第56話 弔い
遠征から戻ってきたディア達はフィアノールを連れて、当時のクリスが審判にかけられたあの部屋へと向かっていた。
「一応武装は解除しているけれども....ワタシ達を拘束しなくていいの?」
フィアノールはその真意がわかっていながらもクリスに問いかけるとクリスは答える。
「君が先に言い始めたんだよ、敵対の意思がないことの証明だってね」
「そうね、そういう利口な子、嫌いじゃないわ」
そんな軽口を叩きながら歩き続けていると、あの大扉まで辿り着くと、ゆっくりとそれを押し開いた。
「.....よくきたな、フィアノール・ガリウム。話は大体は聞いておるぞ?」
バルサークは覇気をもっていつものように振る舞ってはいるものの、あの時に比べると随分と目に生気がない。実の息子のガルグが殺害されたことが響いているように思える。そんな中でフィアノールは膝を地面に付くと口を開く。
「初めまして、デルタの代表殿。シグマ国特級者、フィアノール・ガリウムと申します……本来であれば戦火の中で相まみえるべき立場ですが、貴国のクリス・C・フラクトリアの武勇と、その根底にある信念に敬意を表し、本日は剣を収めて参りました」
「これは失礼、わしは現首領のバルサーク・グランツ、それで交渉の件だが、条件を一度ここで話し合って再度決めようと考えている」
「条件ですか....わかりました。一度こちらが知っている情報をお伝えします。現在デルタはシグマ国の襲撃で魔法と階級者を失い、他国からの襲撃がいつきてもおかしくはない状況にございます。ですが特級者がいる国であるイプシロンと同盟関係を組むことで箔がつき、攻撃されにくいだけでなく協力国をさらに増やせると考えます。もちろん戦闘の際は友軍として協力し、人力を尽くす考えです」
「なるほど、確かにそれは悪くないな。だがこちらも先の戦闘で大きく人員を失っている。それについてはどう埋め合わせるつもりと考える?」
クリスは話を聞きながらもどうするべきかを考える。
おそらく被害に対する補填の話だろう。イプシロンと組むのは得策だと考えるができるだけこちらの有利条件の方がいい。場合によってはここで決裂...なんてのもありえるけど...
「そうですね......では貴国の奪われた魔法の奪還を致しましょう。お聞きになっているでしょうが、イプシロンの目的は増長したシグマ国の打倒です。現在シグマは今まで以上に強力になり、既にシグマに協力している国も多い。ですが今ならまだ倒す可能性はあるはずです.....あのエックスやメアリーですら」
2人の名前をフィアノールは出した時、僅かにバルサークの下瞼がぴくりと動いた。
フィアノールはそれを見ると心の隙だと考えさらに続ける。
「シグマを倒すにはあの2人を殺すしかない。貴国の検討により蘇生能力が明らかになったのは、デルタ側の犠牲があってこそです。犠牲になった者たちのためにも動くべきだとはお考えになれないでしょうか?」
「.....そう...だな。では条件が人員の補助と敵魔法の譲渡ということでいいのだな?」
「はい、ご子息の弔いに是非ご協力させてください」
フィアノールの言葉でバルサークの心は動かされそうになっていた。バルサークは少し沈黙するものの、ゆっくりと口を開く。
「そうだな、一度考える時間が欲しい。だが合否は前向きに捉えておくとしようじゃあないか」
バルサークはそう言い、フィアノールは再度頭を下げる。
「このような交渉の機会を与えていただき感謝します。今後ともよろしくお願いします」
そう言ってフィアノール達は再度大扉を開き、部屋から出るのであった。




