第54話 時間停止
「く.........ッぅ........」
フィアノールを気絶させたクリスであったが、余韻に浸る暇もなく[解放]がなくなり、崩れるように地面に倒れる。
呼吸はできる。だが崩壊するほど、熱でドロドロに溶けてしまうようなそんな激痛が体を走る。
薄れゆく意識の中で、気絶するフィアノールの顔を捉えるのであった。
*****
「あら、やっと起きたのね」
クリスが目を開いた時に聞こえたその言葉はフィアノールの声であった。
クリスはその声を聞いて全身に激痛が走る中でゆっくりと立ち上がる。
「.........」
疑問を問うようにクリスはフィアノールの方を向きつつ辺りを確認する。
どうやらどこかのビルの中のようで外の様子はなんとなく見える。階層は上層階の方で、フィアノールは壁に寄りかかるように座っている。
「事情があるの、それに見てわかるように....ワタシはまだ動けるような状態じゃない。話すのがやっとなの」
「.....そこの彼女が運んでくれたのかな?」
「そうだよ。めっちゃ重かったッ」
クリスの目線の先にはメロがおり、彼女は不満そうな顔でそう答える。
「.....一体何が目的なんだい? 僕は気絶してる間にトドメ....そうじゃなくても拘束すればよかったはずだよね」
クリスの問いにメロも同調するように首を縦に勢いよくブンブンと振るがフィアノールは気にも止めず話を進める。
「結論から言うけど、ワタシ達の目的はシグマ国を討ち倒すこと。エックス、そしてメアリーをね」
クリスは少し相手の行動から状況を整理し述べ始める。
「僕らを攻撃したのは....おそらく魔法が三つあることから奪うのが目的.....で合ってるよね...?」
「ええ、そうね」
「じゃあなんで僕を生かしてるのか余計に謎だよ。例えば僕を人質に取って魔法を奪ったり、そうじゃなくても抵抗されれば君たちも危険なはずだ.....」
クリスの問いにフィアノールは少し微笑むと答える。
「そうね。元々はその予定だったんだけど、都合が変わったのよ、ワタシ個人のね」
フィアノールの言葉がわからずクリスは思考していると、そのまま言葉を更に紡いでいく。
「貴方の戦闘力が素晴らしかったから、と言っておくわ。是非貴方にも協力してほしいのよ」
「................つまり.......魔法を奪って使うよりも、僕自身を戦力として加えた方がより有用。と考えたわけだね?」
「....一応言っておくと、別に断ってくれても構わないわ、ここまで被害を出した以上は只では済まないでしょう?」
「交渉材料があるのかい? 何か有用な...」
「デルタは弱体化してると吹聴されてるせいで常に危機に瀕してる。でもあら不思議、アルファだけでなく戦帝の所属するイプシロンまでも同盟国として組み始めました。なんてことになったら、一気にデルタは国として盤石な地位を手に入れるわ?」
「そっか、自分のことを高く見積もってるようだね」
クリスは皮肉のようにフィアノールに返してみるがフィアノールはそれを聞いて笑う。
「勿論。一応、特級者の中じゃワタシが未熟なのもわかってるわ。でも自分のことを必要以上に卑下するのは強者である責任の放棄に他ならない、そうでしょう?」
「とりあえずそれが交渉材料.....? 僕が判断することじゃないよ。僕はあくまで新参だ」
「これは気持ちと覚悟の問題。本当に交渉するなら貴方の言うとおり人質にする。あくまでワタシたちが既に敵対の意思がない証明ということよ」
やはりそうだ...この子は誠実だ。一度も言葉を交わさずにこんな事を言われても信じられなかった。だけど戦闘中に言葉を交わした時もそう...この子の言葉は嘘が見えず重く、信用に値する。
「少し考えたけど個人的には同意だよ。まあ皆がどう判断するかはわからないけどさ.....」
「それは嬉しいところね、貴方のことを信じた甲斐があったもの」
「そりゃどうも」
実際ここで拘束しないのは合理性には欠けるとも言えるでしょう。でもきっとこの子は攻撃するような真似はしない。メロがいるのもだけど。それ以上に思慮深いから拘束しない意図を読み取ると思ったから。
「それにしても君は達観してるね。子供とは思えないくらい冷静だ」
「そうね、一応今年で31だから多少はね」
「..................ん...?」
その瞬間、[時間停止]を使用していないにも関わらず、クリスの時間が停止するのであった。




