第24話 響く音色
次々と守備走が走る中で迎撃を続けていた。固定機関銃は半分以上が破壊され、熱源とわかってからは起動せず、軍兵達は移動しながらの射撃を繰り返していた。だがそれでもミサイルによる破壊はデルタ側の軍兵たちを次々と吹き飛ばすほど強力であった。
アルファ側の軍兵が二人ほどが守備走を盾に前進する。ウォルトの班は射撃をするが守備走に銃弾を防がれる。
「敵来るぞ! 早く撃て!」
カタカタと動く無機質なキャタピラに恐怖しながらも射撃をするが、ついにその防御を突破できず、守備走が塹壕に落下する。
塹壕へと着地したアルファ側軍兵は塹壕内に積まれた土嚢を遮蔽物として射撃を始める。デルタ側は急いで別の土嚢に隠れようと走る者、迎撃しようとする者がいるが次々と撃たれ地に伏せる。そしてアルファ側兵士がリロードをしようとしたその瞬間、その背後から走ってきたクリスが二人の軍兵の頭ををほぼ同時に蹴り飛ばし気絶させる。
「大丈夫? とりあえず気絶させたから———」
クリスがデルタ側の軍兵に声をかけようとしたその時、軍兵は声を上げる。
「グレネードだ!」
その言葉でクリスは即座に頭上を見上げると、手榴弾が空中から降りていることに気づいた。的側による投擲であろう。クリスはアルファ側の軍兵を抱えようとも考えるが時間がなく、クリスは顔を顰めながらも土嚢の裏へと飛び、頭を抱え伏せる。
爆発音が鳴り響き土血煙が上がる。
クリスはゆっくりと辺りを見回しながら立ち上がろうとしていると一人が声をかける。
「クリス! お前もきてたのか、負傷はしてないナ!?」
それはウォルトであった。
「うん.....問題ないよ」
クリスはそう言って立ち上がると爆発があった場所を指差す。
「グレネードによる被害は敵側二人、今の攻撃で死者3名と負傷1名、早く手当した方がいいかも」
「よし、ダクトはポーンの治療をしナ」
「了解です....!」
「痛え.....痛ってえ..........!」
その言葉と共に衛生兵は大腿部を撃たれた軍兵の治療にかかる。生理食塩水で傷口を洗い流す。治療を受けている軍兵は布を噛み、必死に耐えながら治療を受けている。
クリスはそこで気を抜くように息を吐くがその時、悪寒が走り、クリスはすぐにその場で叫ぶ。
「今すぐここから逃げて!」
クリスはそう叫びながら負傷した軍兵を抱えると走るだす。わけがわからずとも衛生兵とウォルトも走りつづけ、7mほど走ったかと思ったその時、先ほどまでクリスたちがいた塹壕部分が爆破される。
土煙が大雨のようにのようにクリスたちを覆い尽くす中でウォルトは口にする。
「よくミサイルが来るってわかったな....」
「音で気づいただけだよ、それに....何かおかしいかな.....」
クリスの言葉にウォルトは首を傾げる。
「おかしいって何がかナ?」
「熱源探知で誘導してるとしてさ、なんで突撃してくるのかなって。だって熱源だったら機関銃を狙うのはわかるんだけど、アルファ側の軍兵がいてどうしてデルタ側が一方的に狙えるのかなって」
「確かにそれもそうだナ....おそらく他に———」
その時だった、戦場に異変が突然湧き上がった。
それは様々な場所からでる煙幕であり、それは戦場を包むように一気に現れた。そしてそれをみたクリスはあることに気づき呟く。
「.....音響だ」
「どういうことかナ?」
クリスが呟いた一言にウォルトは意味がわからず、クリスは答える。
「この煙幕はデルタ側の作戦じゃないんだよね?」
「いや、違うナ。そんな作戦は出してない」
「あれは熱源なんかじゃない.....多分だけど....だって煙があると熱源探知の邪魔にしかならない....そんなことをアルファ側がやる理由がない....今すぐそれを伝えるべきかも....」
クリスの言葉でウォルトはあの時のミサイルのことを思い出し、ウォルトの中で何かが繋がるように思考が知覚する。
「そうか....! あの時のグレネードの直後のミサイル....あれは爆発音で引き寄せられてたのか....! 確かにそうだ、相手側は守備走で前進するだけで塹壕に侵入するまで射撃をしてなかった。だから攻めを続けられるんだナ....!」
「今すぐ連絡を回せ! あれはおそらく音響による誘導の可能性が高い....!」
ウォルトはすぐに通信兵にそのことを伝え、通信兵は味方全員に向けてそれを発信し始める。
「とはいえどうするか....この間に進軍されればこちらが攻撃が難しいだけじゃないよ、射撃すればミサイルが飛んでくる可能性が高すぎる」
「だったらシンプルだナ、離れた場所で銃声を鳴らせばそこを囮にできる」
「味方を囮にする気かい....?」
クリスは顔を顰め、ウォルトを睨むがウォルトは首を横に振る。
「いや、こちらにも守備走がある。地雷を仕掛けた場所を敢えて通らせればしばらくはそれを囮にできる。銃声より爆発音の方が大きいからナ」
「そっか、この世界では基本戦術らしいしあって当然か....ごめん.....勘違いして」
「いや大丈夫だ、それに今ので本当に別世界の人間なのはわかったしナ」
クリスはウォルトに対して頭を下げるがウォルトは笑い、許すと、ゆっくりと深呼吸するとウォルトはナイフを2本持つ。
「いくら囮があっても射撃がそもそも難しい状況だからナ、カプティブや戦士型が護衛に入る戦法に切り替える」




