第6話 心にもない発言
「用事はすんだかな? ロイ」
「ああ、まあな」
ロイの顔色は少し暗い。トーカのスパイという言葉を聞いたせいで考え込むことが少し増えた気がする。ディアにも一応共有しておくべきなのかもしれない。この男の正体がわからない以上は。
「次はどこに行くんだい?」
「そうだな、とりあえず部屋に案内するぞ。お前の部屋な」
「そっか、ありがとねロイ」
クリスはにこりと笑いそう言うが、ロイはその表情に合わせて笑うことができず、微妙に引き攣ったような顔になっていた。
「....何か変なこと言ったかな....?」
「いや、トイレ行きたくなっただけだ」
「ここだな、朝は6時起床が基本で食堂はわかってるだろ? 時間厳守ではないが時間通りに来いよ」
「うん、了解したよ」
クリスとロイはそうして別れ、クリスは自室となる扉を開いた。
「なんというか、前に誰か住んでたような....いや、それもそうか、死人が毎回出るような世界だしね」
部屋にあったのはベットやタンスに机椅子など、ただ違うのは全て石で作られたことであった。
そのままクリスはベットの上に横になると目を瞑る。
「まさか、僕を受け入れてくれるとは思わなかったな」
*****
「ただいま、帰りましたよ」
ディアがまず開いた部屋は自室の扉ではない。それはノルンの部屋の扉であった。
「姉ちゃん....お帰り.....!」
ノルンは扉の前まで駆け足でディアの元まで向かうと、項垂れながらもディアの手を掴む。
「ごめん.....っ生きててよかった.....!」
ノルンは涙を流しながらも必死に笑顔を見せようとして少しおかしな顔になっている。きっと少しでも明るく見せようとしているのだろう。
「そんな気にすることないですよ、ホラ! 腕も動きますよ!」
そう言ってディアは腕を振り回していると何かが腕にぶつかる。
「ゴバフッ........!!?」
ディアの拳はちょうど今来たロイの顎にクリーンヒットして、パタリと倒れる。
「あ....すみませんです!」
「痛って......て....!」
ロイは顎を摩りながらも立ち上がると、ディアに言う。
「もうすぐ飯の時間だろ、それとだな....10時に俺の部屋に一回来てくれ、話がある」
そう言ってロイは部屋から出ていく。
「フフン、これはどうやら私への告白に違いありませんね!!」
ディアがそうドヤ顔で呟くとノルンは少し「ふふっ」っと笑うがすぐに口元を抑える。
「ご....ごめん....」
「いいですよ。無理に抑えないでくださいね? とりあえずご飯にしましょう」
「あ、クリスさん」
ノルンと一緒に食堂に向かった所で見たのはクリスの姿で、彼の口の周りにはめちゃくちゃとうもろこしが、ていうか目の上にもついていた。
「なんでそうなりました?」
「え、何が?」
ディアはクリスの疑問に対して答えることはなく、プレートを持つとそのまま配膳の料理の乗った皿を
次々と乗せていく。
基本的にはヤギの肉が出る。それ以外は卵がよく出る。というか家畜はそれで、あとはとうもろこしとキビを混ぜたものがよく出る。
味は普通という。それ以外を見たことないのでほとんど何も思わないのだ。
「クリスさん! ちゃんと顔周りについた物をどうにかしてください!」
顔に食べカスを大量につけたクリスを呼び止めるとそれを全て処理するようにディアは言う。
「特にハエが集るようなことはしないでくださいよ」
「ごめん、疫病とかもあるだろうしね」
「それもですけど、まあ早くしてくださいね」
そうして食事を終えたディアは約束の時間になると、ロイの部屋に向かうのであった。
ロイは正確にはディアの一歳年下でノルンと同じ歳だ。元々はディアは料理人か工房に行く予定ではあったものの、特例で異動となり、工房はノルンが行っている。
訓練中にペアとなり話したのが始まりで、そこから割と気兼ねない友達となっている。
「ロイさん、時間になったので来ましたので開けてください」
ディアはノックしながらそう言うと、ロイは扉を開く。
「すまねえ、わざわざ呼んだのは理由があるんだ」
「一体なんですか?」
ディアはロイの部屋に入るとベットに座り、ロイは真剣な表情でディアの目を見て言い、その言葉にディアはあまりの衝撃で変な声を出すことになる。
「お前のことが好きだ、俺と結婚してくれ」
「はうッ....!? 嘘...!?」
「ろんもち嘘に決まってんだろ」
その瞬間、ロイの頬に向かって平手が飛んでくるとパチンと音が鳴り響いた。




