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第22話 前索

 クリスはしばらく考えると、観念したかのようにため息をついた。そもそも隠す理由が明確にあるわけでもない。ただ警戒した結果の嘘でしかないのだから。


 「.....分かったよ。 ただ、僕は敵ではない、それだけは知っておいてほしいな」


 「そっか、じゃあうん。教えてもらうよ。好きなものは?」

 「またその質問....? いいよ、僕が好きなのは....バニラアイスが好きかな」


 「......ばにら.....アイス.....?」

 トーカはクリスの言葉に困惑した。その単語がわからない。何かの魔法なのか。アイスという単語からおそらく氷であることはわかるものの、ただそれだけだ。


 「.....まあ、こんな感じで伝わらないとは思ってたから大丈夫。他には僕が何者かについても言おうか?」

 クリスがそう提案すると、トーカは首を横に振り、椅子から立ち上がると、扉が開く。


 「ここからは私が担当することになってるんだ、クリス」

 

 現れたのはリキャストであった。リキャストはふらりと正面の椅子に座り込むと、にこやかな顔で言う。

 「それでは聞こうじゃないか? まずは、君の出身地と名前についてだ」


 クリスはその言葉を聞いて、苦笑いながら話す。

 「僕の出身地は多分誰にもわからないけどね....そうだね、僕の名前はクリス・フラクトリア、出身地はイギリス。人口は5000万人を優に越える地上ある国だった」


 クリスの言葉は非常に空想的だった。非現実的で、何を言ってるのか理解し難かった。地上に国などあり得るわけがない。相当な軍事力を持ってたとして、モンスターを撃退し続けるなど物資が持つ訳がない。それに人口5000万人以上など、頭がイカれてるとしか思えない。リキャストやウォルトなどの軍人はクリスに不審の目を向ける中で、トーカはその話をただ真面目に聞いていた。


 「そんな国がどこにあった? 人口をどうやって維持する? あまりにも話が見えてこないが」


 リキャストは冷静にそう言葉を述べるがトーカが話に入る。


 「まって。 ..................................クリスくん、続けてみて」


 

 「まず前提がズレてると思うから話すよ。僕がいた世界は、君たちが言う“オアシス”が腐るほど溢れていたんだ。もちろん今の土地のような所もあったけど。それでもこの世界に比べてずっと多かった」



 隅で聞いていたウォルトは頭を手で押さえ、しばらく思考したかと思うと、クリスに聞く。

 「ナあ、つまりお前はこの世界じゃない、別の世界に居たとでも言うのかナ?」


 「....半分合ってるかな。確かに僕の知ってる世界と似ても似つかないよ。でも、きっと地続きなんだよ」

 

 その時、クリスの頭に浮かんだその風景は、この世界のことだった。人間の死と荒廃した世界、未知の怪物と地下文明。想像したくない最悪の未来がまるで実現してる。そうなのだから。

 クリスは自身ですら口にしたくない言葉を口にする。唇が震え、腕が震えながらも、自身の言葉を噛み締めるように言う。


 「この世界は.....第三次世界大戦で滅んだ未来だと僕は考えている」




 「それはヌクディア戦争のことを言っているのかな? それくらいなら——」

 「そっか、戦争自体は伝わっているんだね....じゃあ話は早い。はっきり言うなら、僕はその戦争時代を生きた人間だ」


 


 あまりに突飛で不適切で、意味がわからなかった。困惑の感情が皆を揺らがせた。


 「だから知っているんだよ。この世界がなぜこうなったのかも、全部ね———」


 その時だった。ウォルトのトランシーバーから、乾いたホワイトノイズが静かに流れ出す。

「ザー……」という音が鳴り響いたことでウォルトは急ぐように退出する。



 

 ウォルトはトランシーバーをオンにすると、

 「こちらバッター、何があった? 状況を説明しろ」

 ウォルトの問いに対し、途切れ途切れながらも、後半だけは確かに聞き取れる音が鳴る。

 「......ちらデルタ4c、南西方面に大規模な敵影!.....数は200を超えています!」

 

 「こちらバッター......了解、すぐに向かう。20分耐えてくれ。敵の要の確認を第一優先に近づけさせるナ。魔法使いの情報が見つかり次第、すぐに報告しろ。オーバー」


 ウォルトは連絡を切ると、オスカーに連絡を行う。

 「こちらバッター、敵からの襲撃が——」

 「ああ。こちらオスカー。君には第二部隊の指揮を取ってもらう。それとクリスもつれてきなさい、どうぞ」

 「こちらバッター、作戦を把握、準じ向かう。オーバー」


 

 「バッター?」

 ウォルトの背後で独り言のように聞いたのはロイであった。ウォルトがバッと振り向いたことでロイは一瞬怯むと、両手を当てて謝罪する。

 「あ、すみません、なんでもないです! 軍部の方に失礼な口調で!」


 


 ロイのあたふたとした挙動を見て肩の力が抜けると早歩きしながら言う。

 「管轄が違うから別に上官じゃないから構わないヨ。確か旅団の者だろ? バッターってのは俺の無線使用時のコードネームだ。俺は二級だが警戒されやすいからナ」

 そう言いながらウォルトはさっさと行ってしまい、ロイは息を吐く。

 「あーびっくりした。取り調べの直後に...俺もバカだな....」


 


 尋問室の扉が勢い良く開くとウォルトが声を上げる。

 「取り調べは一旦中止ダ、敵国の襲撃だ。クリスにも参加してもらおうかナ」


 「おや、まだ聞き終えていないのだが、解放すると?」

 リキャストはウォルトにそう聞くがウォルトが「上官命令だ」と伝えると、ヤレヤレと言わんばかりにため息をつき立ち上がるとウォルトに鍵を渡す。


 

 「クリス。一応言うがこの戦闘が終わり次第、また取り調べを再開する、覚悟してもらおうか?」

 「そうだね、お互い生き残ってまた話そうか」

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