第25話 罠
「そういえば階級ってあったけどあれはどの国所属かまではわからないの?」
クリスはウォルトに疑問を投げかけるがウォルトは首を横に振る。
「いや、階級表では名前とその階級、そして戦闘観測から予測される武器や魔法までだナ、それにあくまで参考程度だ。ゼータの監視からの情報だから確定じゃない」
「わかってる範囲でのアルファ側の脅威は?」
「カプティブのバトラー・C・ベンジャミンだナ、戦士型のカプティブではあるがお前の方が強いと思うかナ」
「了解、じゃあ互いに頑張ろう」
デルタ側守備走は地雷を踏み続け、ミサイルの陽動となっていた。爆発音が響き渡る中でも塹壕に突入する敵は絶えることなく、クリスは次々と来る敵を気絶させていた。
「くそが....ぁ!!」
アルファ側の軍兵がクリスに向かって射撃をするが、クリスはそれを不変剣で防御すると、そのまま距離を詰め、顎を殴りあげ気絶させる。
「とりあえず拘束を頼むよ」
クリスに言われてデルタ側軍兵はその気絶した者を拘束する中で、正面からくる足音に気づくとすぐに不変剣を構える。
足音からしておそらく3人。煙幕で姿は見えない。味方をできるだけ巻き込むのは避けたい。クリスはそのまま塹壕から飛び出るとすぐさま一人の側頭部に向けて蹴りを放つ。
「ぐぎゃ......ッ!」
「このやろう.....ッ!」
クリスは銃を構えられるがすぐに煙幕の中へと隠れ、敵兵の背後を取るとそのまま突っ込む。
「おい、後ろだ!」
敵兵の一人が気付き、銃を構えるがその瞬間、クリスは自身の黒装束を広げるように敵兵に投げると、滑り込むように身体を地面に滑らし、銃弾を躱わすとその敵兵の腹部を蹴り上げる。
「が....ぁ.....ああああああああ!!!」
敵兵は痛みに悶えよだれをダラダラと流しながらも射撃を行い、クリスはその行動を完全には避けきれず、頬に銃弾を掠めながらも横に避けると同時にその勢いで蹴り飛ばす。
残り一人のトリガーがすでに指にかかっており、クリスは銃弾の方向を予測しようとするその刹那、さらにもう一つの脅威に気づく。
「まずい.....!」
それは塹壕に背もたれるデルタ側軍兵とそれに突撃する敵兵の足音。味方はおそらく煙幕で気付けていない。このままでは被害が出かねないが目の前の戦闘で動くに動けない。クリスは危険を知らせようと口を開きかけるがその時、塹壕から勢いよく影が飛び出す。
「ぐご.....ッぁあ!!」
その瞬間、塹壕に弾かれるように敵兵を宙を舞った。クリスは目の前の敵を即座に無力化すると、その宙を舞った敵兵の場所に行き、見ると胸部が大きく曲がり、絶命寸前になっていた。クリスが塹壕の方を振り向くとそこには 半分が黒髪、反対方向は赤髪で気の弱そうな青年がいた。その男は身の丈ほどの金棒をもっており、その重量は見ただけでも相当だろう。
「どうにかなった....かな? 迎撃できたん....だよね?」
青年は不安そうにクリスに聞き、クリスは迎撃が成功したことを伝えると安心してその場に崩れるように座る。
「よかった.....とりあえずここは生き残れた.....」
「君も戦士なのかい?」
「あ、うん.....俺はペルー、君は確かクリスさんだよね、助かったよ.....」
「いや、助けてもらったのは僕の方だよ、ありがとう」
クリスが礼を述べるとペルーは赤面させながら顔を覆う。
「あ、えっと....どういたしまして.......」
ペルーの行動にクリスは困惑しながらも、次の迎撃のために塹壕を走るのであった。
塹壕戦は防衛側が有利ではある。しかしミサイルの一方的な攻撃と機関銃の使用ができない状況で迎撃のしにくいこの環境では消耗が激しすぎる。
どうすべきかを考えるクリスであったが、その時、塹壕に落ち、それでもなおキャタピラを機械的に回転させ続ける守備走を見てあることに気づくとクリスはそれに向かって剣戟を振り下ろした。
*****
「実につまらない.....ラクトミルは退屈だぞ! このような茶番劇を見ているだけではむずがゆい! さあ終わらせてしま——」
「少佐、緊急です! 盾を持った一人のカプティブが突撃を....!
アルファ側の軍人が焦った様子でラクトミルに報告をすると、ラクトミルはすぐに報告を受けた戦線の方を確認に向かいながら指示をする。
「おそらくはウォルトだろう! だが一度階級表の確認を行い情報を集めてもらおうか!」
そうしてラクトミルがその方向を確認した時に映ったのは守備走の盾を構えたまま前線を突破するクリスの姿であり、それをみたラクトミルは笑いながら独り言を言う。
「なるほど、確かに一見は強引すぎるが.....音響ミサイルではどうしようもないな! あれは守備走の盾だな! その状態でそれほど速いとは確かに厄介だといえような?」
クリス前線を走りながら突破していく、地雷を避けつつその速度は通常の人間の走りに毛が生えた程度だがそれでも十分。簡単な話だ......熱源なら味方への誤射も確実に増える....人員は駒として扱えるほどこの世界の人間が多いとはとても思えない.....守備走があることからも人員を守ることに戦術価値があるという判断なんだろう.....人間の足音なんて銃声や爆発音なんかと比べたらずっと静かだ.....だから....!
銃弾は盾が防ぎ続け、ミサイルは発射されるもののクリスは発射方向を確認して着弾地点避けながら走る。音響は他の銃声爆発音に惹かれるならば十分に勝機はあるだろう、あとはこのまま突破を———
その瞬間だった、目の前から飛んでこようとするミサイルを見た時にクリスに悪寒が走った。冷や汗が流れたその一瞬、何かはわからない、だが非常に好ましくない。その時、クリスの記憶の中である言葉がよぎった。
「ただおそらくは熱源によるものだ、隠密をしてる兵士にも向かっていたのでね」
それはリキャストの言葉であった。よく考えろ、リキャストやウォルト達は音響と判断することもできたはずだが、隠密してた兵士に向かったことから判断したんだ。音響なら隠密してた軍兵に当たるとは思えない.....音響ミサイルという思考は間違えてないはず.....いや違う、考えろ。そもそもなぜ音響ミサイルかを.....普通に考えるんだ。兵器は誰でも使えることが強み、もっと強い方法、例えばリモコンによる誘導なんかがあるのなら確かに強い、けどミサイルという兵器は下手に操作すると危険な状況だって......
いや違う、ラクトミルという人間が作ったのなら、この世界の一級の強さを僕はまだ知らない.....だけどそう考えるのなら.....
“ラクトミル本人が使用するミサイル“が高度な技術を使う兵器でもおかしくはない————
「はっはー! さあ吹き飛べ———!!」
その瞬間、ラクトミルから発射されたミサイルはクリスの方向へと発射された。クリスは即座に盾を捨てて側方へと受け身をとりながら跳び転がる。
轟音が鳴り響き、クリスがさっきまでいた地点は一瞬にして爆散した。
クリスは爆撃を避けることはできたが、その瞬間、敵兵がライフルを構えてることに気づき、即座に飛び上がるとミサイルによって生まれた土煙の中へ飛び込み、盾を確認する。
「まだ大丈夫だ......早く突破をしないと.....!」
そうしてクリスはまた盾を構えて前進するのであった。




