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1 プロローグ

私─鳥井(とりい)茉白(ましろ)、20歳の大学2年生。父は私が生まれる前から居なかったそうで、母は女で一つで私を育ててくれた。母方の親戚は?と言うと、私の父親が誰かも分からないと言う事で、私が生まれる前に縁を切られたそうだ。

そんな状況だったにも関わらず、母は私を産んで、私に沢山の愛情を持って育ててくれた。

ちなみに、母から父に対する不満や愚痴を聞いた事は一度もない。


大学には行かずに働くつもりだったけど、『自分が大学に行けなかった分、茉白には大学に行って視野を広げて欲しい』と言われて、大学に進学する事にした。

昼間は大学で勉強して、夜はバイトで毎日大変ではあったけど、充実した楽しい日々を送っていた。


それが一変したのは、大学1年生の夏休みだった。


母が職場から帰宅の為に乗っていたバスが、山道で横転して海へ落下してしまったのだ。その日は台風が接近していて危険だと言う事で、早目に退勤して帰る途中だった。『もう直ぐ着くから』と言う○ineのメッセージを最後に、母からの連絡が途絶えた。バスの乗客は運転手を合わせて5人。海が荒れていた事もあり、母を含めた2人が未だに見付かっていない。


そんな中でも、私が大学に通い続けるのは、母と『何があっても大学に通い、卒業する事』と言う約束をしていた事と、大学4年分のお金が既に預金されていたから。それでも、やっぱり寂しくて、辛くてどうしようもなくなってしまう時もあったけど……



「マシロ、おはよう。もうレポートは提出した?」

「フィン、おはよう。うん。昨日の夜に送信したよ」

「昨日はバイトじゃなかった?ちゃんと寝てる?大丈夫?」


と、私の事を心配してくれているのは、留学生で同じクラスのフィン=バーナード。見た目は金髪に青目の“ザ・外国人”だけど、流暢な日本語を口にする。大学ではサークルなどには入らず、時間があればバイトをしていた私には友達が居なかった。でも、フィンは、そんな私にもよく声を掛けてくれて、気が付けば一緒に居る時間が増えていた。


母が事故に巻き込まれて行方不明になった直後は、フィンには本当に助けてもらった。側に居て支えてもらったりなんてしたら、好きにならない筈もない。ただ、フィンは誰にでも優しい。容姿だってモデル並みでモテまくっているから、平凡な容姿の私とは釣り合わないと解っているから、私の気持ちを伝える事はない。友達として側に居られるだけで十分だ。





それが、母が行方不明になってから1年。



「俺、国に帰る事になったんだ」

「そう……なんだ………」


留学期間は2年との事だったけど、家庭内の事情で、1年繰り上げて帰国する事になったそうだ。


「それでさ……いつとは言えないんだけど、また、マシロに会いに……()()()来ても良い?」

「“迎え”に?」

「俺、マシロが好きなんだ。だから、何年って言う確かな数字は言えないけど、マシロを迎えに来ても良い?」

「…………」


嬉しいに決まっている。でも、それは不確かな約束で、母が居なくなってしまった今、不確かな約束を信じて待つ夢見る乙女になる事はできないだろう。

母が見付からなければ、私はここから離れる事はできないだろうし、たとえ、母が帰って来たとしても、母を置いてここから離れる事もできないだろうから。


「私もフィンが好きだけど、私は不確かな約束を信じて待つ事はできないと思う。フィンには沢山助けてもらったけど……ごめんなさい」

「マシロ……謝らないで。マシロの気持ちはもっともな事だと思う。でも……もし、俺が迎えに来て、その時にマシロの気持ちが変わってなかったら、少し考えてみてくれる?」

「ふふっ……フィンって、結構強引なところがあるんだね」


そこまで言われたら仕方無い。そこまで想ってくれているは、正直に嬉しい。本当は「待ってる」と言いたいぐらいなのだから。


「フィン、この1年、本当にありがとう。元気でね」

「マシロも、元気で」


軽くハグをして、お別れの挨拶をしたのが、大学2年の夏休み前日。フィンはその日の内に帰国。私はその日は夕方から6時間のバイトで、ゆっくり話をする事ができなかった。


ーきっと、もう会う事はないだろうなぁー


フィンなら、どこに行ってもモテ人生確実なのだから、私の事なんてすぐに忘れてしまうだろう。


ーそれで良い……ー



夏休みに入るとバイト三昧な日々で、お陰で寂しさを紛らわせる事ができた。バイト先は個人経営の飲食店で、私の家庭の事情を知っている女将さんや大将さん。いつも美味しい賄いを作ってくれて、優しくしてくれる。私は、恵まれていると思う。





******



「茉白ちゃん、お疲れ様。また明日もよろしくね」

「はい。女将さん、大将、お先に失礼します」

「気を付けて帰るんだぞ」



時間はあっと言う間に過ぎ、大学4年生の夏。

小さい会社の事務だけど、就職も決まっている。未だに母は見付かってはいないし、フィンからの連絡も、あれから一度も無い。


「一度も連絡が無いとは思わなかったなぁ……」


ははは…と苦笑する。


一度、フィンのスマホに掛けたけど、既に繋がらなくなっていた。その上、フィンがどの国の出身だったのか、誰も知らなかったのだ。私からフィンに連絡する手段が無いから、フィンから私に連絡をくれるか会いに来るかしない限り、会える事は無いと言う事だ。チクリと胸が痛むのは、恥ずかしながら、ほんの少しの期待があったから。


「うん。現実を見つめ直せたわ」


うんうん──と、自分で自分を納得させて歩き出そうとした時。


『───ロ………』

「ん?」


何かに呼ばれたような気がして振り返ると、足下が青色に光り出した。






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