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第21話 思考と尋問

 「ん....ぅ......あ....?」

 クリスは目を覚ました。どうやら座った体勢のまま寝ていたようで、起きあがろうと脚に力を入れるのだが、動けない。何かに縛られているような。

 よく見ると薄暗い灯りが天井に灯っていて、壁を見るとそこには打ちっぱなしのコンクリートが剥き出しで、なんとも言えない不気味な部屋。



 手は椅子の後ろで組まされてるが、質感からおそらく鉄製の腕輪だ、足も同じくで動かすことは難しい。


 横を見るとあるのは黒いガラスの壁、おそらくはマジックミラーの類だろう。そして目の前にある横長の机と空席の椅子。おそらくだが、ここは尋問室だろう。



 手が拘束されてる以上は[解放]は使えないだろう。問題はこれがどっちかだ。デルタ国がやった場合、これはメアリーのせいだろう。彼女が僕を先輩と言っていた。それは明らかに僕の正体に関係してると考えてしまうのが自然だろう。そしてあの後にシグマが車両を襲いとらえられた場合。この場合は最悪だ。勿論情報を僕は知らない。だからそれほど吐ける情報はないが、メアリーが何をしてくるかわかったものじゃない。


 特にあいつは———


 その時だった。足音がゆっくりと、それも二人、いや三人ほどだと推測できる。一体どっちが......




 その時、ゆっくりと扉は開いた。クリスは唾を飲み込み、覚悟を決めるがそれは杞憂でしかなかった。




 「やあ、よく来たね、やっほー、うん。僕だよ、アレだよ、みんな大好きトーカさんだよ」

 現れたのはトーカとウォルト、そして軍人であった。


 「.........」

 「すまないクリス、流石に安全確保のために今は拘束させてもらってるのサ」


 ウォルトは謝罪の言葉を述べながらもあまり気にしてる様子ではない。クリスは少し悩みつつ言葉を開く。

 「そっか、ちなみに....何か聞きたいのかな?」


 「まあソンナに痛いこと、怖かったり泣き出すような痛めつけたりとか拷問とかをする気はないよ。大丈夫、やる気はないからさ」


 トーカはいつも通り無表情で言う。声色も変わらず、拷問ではなく取り調べと言った方が正しいのだろう。


 「僕は....そもそも記憶が———」

 「僕はこういうの苦手だし、なんで呼ばれたのか全くわかんないんだけど、まあ。ゆっくりいこうか?」


 トーカはそう言って席に着くと、茶を啜り一息つくと始める。


 「じゃあまず、好きなものは何かな?」

 「......え.....?」


 トーカの質問のぶっ飛び方にクリスは困惑して口は開けっぱなしになってしまうが、トーカは椅子から立ち上がるとクリスの方へ近づくと、クリスの頭に手を乗せると、撫でる。


 「大丈夫、答えてよ、ねえ、答えて?」

 クリスはトーカが何を聞きたいのか真意がわからず、クリスはその質問に答えようとし、しばらく考えると、つぶやく。

 「やぎの肉、あれは美味しかったと記憶してるよ」


 「ふーん、うんうんなるほど」

 トーカは何か確信めいたように首を縦に何度も振るう。ウォルトも軍人もクリスさえも質問の意図に気付けず、トーカは続ける。


 「じゃあ次、君は何者かな?」

 「いや.....僕はわからない.......かな.....記憶が——」

 「あぁ、いーのいーの、あくまで君は自分についてなんだと思うかを聞きたいんだよ、私が聞きたいんだよね、うん、だから聞かせて欲しいなって」


 トーカは相変わらずクリスの頭を撫で続ける。ひんやりとした細指を頭上に感じながらも、クリスは冷静に考える。



 「................そうだな....例えば何か違う国の旅団にいて.......そこで自然災害か何かで.....頭を打ったりとかでの記憶喪失....かな.....多分味方も全滅してるんじゃないのかな.......」

 「戦闘ではないと考えるの? クリスくん」

 「.......もちろんその可能性はあるけど....僕は一切の負傷を身体に負ってなかった。だからそう考えると頭へのダメージとかになるかなって.....いや———」


 その時、クリスは自身の違和感に気づいた。


 「はっきり言って....あの時....頭に痛みはなかったはずだ.....何故だ......?」

 覚えている。クリスは確かに覚えてる。自分が何者なのか、家族構成も、役割も、何者かもただ——



ただ........そこに僕が自然発生したような。そんな感じなんだ.....どうしてこの世界に僕がいるのか....全く思い出せないんだ.....



 「ふーん...やっぱり思考するのが好きなの? そういうのがずっとやめれないのか、大好きなんだね?」


 トーカは無表情ながらも暖かい声でそう話すと、クリスの頭から手を離し、クリスに顔を限界まで近づけ、目を合わせて言う。

 「嘘はいいからさ、答えてよ。君が知っていること全て」




 トーカのその目はクリスを見ながらも何か違う本質を見るような静かな狂気を孕んだ眼をしていた。澱みながらも正確に物を見ている眼だ。


 「いや....僕は......」

 「考えたよね? 最初の質問」

 「は......?」


 トーカの言葉にクリスが困惑してるとトーカは答える。

 「好きなことっていうのは記憶に残りやすいんだ。もちろん健忘してたとしても残ってる記憶の中から割とぱっとでてくるものだよ。すぐに出るんだ。どうでもいい記憶ってのはすぐには出ないしね」

 トーカはクリスから離れ、椅子に座ると続けていう。

 「でも“考えた“よね? 好きなことをわざわざ。それってさ言えない理由があったのかな? 演技をしていたか。もしくは私たちじゃわからないものが好きな物だったか。だからすぐに出なかったんじゃないのかな? ねえ。 それだけじゃない、君はカプティブを知らないのになんで[解放]のやり方は知っていたの?それに貴重なはずの魔法を君は持っていた。その魔法はどうやって手に入れたのかな?」


 「..........」

 クリスは何も答えることができずにいると、トーカはクリスの手を包み込むように握ると聞く。

 「ねえ、お姉さんに答えてよ。 君は敵じゃないってことはなんとなく分かってる。でも何か事情があるんだよね? ねえ、答えてよ。」



 クリスは何を答えれば良いのかしばらく迷い続けた。別に隠す必要はない。だが一度ついた嘘を認めて良いのか。それは信頼の喪失につながらないのかという恐怖がそこにあった。

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