第29話 フェーズ
「囲みつつ銃を構えろ! 各自の判断で射撃して構わない!」
ウォルトは部下に指示を出しながら走り、バトラーを追う。このまま乱戦が続くことはあまりに良くない。だからバトラーを無力化する方法を整える必要がある。
バトラーは塹壕を伝いながら戦闘し進み続けている。だったら後方を追いかけるようにしつつ先で罠を仕掛ければいい。
射撃も碌にできない、さらに射撃が効かないこの状態でも倒す手段は必ずあるはずだ。
バトラーは戦士たちを次々と殺しながら前へと進み続けようとするが、その時人数が減っていることに気づく。
「へえ、一体なにを企んでるのかな?」
塹壕にある足跡や装備や道具の数からしてもっと配備されていたはず、だがそれはこれから進もうとする方向に進んでいる。つまり.....
「あは。おびき寄せるつもりなのかな? いいよ、乗ってあげるよ」
バトラーはニコニコと笑いながら敵の集まっているであろう方向へと走り出す。
だがその次の瞬間であった。塹壕の外で舞う煙達、その中からデルタ側の数人の戦士が飛び出す。
足跡はフェイク、その先に罠があるように見せ一瞬でもバトラーの反射速度を鈍らせる。もちろんこれで倒せるとは思っていないが、それで十分...!
戦士達は各々の近接武器をバトラーに向かって飛び降りながら突撃する。だがバトラーはそれを見て即座に身体を[煙化]させ、その攻撃を全て透かそうとするが、戦士達は武器をそのまま地面へ投げ捨てると防御姿勢をとりながら土嚢の裏へと跳ぶ。
バトラーはその行動を見て辺りを観察すると、ピンの抜かれた手榴弾が塹壕の外側面に置かれていることに気づく。
手榴弾はそのまま爆破する、[煙化]しているバトラーに効果はない。爆風で吹き飛ばされた煙の体は地下壕へと流れこむ。バトラーは実体化して地下壕から外に出ようと脚を動かそうとしたその次の瞬間、天井が爆発し、崩落を起こす。
「うぉ....!!?」
バトラーはその一瞬の変動に動けず[煙化]する。
その最中にも戦場のさまざまななところで爆発音が鳴り響く。
崩落した地面の中でバトラーは初めて己のミスに気づく。
「そうだナ、確かにお前は“ほぼ物理無効”だよ、だけど所詮は体がある」
ウォルトは崩落しバトラーが生き埋めにされた土の上で言葉を紡ぐ。
「だったら簡単だ、「煙化」しても出られない場所に閉じ込めればいい、そのまま実体化すれば重みで潰れる。クリスが手動ミサイルがあると言っていた。だけど最初はあまり使われなかった理由、それはお前を移動させるためなんだナ?」
「[煙化]中は自分では動けない、そうなると脚を使う必要があるが戦場でカプティブであり魔法を持つお前を動かすには狙撃のリスクを考えると難しい。だったら[煙化]したお前の背後を手動ミサイルで撃つ、その爆風で移動すればいい」
煙は音響の強化のためでもあるが、バトラーの移動を気づかせないためにする陽動。それがバトラー....いや、ラクトミルの作戦の全貌なんだろう。地下壕を爆破する際に他の場所もいくつか同時に爆破した。ミサイル破壊によるバトラーの復活の可能性は低いはずだ。
バトラーは殺し切れないにしても無力化した、煙がいつ漏れ出るかはわからないから警戒はいるが、数時間は動かせないはずだ。
「全員配置に戻りナ! ここからはまた迎撃をする準備をするんだ...!」
地下で身動きの取れないバトラーであったがウォルトは指示を出し体制を立て直す声を聞きながら、心の中でため息をつく。
あーあ、どうやら自分は....ここまでのようだね...
自分の出番はね




