第19話 等張
「やっぱり読み通りだったナ」
ウォルトは自身を庇った軍人を尻目に逃走する。
一番の目的は敵の排除ではあった。だが相手がエックスとなると話は別で、クリス、そして魔法を取り返すことが重要になる。
最大戦力を失うのは惜しいところ。せめてクリスだけでも回収して逃げることができればまだいい。そしてウォルト自身についてだ。
あくまでこれは自己保身に過ぎないだろう。自分はカプティブだから、戦術的価値があるから他を優先しても生き残るべきだとそう言って言い訳をしている。
それに死にたいなんて思いたくもない。
でもそれでも、ウォルトの心は切り裂かれるような、そんな痛みが残響していた。
「ハア......残念〜、カプティブ一人殺しておけばな〜ぁ?」
エックスは足止めをした軍人の死体を鬱憤を晴らすかのように蹴るとしばらく頭の整理をつけるかのように立ち止まり、笑う。
「でもメアリーが魔法を奪ってるし、アタシ達の勝ちかな〜?」
実際その通りであった。デルタの死者数は87名、負傷者も含めれば更に多い。一方でエックス側であるシグマの死者数は58名、土地と魔法までもが奪取され、完敗と言えるほどであった。
エックスはウォルトを見送るように、ただ見ていた。そして大きくため息をついた。
車両は最大搭乗人数が揃った時点で続々と退却していた。そして最終車両に乗り込むのは、ウォルト、そしてクリスとメスマーであった。
「他に乗り遅れた人は....いませんか?」
メスマーがウォルトに聞くと首を横に振る。
「もういないだろうネ、俺が逃げる頃には戦闘音はほとんど消えていた。そうなると俺らが最後になるはずだナ」
重苦しい雰囲気の中で、クリスはゆっくりと口を開く。
「......団長は..........殺されてた........これからは.....どうするん.....だい......?」
「さあナ、まさかシグマが相手とは思いもしなかった。[蝿の王]は俺が相手してたが、クリスは誰にやられたんだ? お前を苦戦させる相手なんて他に....」
「......それは——」
「カプティブの女がいた.....情報にはないね、ただ気になるのは、そいつはクリスのことを“先輩”と読んでいた」
ウォルトの問いにメスマーは割り込み答えるとウォルトはクリスに銃を向ける。
「お前が敵じゃないことはわかってるヨ、ただそれでも聞かせてもらう。何者なのかナ?」
クリスは銃に目線を向けるとどう話すべきかと悩んでいる内に、視界が朦朧とし始め、その場で横に倒れてしまった。
「......流石に気絶したナ....まあいい、話は後で聞くヨ」
ウォルトは銃を胸元にしまうと、その場に座り込むが、その時横になったクリスを見るとすぐに近づき、その“違和感”を見る。
「盗聴されてたナ」
ウォルトが見たそれは、クリスの服の中で這う生き物であった。ウォルトはそれを叩き潰すと、服を脱がせる。クリスの黒装束の下にいたそれは、潰れた蛆虫であった。
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「チッ、気づかれちゃったか〜ぁ? 流石にバレちゃったみたいだけど、どうするのかな〜ぁ?」
エックスはニヤリと笑うとその場で立ち上がり言うとメアリーは答える。
「いいよ、それよりも気になると思わない? 先輩....いや、クリスが次はどう来るのか」
メアリーは興奮気味に話すが、エックスは興味がないと言わんばかりに立ち去ってしまうのであった。
「興味ないみたいだね、まあしょうがないか。とりあえず帰る準備でもしようかな?」
メアリーは[鉄生成]の魔法を部下に手渡しで預けると車両の後部座席にどさりと座り、車両が発進する中でメアリーはぼそりと呟く。
「また会いたいな....先輩....」
エックスやメアリーの所属する“シグマ”はエックスの力だけでなく、兵士一人ひとりも洗練されている。
略奪国家としてオアシスを多数所有しており、また敵も多い。しかし、それすらも蹴散らすほどの力があるのであった。




