11 意図せぬ盗み聞き
*カイルス=サリアス視点*
「よくもまぁ、コカトリスとバジリスクを捕らえられていたもんだな」
「余程優秀な魔道士が居るんだろう」
幻獣レベルの魔獣が2体。普通の人間だけでは捕らえ続けていく事は困難だ。捕らえてから時間が経つにつれ拘束具の力が弱まっていき、終には力が切れて2体が暴れ出したと言うところだろう。魔獣など捕らえて買ったところで、人間がどうこう扱えるモノではないのだ。
「ところで、キースは何処だ?」
「最後に見た時は、森の方に飛んで行ってたよ」
急遽飛び入りで同行する事になったキースは平民で、まだまだ若手だがそれなりの力がある。今回の事も、ある意味良い経験にはなっただろうけど、ここに来てからのキースは、どことなくソワソワしっ放しだった。任務に支障さえなければ、好きにして良いとイーデン様も言っていた通り、後処理にキースは参加しない事になっている。それ故に、もう既にキースの姿が無い。
ー番でも、見付かったのか?ー
と、その時はそんな事を考えていた。
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翌日の昼からは、人間、獣人、竜人の主だったメンバーと、魔道士達数名による報告会議が行われた。
売り目的で捕らえられた者は、人間10人、獣人5人。更に魔族1人も含まれていたようだが、その魔族の者は魔獣が現れて混乱状態に陥った後、行方が分からなくなっていたが、どうやら自力で国へと帰っていたそうで、魔王国から連絡があったと言う。自力で帰れたと言う事は、かなりの力を持っていると言う事だ。態と捕らえられていただけの可能性が高い。兎に角、その魔族に関しては、“これ以上の詮索は無し”と言う事になった。
保護した15人に関しては、暫くの間療養を兼ねて、このままオールステニアで過ごしてもらい、その後どうするか─本人の意思を確認してから決める事になった。
「バジリスクとコカトリスを捕らえていた影響か、あの森全体の穢れが酷いようです。今はまだ小物で済んでますが、このまま放っておくと更に増えるので、早急に対処する必要があります」
それに関しては、このオールステニア王国の第一王女が聖女である為、その王女が対応する事になった。その浄化の前に、ある程度の魔獣の討伐をした方が良いだろうと、俺達も予定より数日多くオールステニアに滞在する事になった。
そうして、昼から始まった報告会議は休憩を挟んで夕方迄続いた。
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「昨日は、ちゃんとした挨拶をしていなかったですね。私は、ライオン獣人のリオナ=ヴァルトールです」
「こちらこそ、失礼しました。俺は竜騎士のカイルス=サリアスです。鷲獣人です」
会議が終わって部屋へ帰る途中、リオナ様に呼び止められ、改めて挨拶を交わす。
ヴァルトール公爵家は武の家門で、現公爵はオールステニア王国の第一騎士団の団長で、その娘であるリオナ様もまた第一騎士団所属の騎士だ。
「私はルパート=ヴァルトールです」
彼もまた有名な騎士だ。リス獣人としては珍しく武力に長けていて、ライオン獣人と結婚した強者だ。
「貴方がサリアス様でしたか。“竜人並の鳥が居る”と、私達獣人の間ではとても有名なんですよ」
「それは光栄です」
鳥獣人だが、竜人の血を引き継ぐ俺に対しても怯える様な事もないルパート様は、やっぱりリス獣人にしては珍しく、リオナ様が彼を伴侶として選んだのも納得だ。そもそも、恋愛結婚と言うのだから、力云々は関係無いかもしれないが。
挨拶が済むと「もう暫くの間、宜しくお願いします」と言って、その場を後にした。
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「何でこんな時期にしたんだ!?」
「この機を逃せば、次のチャンスが数年先だったからだ。その間、彼女を1人きりにさせたくなかったし、彼女が俺を待ってくれるかどうかも分からなかったから……」
部屋に戻る途中の外廊下に差し掛かった時、奥の方から言い合う声が聞こえ、足がピタリと止まってしまい、盗み聞きするつもりはなかったが、2人の言い合いが耳に入って来た。
「それで、失敗したと?」
「あぁ……魔法陣はちゃんと展開したけど、彼女は現れなかったんだ」
「魔法陣の確認はしたのか?」
「した。予想できる範囲で探してみたが、何処にも居なかった」
「ちゃんと探せたかどうかは……微妙だろ。結局、時間が無かったんだから。でも、まぁ……おそらく失敗して、転移できなかったんだろうな。お前程の魔力持ちなら、こっちに来ていたら反応しただろうから。取り敢えず、この事は誰にも言わない方が良いかもな」
「分かっている………」
そうして、その2人は廊下の奥の方へと進んで行った。
「………」
今の話から推測すると──
魔道士が好きな女性を転移させようとしたが失敗して、彼女が現れなかった
今回の摘発直前にした事もあって、予想範囲内で探したが居なかった
痕跡が無いから、転移そのものがされなかったのだろうと判断した
ーこれだから、そこそこの力のある魔道士は好かないんだー
それでもし、自分が痕跡を辿れなかっただけで、本当は失敗していて、中途半端な場所に転移していたらどうするのか?
気にはなりつつも、自分とは関係無いと、それ以降はあまり考えないようにして部屋に戻った。




