第51話 特級者とは
能力の全貌が見えれば対策など容易に思いつく。
クリスは即座に紐を取り出すと自分の右手小指に結ぶ。
ふれてないものが停止するのであれば危険なのはジャンプするタイミング。
自分が空中に跳ぶような避け方をせざるを得ない状況ができたらそれは死を意味するからだ。
糸を地面に垂らす事で常に自身を地面から離さない。そして隙があればフィアノールの身体と結んでしまうのがベスト。
銃弾は空中に飛んだ時点で止まるから射殺はできない。ナイフなどの近接武器を使えばどうにかなるだろうが、僕の身体能力を加味して近づかないのだろう。つまり避ける動作の隙を減らすだけでも———
クリスはそう考えるとフィアノールに向かって走る。フィアノールは即座に射撃しようと屈む姿勢を見せ、その瞬間にクリスは集中力を極限へと高める。
そして次の瞬間4つの銃弾が現れ、クリスは下から滑り込むように避ける。
射撃してからハンマーを引く一瞬はどうしても隙が生まる。それはクリスが無条件に近づける唯一のチャンスである。
おそらく次の攻撃はクリスが避けることを読んだ攻撃が来る。
流石にそこまで読まれた上での攻撃を避けれるとは考えない方がいいだろう。
一回のチャンスだけど避けた以上は絶対に無駄にできない。するわけにはいかない.....!
クリスはそのまま[不変剣]をフィアノールに向かって投げるとフィアノールは横に跳び避ける。クリス目線は真横に瞬間移動したように見えるものの後方に移動する時間を一瞬奪い、次射までの隙を増やす。
さらに10kgもある武器を捨てることでクリスの機動力は更に高くなる。
クリスは更に加速しフィアノールの目の前まで距離を詰めると、拳をフィアノールの顔面へと打ち込む。
「ッ———!」
フィアノールは反射的にその一撃を避けるも、クリスの本当の狙いは持っている拳銃。二丁の拳銃を蹴り上げ銃が地面に落下した瞬間に脚力で踏み潰し、銃身が曲がる。
銃を奪って撃っても時間停止能力がある以上はおそらく当たらない。更に言えば銃を奪い返されるリスクもある以上はここで完全に破壊して接近戦を強要させる。
フィアノールは即座に後方へ瞬間移動するように距離を離すがクリスはそのまま距離を詰める。背を向けさせてしまえばあの高速移動で逃げられる。だから突撃するしかない。
フィアノールはナイフを抜くと攻撃を仕掛ける。首への刺突をクリスは難なく避けると拳を振るう。
フィアノールに肩に拳は命中する中でクリスの蹴りが[時間停止]を狙っているのを見て、腕を引くことで避ける。
フィアノールの攻撃や防御には[時間停止]による瞬間移動が挟まれ、強力に作用している。
体格は小柄なため姿勢を低くして攻撃するしかないのだがクリス目線とてもやり辛い。
気を抜けば一瞬で命を奪われる可能性は非常に高い。
だが更にその隙でクリスはフィアノールの顔面へ拳を振るい、フィアノールは腕で攻撃を防御するが、その一撃は非常に重く、フィアノールは後ろへ跳ぶ予備動作が見られる。
クリスはそのまま一撃加えようとしたその瞬間、頬の痣は消失してしまう。
クリスはその勢いでフィアノールの持つナイフを殴り落とすが、直後に全身に痛みが走る。
時間だ.....三級者5人を相手する前に一度[解放]を使っていて合計4回....流石に限界だ。
ここで逃げられ銃を何処かから調達されれば全てが無駄になる。
絶対に逃さない....逃す訳にはいかない....!
極限の集中力がクリスの感覚を研ぎ澄ませ、防御を捨てて一点に向けて振るった蹴りはまるでクリスの意志が届くかのように———
———[時間停止]の魔法を蹴り飛ばした。
現れたその魔法は懐中時計のような見た目で糸が括り付けられていた。おそらくだが糸を使い懐中時計のボタンを押すなどして使用していたのだろう
フィアノールの武器をほぼ全て叩き落としたクリスは、そのまま拳を振るう。[時間停止]も絡まない純粋な近接格闘。特級者フィアノールを倒すその一撃が真っ直ぐ向かう。
次の瞬間、鈍い打撃音が響き渡った。
「が....ッ.......あ!?」
クリスは空を向いていた。そして同時に顎にくる衝撃と痛み。
ようやく知覚する。攻撃が当たったのはクリスの拳ではなく、フィアノールの蹴り上げだった。
仰け反るようにクリスは一歩引くがフィアノールは容赦なく追撃に入り、五発ほど拳を腹部に打ち込まれると、そのままクリスに飛びつき、クリスはバランスを崩し倒れる。
「ぐ.......ぁ.....が....ぁぁッ....! ぁぁ.....ッ!!」
フィアノールはクリスの右腕を強引に跳ね上げ、自身の側頭部とクリスの肩で、彼の頸動脈を万力のように挟み込んだ。
クリスは頸動脈を締め上げられ、まともに呼吸ができない。抵抗してフィアノールの腹部を殴るが動じることはなくフィアノールは無表上のまま口を開く。
「勘違いした...? ワタシの強みは[時間停止]なんかじゃない。射撃も、作戦も、暗殺も、近接格闘も。全てにおいて極限まで洗練し、ここまで生きてきたのよ。武器を落としたのも全てわざと、だって人は勝ったと思った時に一番油断するでしょう?」
その言葉に抑揚は一切ない。クリスは地面に八芒星を描こうと指を伸ばすがそれを見たフィアノールは脚を腕の下に滑り込ませるとそのまま脚を引き上げクリスの腕を拘束する。
「[解放]はさせない。このまま気絶して?」




