15 鳥との出会い
翌日、あの男性から私に謝罪の手紙が届いた。ピンク色のプチブーケと一緒に。
直接会って謝罪したいけど、私の状態を鑑みて手紙での謝罪にした。
立ち入り禁止場所とは知らなかったとは言え、入ってしまった。
会いたかった知り合いに似ていたから、咄嗟に手を掴んでしまった。
それらに関して、本当に申し訳なかった。
と言う事が書いてあるそうだ。
「リタさん、アリガト」
まだまだ文字もちゃんと読めないから、リタさんが代わりに読んでくれた。
リオナさんは怒っていたけど、本当に悪気はなかったんだろうと思うから、謝罪は素直に受け取ったと、リタさんに代筆してもらって返信の手紙を書いてもらった。
ーその知り合いの人も、私みたいに黒色の髪と瞳なのかな?ー
コツコツ───
「ん?」
リタさんが手紙を渡しに行ってから、部屋で1人でゆっくりしていると、窓の外からコツコツと叩くような音がした。
『キーキー』
「鳥?はやぶさ?」
窓越しに近付いてみても………
「逃げない!?」
基本、動物には嫌われていた。犬猫は勿論、鳥にも近付けば逃げられた。公園に居る人に馴れた鳩にさえ逃げられた。窓を開けても、その隼の様な鳥はそこにじっと止まったままで私を見上げている。恐る恐る手を出してみると、その隼もまた、ゆっくりと足を出して私の手に乗って来た。
「かっ……可愛い!」
頭をゆるゆると撫でると、目を閉じて更に頭を突き出す姿が更に可愛い。
「何処から来たの?」
『キーキー……』
異世界の鳥は言葉が分かるのか?まるで返事をしているかのようだ。
「私は、何処から来て何処に来たんだろうね?」
『?』
その鳥も私と同じように小首を傾げる。
「触らせてくれてありがとう。帰って良いよ」
『キーキー……』
「ほら、待ってる家族が居るなら、早く帰ってあげて」
その鳥は渋っていたけど、何度か私に振り返った後、また大空へと飛び出して行った。
ー残された側と残した側と、どちらが辛いんだろう?ー
*イーデン=ウィンストン視点*
バサバサバサッ──
「キース、彼女は大丈じょ──」
「イーデン様!彼女は何者ですか!?」
「何者とは?それよりも、先ずは、彼女は大丈夫だったのか?」
「あ、はい、顔色は少し悪いように見えましたが、笑っていたので大丈夫だと……それより、彼女は一体何者ですか!?」
“彼女”とは、昨日、私が庭園で会った女の子だ。私の不注意と行動で迷惑を掛けてしまった女の子。被害者の1人だった。
「何者もなにも、お前も知っているだろう?今回、オークションで売られそうになった被害者のうちの1人だ。どうやら、何処の国の者かも分からないそうだが……何かあったのか?」
保護をしているリオナ殿の話によると、何処の国の者かも分からず、共通語も話せないという。
「俺にもよく分からないです。でも、何と言うか……彼女の側が怖いような安心するような……こんな感情は初めてで………」
「番……か?」
そう口にしたのはカイルスだ。
「では無いだろうな……番とは、本能が求める者で、認識すれば最後、離れ難い存在となって、その者の側から離れるだけで胸が引き裂かれる思いをするんだ。愛おしくて………」
「あぁ、そう言えば、イーデン様の奥方は番でしたね」
「あぁ……そうだね………」
竜人にとっての番は、とても大きな存在だ。何よりも大切な存在。我が妻となったベニレスは番だった。番に出会えた事自体が幸運な上に、子供にも恵まれたのだから、これ以上の幸せはない筈だ。
それなのに──
『イーデン……』
フルフルと頭を振る。
「キースが感じているその感情が何かは分からないが、どうせ、近付くなと言っても気になっているから、また見に行くんだろう?彼女は男性に対してのトラウマがあるようだから、人の姿では近付かないようにするように」
「分かりました。ありがとうございます」
鳥の獣人とは言え、竜騎士にまでなった者が普通の人間の女の子に恐怖を覚えるとは、一体どう言う事なのか?怖いとは思わなかったが、少しの違和感はあった。それは、会いたかった彼女と比べてしまったからかもしれない。
「あ、聞きました?王女殿下が明日王都へ帰るそうなんですけど、魔道士のフィンレー=コペルオンも一緒に帰るそうですよ」
「そうなのか?あ、王女殿下を魔獣から護ったから……か?」
今日の会議に出ていたのはアルマン。そこで明日の予定を聞いたのだろう。フィンレー=コペルオンは、魔道士としてはトップクラスの実力者で、侯爵家の令息で容姿端麗だ。王女殿下を護ったともなれば、王女殿下に気に入られたと言われてもおかしくはない。
「私達も、そろそろ帰還する準備を始めないといけないな……」
今回捕らえた者達の処分や、これからの対策、後処理の話も進み、後は話を詰めるだけとなった。早く終わらせて竜王国に帰らなければ。そう思いながら、私は頭の中から彼女の声を追いやった。




