17 カイルス=サリアス
「ふふっ……」
「リオナ様………」
“マシロ”─オークションの被害者の1人で、普通の人間かと思われていたが、異世界から来た渡り人だった。黒色の髪と瞳をした渡り人。そのマシロが今、俺にしがみついたまま寝てしまっている。
俺を目にした時、少し驚いたような顔をしたかと思えば、それから直ぐに表情が和らいだ。
基本、俺は冷たい印象を与えるようで、初めて会う者からは恐れられる事の方が多い。同性でもそうなのだから、女性からは特に距離を取られる事の方が多い。だから、マシロが泣き出した時は、俺が恐ろしくて泣いたのだと思った。イーデン様に対しても、震えていたと言っていたから。それが、まさかしがみつかれるとは思わなかった。
「ひょっとしたら、安心したのかもしれないわね」
「安心?俺に?」
ー“恐怖”の間違いではないだろうか?ー
「マシロの国では、黒色の髪と瞳が普通なんだそうよ。でも、この世界では違うでしょう?」
「なるほど」
黒色の髪と瞳は珍しく、そのせいで、マシロは今回のオークションに巻き込まれたと言っても良い。黒色の髪と瞳は高値で売られる。
「そう言えば、何年か前に居た渡り人の聖女も黒色の髪と瞳ではなかった?」
「そう……ですね。彼女も黒色の髪と瞳でしたね」
我が竜王国で、100年程空席となっている穴を埋めてくれた聖女。そして、ある日突然姿を消してしまった聖女だ。渡り人だった故に、元の世界に戻ったのだろうと言われている。『帰れるなら帰りたいわ』と言っていたのを聞いた事がある。だから、帰れたのなら良かったと思っている。ただ、本当に帰れたのかは確認のしようがないから、マシロにも、元の世界に帰れる可能性はある─とは言わない方が良いだろう。
「マシロは……軽過ぎないか?」
「知ってるでしょうけど、これでもマシになったのよ?」
ーなんとも小さくてか弱い存在なんだろうか?ー
こんなか弱いのに、獣人や竜人に対して恐怖心を抱かないのは、人間……渡り人だからだろうか?キースが言っていたマシロに対する不思議な感情もまた、マシロが渡り人だからか?
「あ、そうそう!ひょっとして、今回、カイルス様以外の鳥獣人も居たりします?」
「隼の獣人が居ます」
「やっぱり」
何か問題が?と思ったが、どうやら、マシロが鳥が可愛かった、また来てくれないかな?と、嬉しそうにしていたと言う。
ーキースが可愛い?ー
「マシロにはメンタルの癒やしも必要なんだけど、その隼に手伝ってもらう事はできないかしら?」
「なるほど……」
それは、丁度良いのかもしれない。番ではないが、キースはマシロに対して何らかの執着心のようなモノがある。それが何なのか、一緒に居れば分かるかもしれない。
「俺の一存では決められないので、一度イーデン様に相談してみます」
「それは有り難い。お願いします」
「すーすー……」
未だに穏やかな顔をして寝ているマシロ。そのマシロの温もりが心地好く感じるのもまた不思議だ。大変な目に遭った分、これからは良い事がありますように─と、祈らずにはいられなかった。
******
「───と言う事で、隼の姿で交流して欲しいとの事です」
「それは……大変だっただろうね………うん、良いのではないかな?陛下には私から説明しよう。だから、キースはもう暫くここに残って彼女を癒やしてあげなさい」
「はい!了解です!ありがとうございます!」
勿論キースは喜んでいるが、イーデン様は何とも言えない顔をしている。
「何か心配な事でも?」
「ん?いや……私も、直接会って謝りたかったなと思っただけだ」
それだけ言うと、イーデン様が黙ってしまったから、それ以上は何も聞く事はできなかった。
それから、俺達が竜王国に帰るまでキースは毎日のようにマシロの元へ通い、帰って来てからは嬉しそうにその日の話をしていた。
もう暫く居る事にしたキースを置いて、俺達3人は竜王国に帰る事になった。イーデン様とアルマンは竜になり、俺は鷲になってイーデン様の手の内に収まった状態で飛び立った。
上昇する途中で下に視線を向ければ、マシロが肩にキースを乗せて俺達を見上げていた。
そのマシロの黒色の髪がキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。
ーまた、会えるだろうか?ー
『あぁ……魔法陣はちゃんと展開したけど、彼女は現れなかったんだ』
そこで、ふと脳裏に浮かんだあの時の会話。
ーまさか………いや、それは無いか?ー
国内での転移魔法でもそれなりの魔力が必要になるのだから、異世界からの転移──召喚ともなればそれ相応の魔力が必要になる。喩え、かなりの魔力持ちの魔道士だとしても無理があるだろう。でも──
ー少し、調べる必要があるかもしれないなー




