第4話 痣
カプティブの男の蹴りをクリスは身体を仰け反らせ、ギリギリの所で避けていた。
よくみると男の頬には痣が浮かび上がっているのを見た。
そのまま男は追撃をかけ拳や蹴りを何度もクリスに打つが、クリスは全てを避け続け、そして男の回し蹴りが飛んできたその瞬間、その蹴りを掴む。
「中々やるネ、確かに君は強いナ」
その時、男の頬から痣はスッと消えると同時に殺気のような気配も消えたのを感じると、クリスはそっと脚から手を離す。
「少しは実力を見せれたかな....?」
「うん、実力は申し分ないネ、確かに利用価値があると俺は思うネ」
男はそのまま制帽を外すとクリスの目を見て言う。
「そういえばまだ名乗っていなかったネ。ウォルト・C・ファルティニア軍曹でありまス、分隊長を務めさせてもらっている、よろしくナ」
ウォルトは握手をしようと手を差し出しクリスもそれに応えて握手をするが、バルサークが申し訳なさそうに間に入る。
「いやぁ....実は軍部に入るって話とはまた違ってなぁ...!」
「クリスは旅団に来て欲しいと俺は思っている」
ガルグの言葉にウォルトは少し驚いた表情を見せつつも話を聞こうとガルグの方向を向く」
「是非説明を欲しいところではありますね、私たち軍部からしても彼の実力なら申し分ありません。それに旅団では戦闘は避ける方が本来は望ましいはずです。そもそもの運用が噛み合っていないように思えますが」
「こっちは実質的な等価交換に近い状態なんだ」
「......というと?」
「一回の遠征で死人が多数出る。生き残るかは運でしかない、死んだ物の物資を回収できるかもわからないからな。だがこの者がいれば死人が大幅に減るどころか安全に物資を確保しやすくなるだろうな」
「確かに一理あるだろう。しかしだな、軍で預かれば裏切り者だったとしても監視がしやすい。戦術的価値の高さは国そのものの強さを底上げする。オアシスの防衛は容易になり、食料問題は安定するであろう?」
ガルグの言葉に間髪入れずオスカーは反論するが、ガルグはさらに続ける。
「防衛能力を上げる意味でも旅団にクリスを配属すべきだと俺は考えている」
「それは.....どういう意味かナ?」
ウォルトがその疑問を口にする。
「そのままの意味だ。銃弾一発ですら作るのに材料が必要だが、それを手に入れるのは旅団の仕事だ」
「成程、あなたが言いたいことは理解できました。つまり兵器としての戦力を上げるよりも兵士全体の攻撃手段を増やすと?」
「そうだ、そもそも防衛戦は基本的に交代一斉掃射による攻撃が一般的だろう、それこそ彼の運用に噛み合っていない。銃弾の供給率が上がるだけじゃない、旅団の死亡率が下がるのは同時に武器を損傷させずに長く運用ができる」
「........少し思考する時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
そう言ってオスカーとウォルトは一度大扉から出て暫く歩くと、ウォルトは壁に背をつけてそのまま地にへたり込む。
「ウォルト、カプティブをどう思う?」
「....アリかナシかって話なら.....アリかナ」
ウォルトは悔しそうに、だが興奮しているようなそんな口調でウォルトは続ける。
「[解放]無しで[解放]状態のカプティブの攻撃を捌けるとは流石に思ってなかったかナ......一撃喰らって立ち上がれるかどうか.....それで判断するつもりだったしネでもね....」
「やはりそう思うか。旅団に置くべきだと。たしかにアレはどんな兵器よりも価値がある。だけど防衛で重要なのは攻撃よりも防御、つまりどれだけ強くても一箇所だけ強いのでは意味がない、軍部全体の強化の方が妥当だろう」
*****
「意外とすんなり通るものですね、最初は軍所属になると思ってましたが」
「まあ何にせよよかったと思うかな。僕としては住む場所があれば満足ではあるからね」
クリスは旅団に入ったことをディアと話してるとガルグはクリスの大剣を指さして言う」
「その剣、おそらくは“魔法”の類だろ、一度科学者に見せに行け」
「魔法.....?」
クリスがわからずにそう呟くとガルグはため息を吐きながらも説明する。
「はぁ......魔法はだな、銃や剣とは違う物理現象を無視した道具のことだ。俺のだってそうだ」
そう言ってガルグが見せたのは腕につけていた黒い鉄の腕輪であった。
「鉄生成の“魔法”だ。エネルギー....つまり体力を使って好きな形を生成できるんだ、ディアは見ただろうが壁を作ったりだな」
ガルグの言葉を聞いて、クリスはそれを指差すとふとした疑問を聞く。
「それを使えば少なくとも鉄は安全に手に入るんじゃないのかな」
「そう簡単にいかない、魔法で作る物自体は数分もしないうちに消える。だから長期的な資源になりはしないのさ」
「そうなんだ、いい案行ってると思ったんだけどな」
「本当に何も知らないんですね.....知識は忘れてるけど、銃とかは知ってるんですね」
「うん、ある程度の武器ならね」
「まあ一度見せにいけ、ロイ、案内しろ」
ロイはガルグの言葉を聞いてクリスの肩に腕を回すと、馴れ馴れしくクリスに向かって言う。
「わかりました。まあクリス、よろしくな」