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2 森

私が住んで居た所は都会でも田舎でもなく、少し自然の多い住みやすい所だ。山間部にあるから、冬の1月2月には雪が降る日もあるけど、積もって大変と言う事はない。夏の暑さは辛い時もあるけど。確かに、比較的自然が多かったから、私がまだ幼かった頃は母と2人で自然公園にピクニックをしに行ったりもしていた。女の子だけど、昆虫を追いかけ回したりもしていた。


そして、今、私の目の前には、その自然公園よりも広大無辺な森がある──のではなく、私がその森の中に居る。


「ここ……何処!?」


バイト先から最寄りの駅迄歩いているところだった。迷って森に─なんて事は有り得ない。バイト先から駅迄は一本道だし、その道沿いに森どころか公園すらない。ここが森で街灯すらないから、より一層暗闇が広がっている。日中でも木々のせいで日が遮られているからか、夏の筈なのに空気がひんやりとしていて肌寒くて、静か過ぎて───


「怖い…………」


ここは、自然公園ではない。本当に、本当の森だ。手入れなどされていない森。何かが居てもおかしくない。


ー何故?ー


全く分からない。

あの時、何かに呼ばれたような気がして振り向いたけど誰も居なくて、足下が光って、ビックリして──でも、体が動かなくて、助けを求めて叫ぼうとしたら、更に足下が光って眩しくなって顔を両手で覆ってしゃがみこんで───光が落ち着いた?と思って目を開けると、(ここ)に居た。あの時の光はどこにも無い。青色の綺麗な光だった。


ー落ち着こうー


何度か深呼吸をして、無理矢理自分を落ち着かせる。

鞄の中からスマホを取り出すけど、勿論“圏外”だ。となれば、マップ機能も通話機能も何の役にも立たない。辛うじて見える月で、何となくの方角が分かるだけ。ここから歩いたところで、更に遭難する可能性があるけど、助けを求める術は皆無。もしここで、熊なんかと遭遇なんてすれば、それこそ終わりだ。

鞄の中には、帰りに大将からもらったお弁当2つと、コンビニで買ったお菓子とペットボトルが2本と、財布とスマホ。幸い、賄いを食べていてお腹は空いていないから、食料に関しては少しの余裕がある。


「一か八かで、歩いてこの森を自力で脱出するしかないよね………」


スマホのライト機能をオンにしてから、ゆっくりと歩き出した。






歩き始めて1時間──


運良く流れの緩やかな川を見付ける事ができ、その川沿いを歩いている。今のところ、熊などには遭遇していない。犬猫だけど、私は物心ついた頃から動物には嫌われていた。どんなおとなしい犬でも、人懐っこい猫であっても、私が触ろうと近付くと威嚇されるか逃げられるか……兎に角、動物がおとなしく私に触られる事も近付いて来る事もなかった。その時は悲しい思いをしたけど、今、動物に遭遇していないのも、そのお陰かもしれない……と思ったりもしている。


ーこのまま、動物に遭遇せずに森から抜け出せれば良いんだけどなぁ…ー


「………」


ーこれは、決してフラグじゃないから!ー






更に1時間歩いたけど、森の出口らしき場所を目にする事ができないでいる。


「疲れた………」


川辺にある少し大き目の石の上に座って休憩をする。

2時間歩いても殆ど景色が変わらないなんて、一体ここは何処?これは夢?


「夢……じゃないよね………」


歩けば歩くだけ疲れるし、砂利道を歩いているから足の裏は少し痛いし、歩いても肌寒く感じるから、これは夢じゃない。

ひょっとしたら、あの光った後は、私は気を失って誰かに遠くの場所に運ばれて捨てられた──とか?スマホも財布も盗られていないのなら、金品目的じゃない。


「質の悪い悪戯?」


スマホは相変わらず“圏外”だし、電池も後僅か。


「どうしよう………」


私は、何処に行っても独りぼっちだ。私を待ってくれている人なんて居ない。私が行方不明になったところで、探してくれる人なんて居ない。



『茉白ちゃん、困った事があったら、いつでも頼ってちょうだい』



ーあぁ、女将さんと大将は心配してくれるかな?ー


今の私にとって、唯一の安心できる場所。


「2人の為にも、絶対帰らないと!」


両手でパンパンと頬を叩く。

取り敢えず、夜の移動はここ迄にして、どこか体を休める所を探して休んで、朝になったら移動を再開する事にしよう。そう思いながら、私はまたゆっくりと歩き出した。





更に30分程歩いたところで、ようやく少し開けた場所に出た。月の光が差し込み明るくなったのは嬉しいけど、その先にはまた鬱蒼とした道が続いているのが見えるだけ。


「私……無事に帰れるのかなぁ?」


溢れ出そうになる涙を堪えるように空を仰ぎ見ると、そこには満天の星が輝いていた。


「────え?」


そして同時に、有り得ない物が視界に入った。

確かに、バイト先を出て目にした月は三日月だった。それは同じなんだけど───


「月が………2つ?」


三日月が2つ並んでいるのだ。


「有り得ない……よね?」


ー何百年に一度あるレアな現象……だったりする?ー


「うん……そう言う事に…………」

「❋❋❋❋❋❋❋❋!」

「──っ!?」


そう言う事にしておこう──と呟き掛けた時、大きな声がしたかと思えば、痛い程の力で左腕を掴まれた。







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