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第20話 毒の邂逅

 〜プサイ国〜



 「ぐ......早く逃げ....ッ———」

 一人の頭が大きくひしゃげた。頭蓋骨は陥没し、絶命した。


 


 大勢の軍人達が地上へと走り続ける。


 「敵襲....そちらはどう考える...?」

 そしてその中で二人もまた地上への道を駆け抜けていた。その中で話しかけたのは無愛想な青髪の少女であり、青年はその問いに答える。

 「1班2班が5分で壊滅してる。おそらく一級当たりだろうね」


 癖っ毛の黒髪の長髪で猫目の男、青年の名はラッター・スローズ、プサイ国所属の二級魔法使いである。そしてその隣にいる少女、ギアス・バルバトスは一級、奇襲は約5分前、強烈な爆発音が鳴り響き、土煙が舞った。



 状況整理もつかないままで、何が来たのかもわからない。だが大人数が来てるようには思えない。


 「車両の音は2台だったと......そう聞いたから...」

 「そうかい、だったら自分らも早く加勢すべきだろうね———」


 

 「へえ? 随分と手厚い歓迎をしてくれるんだね」


 軍人達の前に現れたのはメアリーであった。即座に皆がリボルバー銃を構え、ギアスも魔法の発動準備を始める中で、ラッターはつぶやく。

 「カプティブ.....でも階級のやつには載ってない.....」


 実力が不明瞭な女であった。おそらく成り立てなのだろう。[解放]状態ではあるが、基本的に戦闘経験のないものは軒並み弱い。どれだけ才能があったとしても、戦場の空気に呑まれるものは多い。だがその油断が、この国を終わらせることになるのだと、理解させられることになる。


 

 先制を切ったのは先頭に立つ軍人の銃声であった。

 火薬の爆発音と共にラッターの耳に響くのは巨大な金属音であった。


 銃弾は[鉄生成]により作られた壁に防がれていた。そしてその次の瞬間、鉄壁の上からメアリーが飛び出すと2丁のクロスボウで射撃し二人の頭部を撃ち抜き、更に貫通し後ろの者へ襲いかかる。


挿絵(By みてみん)


 「ぎゃッ......!!」


 メアリーは鉄壁を出しながら前進し続け、兵士の銃弾は防御され、このままでは距離が詰まる。皆が動揺していると、ラッターが飛び出す。


 「全員退避してね...!」


 ラッターは素手のまま腕を大きく後ろに振りかぶったその瞬間、手の中に突然手榴弾が現れ、投げ飛ばす。


 メアリーに投げられた手榴弾は爆発し、鉄壁ごと吹き飛ばした。だがしかし、鉄壁が吹き飛ばされ落下した地点の土煙の中からメアリーは立ち上がる。


 「さっき持ってなかった気がしたんだけどな、なんの魔法かな?」

 「わざわざ伝えると?」


 おそらくだが鉄壁を壁に後ろへ飛ぶことで衝撃を殺したのだろう。ラッターは手榴弾を両手に溢れるほど持つとメアリーの足元に向かって全てを転がした。


 ラッターの付けたチョーカーである[空榴弾]の魔法、その能力は空気から手榴弾を生成する魔法である。起爆は任意でできるものの、どれを爆破するかは選べず、生成したもの全て同時に爆破しかできない。


 「確かにこの量はすごいけど、それって君らもただじゃ済まな———」



 その瞬間だった。[空榴弾]によって崩されたコンクリートの壁達が宙に浮いたかと思うと、メアリーとラッター達を分断するように積まれていく。


 「塞いだ....いつでも爆破できる.....」

 「ありがとう、ギアス」


 ラッターは向こう側にある手榴弾を爆発させ、地響きと衝撃音が鳴り響く。




 硝煙と静寂感が辺りを包み、皆が静まり返る中で、先頭の兵士がポツリと呟いた。

 「なんだ.....甘い匂い....? ッ———ぐッ!!?」

 

 その瞬間だった。その兵士は顔を抑えるように膝が地に着き悶え苦しみだすと、さらに数人が続けて苦しみ出す。





 ギアスは何かに気づいたかのように口元を覆いながら後方へ跳び、普段出すことのない声で叫ぶ。



 「離れて.....! 毒ガス.....ッ!」



 ギアスの言葉で兵士たちは次々と後方へ向かい走り、先頭近くにいた兵士たちを助けようと何人かの兵士が前方へ走ったが、すぐに断念した。


 「くそ......目が....!」

 呼吸を止めてはいたものの、そこで襲ったのは眼にくる灼けるような痛み。あまりの激痛に仲間を助けることを断念し、よろけながら後方へ兵士たちが戻る中で、瓦礫の隙間に鉄の槍が十数本突き刺さったかと思うと即座に消失し、瓦礫で作った壁は崩れ落ちる。


 「手榴弾生成と重力操作か、厄介な魔法だね?」


崩れた先からはガスマスクを装着したメアリーが現れ、後ろにはタンクにホースがいくつもついたような機械、おそらくは毒ガスを出している兵器だろう。さらにその奥には髑髏の仮面を被り、全身を黒いローブで包む5人ほどの集団がいた。


 「さあ、はじめよっか?」


 メアリーの言葉と共に”灰兵“達は動きだした。兵士たちは次々と発砲していくが、灰兵に着弾すると金属音が鳴り響き、僅かに後退させるものの、ダメージにはならず、灰兵は走り進む。


 「こいつら銃がッ———!!」

 灰兵の前腕部に取り付けられた刃物が兵士の急所を切り裂く。射撃が連続するものの、灰兵を倒すことはできない。



 次々と殺され、さらには毒ガスも注入され始めている。後方の兵士が連絡するものの、このままでは援軍が来る前に突入されてしまう。


 「ダメ......だね.......」


 ラッターは[空榴弾]を構えようとするも、味方が多すぎる。このまま使えば仲間全員を巻き込むことになるだろう。そう考えていると、前方側にいる兵士がラッターに合図するように首を振った。

 「マジかよ.....!」

 ラッターはすぐに[空榴弾]を構えると、ギアスや後方にいた兵士たちのみがさらに国の奥側、後方へと走りラッターは戦闘中の灰兵と味方兵士がいる場所へ空榴弾を大量に生成し全体に飛散するように投げ込むと一部の空榴弾は天井に張り付くように重力が発動し、瓦礫が道を塞いだ。


 「ごめんね....」

 ラッターはそう小さく呟くと[空榴弾]を起爆した。

 

 その時、後ろからドタドタと大量の足音が近づいてくるのを感じた、[空榴弾]を生成しつつラッターが振り返るとそこにはガスマスクを着用した兵士たちが援護に来ていた。


 「ちょっと遅いよ....」

 ラッターはそう誰にも聞こえない声で呟く。



 「ラッターさん、ギアスさん。これを!」

 ラッターとギアスは届けられたガスマスクを着用し、封鎖された壁の方を見る。

 


 先ほどとは違い、全体にばら撒いた。あの鉄の魔法はおそらくだが細かい出力は難しいと考えられる。なぜならあんな壁ではなく、駆動輪を作り、そこに巨大な鉄の壁で覆うようにして戦車のようにするほうが強いはずだ。そう考えると細かいものは作れず、板や円錐など単純な構造しか作れない。



だからこの攻撃は、全方位から爆破が襲うように投げた。これならば———




だがその時、ギアスは嫌な違和感に気づいた。なぜ灰兵達が現れてからの戦闘でクロスボウの矢が飛んでなかった。そもそも鉄生成をあの時点から見てない、あのカプティブの女はなぜ見えなかった? 撤退した? だったらなぜ最初にあの女が現れた? 陽動というにも何かがおかしい———



最初から灰兵と共に戦うだけでも意味があったはず....だとすると.....




 「どさくさに紛れてもう居るとかだよね?」

 それはメアリーの言葉、寒気や恐怖そのもののようなその声でラッターに囁いた。


 「ッ———!?」

 

 ラッターはすぐさま手に持っていた[空榴弾]を構え、メアリーから距離を取ろうとするが、メアリーはラッターの腕を押さえ、ナイフを首元に当てる。


 「簡単だよね、だって手榴弾の弱点って巻き込みが多すぎて近距離じゃ使えないんだもん」

 メアリーはそう笑いながら言う中で、ギアスは手を前に突き出すように構えるとメアリーに言う。

 「離さないと....重力でそちらを潰す.......」

 

 ギアスの言葉を聞いてメアリーは一瞬ナイフを下ろそうとする素振りを見せるが、フェイントだけ見せたかと思うとまたナイフを首元に当てる。

 「にゃはははは、冗談だよ〜、そもそも君はそういう能力じゃないよね? だってやれるなら最初から私だけ潰すもんね?瓦礫を操作して塞いだりはしてるけどガスを押し戻さないってことは、個々の重力で操る感じ、重力の方向を変えるだけで重力の強さも変えられないんでしょ?」


 ギアスはそれでも操作するように腕を縦に振るうがメアリーはニコニコと笑う。

 「方向操作すら私にしないってことは生物には使えないんじゃないの?」




 メアリーの言葉にギアスは舌打ちを立てる。ラッターは[空榴弾]を生成しようとするも、生成に失敗する。おそらく毒ガスのせいだ。空気が薄いせいで[空榴弾]を生成できない。


 先ほど生成した最後の手に握られた[空榴弾]を見てラッターはニヤリと笑い、メアリーに問うように聞く。


 「つまり自死を恐れなければ弱点じゃないんだね?」


 「ふーん? そんなこと言———」

 その瞬間、メアリーの腹部に衝撃が走った。重撃となったそれに対して、メアリーは後ろへと跳ぶことで衝撃を殺すが、ラッターから手を離してしまう。

 「降参するなら.....今......」

 それはギアスが持つ鎖鉄球であった。それはメアリーの方向へ真っ直ぐと伸びていた。本来下に落ちる鉄球の重力を横方向に向けることで即発動の自然落下攻撃を“横”に行ったのだ。

 それを見たメアリーは笑いながらナイフを地面へと捨てる。

 「わかったわかった、私の負けだよ」



 

 「まず.....毒ガスの換気......」


 ギアスが兵士にそう言った時、ラッターはメアリーから距離を取り、[空榴弾]を構えるが、メアリーは即座に[鉄生成]による壁を作る。


 「逃すか....!」

 ラッターは手に持つ[空榴弾]をメアリーが生成した鉄壁の向かって投げ飛ばす。だがギアスはあることに気がつくと、ラッターを静止しようと声をかけるが間に合わずラッターは既に[空榴弾]は起爆にまで至っていた。

 「待ってラッター......! 今爆破は.....!!」

 ラッターは手に持った[空榴弾]を鉄壁に投げる中で皆が離れる。一方で壁の向こう側いたメアリーは全速力で走り抜けていた。



 「わざわざ言うってことは自死は避けたいとは思うけど、あれはマジの時は自爆をやりかねないしね〜」

 メアリーは楽しそうに走る中で、背後を見て笑う。


 「でももっと警戒すべきだよね? ガスが充満したら危険だってさ?」












 その瞬間、轟音が鳴り響いた。無情にも一瞬で、プサイ国の出入り口を完全に塞ぎ、地盤を揺るがすほどの威力で爆破した。その爆発は[空榴弾]の爆破がガスの引火へと導いたのだろう。



 アクリロニトリル ——

高揮発性かつ可燃性のある有機化合物。わずかに甘い芳香を持ち、人体に対しては吸入・接触ともに強い毒性を示す。

吸い込むと瞬時に目や喉、気道を灼くような刺激が走り、呼吸困難、失明などの神経系麻痺毒。


空気中で一定濃度に達すると容易に引火・爆発するため、戦術兵器としての潜在力は極めて高い





その1日で、シグマ国の被害が五人に対し、プサイ国は魔法含めて戦力を大幅に失い、その後にシグマ国の本格侵攻により1ヶ月で壊滅。


 メアリー・C・ニーシェントの脅威度を更新。


 階級1級相当。



以上、ゼータによる監視記録とする。



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