第17話 カプティブ同士
「な....早....ッ ぎゃ———ッ」
「く......止まれ.....グワッ!」
「しばらく寝ていて貰うよ」
建物にどうにか侵入したクリスは敵を無力化しながら進み、既に三階まで来ていた。
目的地は機銃兵のいる屋上、クリスは階段を探しつつ先へ進んでいると、その時鉄壁が前方を塞いだ。
「この壁は.......ッ」
「よくきたな、クリス」
その声は聞いたことのある声であった。それは背後から現れてクリスに声をかけた。
「グランツ....団長.......!」
ガルグはニヤニヤと醜悪な顔で嗤っていた。色々言いたいことはある、だがまずクリスが聞いた言葉はひとつだった。
「本物の団長はどこにやった?」
「....俺がその本人だが、お前は何を言っている?」
「いや、君はガルグじゃないよね。偽っているだけの模者だよ」
クリスのその確信めいたその言葉にガルグは少し黙るとクリスに聞く。
「一応聞こうか、なぜそう思う?」
「......名前だよ」
「名前........?」
もちろんブラフが多少入ってはいる。そもそもクリスは日が浅くガルグのことをよく知っているわけではない。
だが自身が思う彼との違い、そして裏切りか変装かでコレからの状況は一変する、だからこそカマをかけているにすぎない。
「団長は人を呼ぶ時は基本名前で呼ぶんだよ。意識してるって」
「だから車両に乗っていたあの2人の名前を呼べないのなら、君は偽物だよ。言えるのかな、2人の名前を」
クリスのその言葉にガルグは唖然とするような、少しだけ放心してるかのような顔をすると大きく笑う。
「にゃはははは、いやあ、流石だよー」
「もうひとつ気になることは、僕の名前を知っていることだよ、カプティブだからって理由もあるだろうけど..........,それでもどうして僕の名前を知っているのかな......」
クリスの問いに対してガルグの顔がゆっくりとスライムのように変異する、そしてその顔は、この世界でおそらくクリスのみが知っている顔であった。
「にゃはッ、流石だよねー先輩、いや.....クリス・C・フラクトリア?」
その顔の名前をクリスは知っていた。アンダーツインテールをした同じく銀髪のカプティブ、右頬に痣がある。その名前は、メアリー・ニーシェント。
クリスは驚きと怒りで一気に表情が暗くなり、だが冷静を装いつつ聞く。
「本物のガルグは何処に.....?」
メアリーは[変装面]の魔法を鉄の壁に向かって投げると人1人分の穴が開くと軍人が1人現れ、[変装面]の魔法を回収すると[鉄生成]の魔法をメアリーに投げ渡し、壁は閉まる。
「んー。ほら、鴉がたくさん群がってたの先輩見たでしょ、その人たちみんな」
メアリーの言ってることがわからない、というか分かりたくない。だがそれを無視するかのようにメアリーは続けて言う。
「鴉って一体何に群がっていたのかなあ??」
「.....それにメアリー、なぜ君がここに? それに....どうしてこんな——」
「そんなに怒らないでよ先輩、折角の再会なのに♡」
メアリーは顔を赤らめ恥ずかしそうに言う。だがそれとは対照的にクリスはただ感情を抑えようと冷静を貫いていた。
「でも残念なの、だって先輩が敵になっちゃうなんて思ってになかったんですもん」
その言葉はまるで開戦の合図かのように、[鉄生成]によって作られた円錐型の剣山が地を這いながらクリスに襲いかかった。
クリスは大きく腕を振りかぶり、ひと薙ぎでその剣山を切り払い、衝撃音と共に剣山は止まる。
剣山の破片が視界を覆うその一瞬、メアリーはクリスとほぼゼロ距離まで詰めており、メアリーの手に握られた湾曲した短剣がクリスの喉元まで迫っていた。
クリスは即座に蹴りをメアリーの脇腹に打って軌道をずらしつつその攻撃を避ける。
メアリーは吹き飛ばされるが、クリスの腕が微かに割かれたことで痛みと血が共に滴り落ちる
蹴り飛ばされたメアリーはゆっくりと立ち上がると服をパタパタとはたきつつ、不気味な笑みを浮かべる。
「やっぱりすごいの! 先輩の蹴りって強くて逞しくて.....すっごく大きい」
その時、クリスはある異臭に気づく。それはほんのりと漂い出すアンモニア臭だ。メアリーは火照った表情をしており、メアリーの足を伝いダラダラと流れる体液を見てクリスは顔を顰める。
「戦闘中に失禁する癖....やめてもらっていいかな?」
「なんで? すごく気持ちいいのに」
メアリーの手にはクロスボウが握られており、それをクリスに向かって撃つと、その瞬間に矢に付属したワイヤーが変異し斬撃となりクリスに襲いかかる。
「くッ.......!!」
更には鉄剣山による波状攻撃が飛び、クリスは斬撃を剣で受けつつ高速で移動し続ける。
身体能力はほぼ互角のように見えるものの、クリスのほうが身体能力が高い。
目にも留まらない速さで互いに移動する最中でも互いに見失うことなどない、鉄と矢の弾幕を潜り抜けながらメアリーとの距離を詰めていき、そして遂に剣戟が届こうとするも、メアリーは短剣でその一撃を防御する。
「まともに接近戦をするわけないかな、だって先輩強いんだもん!」
クリスの大剣とメアリーの短剣では振る速度はメアリーの方が僅かに速い。そのためメアリーが防御のみに集中するのならクリスの攻撃など届かないのだ。
クリスは剣戟に加えて蹴りや拳を打ちこむと、メアリーは剣戟のみを防御し、打撃を何度か躱すものの、いくつかの打撃は喰らっており、クリスが優勢なように見えるのだが———
———手応えがまるで無い。
先ほどからの打撃は当たっているが紙のようにとても軽い、身体全体をしならせ、衝撃を殺しているのだろう。ナイフの攻撃はクリスの身体にまるで浮き出るように少しずつ切り傷が現れ始め、それは血を吐き膿み続けているのだった。




