオナさん達がいなければ、私は売られていたし、死んでいたかもしれなかった!召喚が失敗したと思った時、本当に失敗したのか調べたの?私が来ていないかどうか…探してくれた?」
「それ…は………でも、こうして会えたなら、これからは俺がマシロを護るから!だから──」
「無理だから!そんなフィンとは一緒に居られない!居たくない!」
「マシロ…落ち着いて……俺はマシロが──」
フィンが私の手を握る。それはとても優しい力で全く痛くはないのに、あの時の事がフラッシュバックする。
「はな……して…………」
「マシロ、お願いだ、俺と一緒に居て欲しい」
私が辛い時に側に居てくれたフィン。好きだったのも本当だ。でも、今はフィンが怖い。怖くてたまらない。握られている手が震えているのが自分でも分かる。
ー怖い…誰か………ー
「いい加減にしてはどうだ?」
「なに…い───っ」
私の手からフィンの手を外してくれたのは、黒色の髪と瞳のサリアスさんだった。




