第52話 読み合いと鬩ぎ合い
両腕を挙げさせられたクリスであったが、次の瞬間、フィアノールの首に異物感が引っかかる。
「ぐ......ッぅ!?」
それは先ほどクリスが指に結んだ紐であった。左腕を挙げられる直前に垂れた紐を掴んだ。腕を挙げられたもののピンと張り力を込めれば首を抑えられる。
クリスは上へ、つまりフィアノールに抵抗する方向へ紐に力を加える。フィアノールの首に紐が食い込み、呼吸が制限される。
フィアノールはクリスの意識を早く奪おうと更に力をこめるもクリスの力は弱まる様子はない。更に言えばフィアノールが無理に力を込めようと身体を押し付けるほど首が絞まる。
フィアノールは拘束を解除せざるを得なくなり、手放すと即座にクリスに向けて拳を放つが、クリスはそれを手で防ぐと逆に拳を振るい、フィアノールの顔面に命中しフィアノールは距離を取る。
どちらも呼吸は荒くなり、汗を流す。そのなかでフィアノールは思考する。
信じられない......この子の能力...身体能力はいままで見た人間の中でも異常....打たれ強さもだけどおそらく思考速度が異常に高い...紐を用意したのもワタシの能力を完全に見抜いたからでしょう....特級者レベルに驚異的ね。
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フィアノールは短期決戦を狙いすぎてる。本気で僕を倒すのなら高速移動で距離をとりつつ一発ずつ銃弾を撃つのを繰り返せば良かった。
だけどリド達を追跡するために四発射撃という攻撃力に特化した攻撃を選んだ。
...冷静に考えるべきだった.....フィアノールの魔法が[時間停止]だとして、常に跳びながら移動というのを繰り返してるとなると相当な体力がないとできない。
だけど同時に分かったこともある。フィアノールの攻撃はギリギリなんだ....[解放]がなくなる前に銃を失ったのはわざとやるなら明らかにリスクが高すぎる。つまり銃を落としたことは紛れもなく近接格闘はカプティブ以下....!
そうなると運動能力は[解放]のない僕と同等か、少し下くらい.....[解放]状態の平均的なカプティブとの戦闘で防御に徹すれば生き残ることができるレベルだと予測できる。
[時間停止]を落としたことに関してはフィアノールが言った通りで僕の[解放]が切れたのを見てわざと捨てたんだろう。そうすればそのチャンスに僕が無理にでも攻撃を仕掛けるから。[解放]後の能力低下に心理的な焦りと油断を突かれた....
だけど[解放]さえすれば魔法と武器のないフィアノールを完封できる...!!
クリスはそう考えると屈み即座に八芒星を描こうとした瞬間、フィアノールの蹴りが飛び、顔面にその攻撃を受ける。
「く..........ッ———!!」
クリスは一撃受けた衝撃で数歩下がり、またすぐに八芒星を描こうと地面へ指を伸ばすのだが、フィアノールはすぐ追撃を仕掛ける。
八芒星は雑でもいいけど形がわかる程度には描かないと発動しない。そのため書く動作で大体1〜2秒は必要でしょう。であればワタシは貴方に発動させる隙を与えなければいいの。[解放]後の能力低下状態であればワタシなら勝てるから。
クリスは追撃を受け続けて描くことができない。フィアノールの攻撃は止むことはなく[解放]後の痛みに響くほど重く、小柄な幼女の見た目とは裏腹に執念が宿っている。
クリスは攻撃を躱し防御し続け、フィアノールの正拳突きが入った次の瞬間、後ろへ大きく飛ばされる。
ワタシの攻撃を利用して大きく飛んだ....上手いわね。だけどそれだけじゃ甘い。
クリスは飛ばされて地面についた瞬間に指先を地面につけるが、フィアノールの追撃は速く、八芒星を描く間に距離を完全に詰められる。
だがそれを見たクリスは即座に八芒星を描くのを止め、拳を振るう。
かかった.....!! 大きく飛ぶことで距離をとり八芒星を描けるならそれが一番だがそうもいかない。確かにフィアノール...君は頭が回る。[解放]をこれだけ阻止するのは[解放]されたら負けるしかないからだ。
だからこそ....接近せず[解放]されて負けるか、[解放]させないように接近して罠にかけられるかの理不尽な二択を強要する....!!
そうしてクリスの拳は、近づくフィアノールに向かって、渾身の一撃として放たれた。




