第32話 明発
クリスが第一塹壕近くに投げた煙幕の中に入り込むのを確認するとラクトミルは即座にその煙幕へと手投げミサイルを撃ち込む。
一瞬の爆破で煙は消し飛ばされるが、ラクトミルは思考を続ける。
今の爆破で倒せた可能性もあるが、警戒はここからだ。やつは一度ミサイルを避けた。つまりそれほどに身体能力が高いということ。だから避けられたと想定する方がいい。
避ける場合は盾を捨てざるおえない。つまりこの一瞬で射殺すればいい、どこに隠れたのだ....!?
ラクトミルは頻りに目を動かし続けていた。だがその時、一つの風切り音が耳をつん裂き、その方向を見上げると、そこにはクリスが持っていたはずの盾が回転しながらラクトミルの方向へと落下し始めていた。
ラクトミルは落ちてくるその鉄塊を側方へ跳ぶことで避ける。鉄塊は金属音をたてながら地面に衝突する。
「見つけ次第射殺してしまうのだ!!」
ラクトミルはそう叫びながら銃を手に取ると、兵士たちもまた、銃を構える。だがその時、1人のアルファ側の兵士がラクトミルの方へ距離を詰めると、身体を回転させながら蹴りを繰り出す。
「ぐ.....ぉ!?」
ラクトミルはその一撃を身体を反るようにギリギリで避けると銃を構えるが、その直後に謎の液体がラクトミルの全身に付着し、地面もその液体で覆われる。
「この臭い.....ガソリンか....!?」
そして彼を襲った兵士はラクトミルの背後をとると、首にナイフを当てて硬直する。そしてそれとともに帽子が落ち、顔が晒される。
「下手に抵抗しないでよ、僕は力加減は上手くないからね」
それはアルファ兵士の格好をしたクリスであった。
おそらくは第三塹壕内で服の下に着ておいたのだろう煙幕に入った瞬間に黒装束を脱ぎ捨て、黒を追おうとする視覚的な隙を作り、接近されてしまったのだろう。身体を拘束されながらラクトミルはそのように思考する。
銃は撃てない、蹴りはブラフだったのだろう。ガソリンが掛かってしまってるこの状況でリボルバーの引き金を引いてしまえば、一気にガソリンが燃え上がり死にかねない。
「一度発砲をやめろ...!」
ラクトミルは即座に味方に撃たないように声を張り上げるのをみて、クリスは話す。
「.....いくつか聞きたいことはあるけど...まずは兵を退いてくれないかな。こっちだって手荒な真似をするつもりはないから」
「.......いいだろう.....」
随分あっさりとラクトミルはそう言った。
クリスは少し困惑しつつも兵士たちから目を離さず、ラクトミルを抑えながらゆっくりと塹壕を這い出る。
そしてそのままゆっくりと、デルタ側の塹壕へと歩き出すのであった。
十数分歩き続けたところで、ラクトミルはクリスの顔をチラリと確認する。
.....おかしい、おそらくこのカプティブはかなりの時間[解放]を使用しているはず...なのになぜだ?頬の痣が消えない....もちろん個人差はある、一度目ならばまだ消えてなくてもおかしくはないが、何度か使用してるはず....なのになぜ.....
「はッ.....! なるほどな?」
ラクトミルはそう笑うとクリスの方へ身体を押し出し、体勢を僅かに崩させるとクリスの顔面を殴る。
「ぐ....がぁ.....!?」
一瞬の動きにクリスは対応できずその一撃をモロに受けてしまい、それをみてラクトミルは笑う。
「なるほどな、頬を黒く塗って[解放]状態であると誤魔化したわけだ」
ラクトミルは笑いながらも追撃はしなかった。なぜならわかっていたから。
その次の瞬間、ラクトミルの首元にクリスの蹴りが飛びこみ、ラクトミルは意識が飛ぶ。
.....兵士たちがいる時点でそれに気づけばまだ勝てる可能性はあっただろう! だが、今気づいたところでもう遅い.....つまり....ただの負け惜しみというわけだよ
途切れる思考の中でラクトミルは重力に身を任せ、地へと堕ちた。
タッチペン無くしました




