第10話 偽りの日
「大丈夫? クリス......さん」
「ああ、助かったよ」
「そうですか、罠はそこら中にあるので気をつけてください」
そう静かに彼女は言うと特殊な形をした拳銃を取り出すと木に向かってトリガーを引くと緑色に光る線が飛び出すと、その方向へ飛んでいく。
「フックショット.....」
クリスはそれを見て呟く、誰にも聞こえていないものの、それを見て感心しつつも切り替えるようにまた走り出すと豹猿へ攻撃を始めるのであった。
戦闘は夜まで続いたが、だが豹猿による急襲は今まで何もなかったかのように森は静寂になった。
「.....終わった....?」
ロイは安堵して心と連動してるかのように銃を下に下ろす。そしてそれと共に皆もまた勝利を静かに実感し始める。
「これは......あれだね! 休戦だね!」
ハーディストはそう皆に聞こえる声で言うとグランツは指示し始める。
「そうだな、ここらで一度野営する、準備を整えろ」
「車には戻らないの?流石にここは危険じゃ....」
クリスがそう呟くとディエゴがその問いに対して答える。
「豹猿が残ってる状態だとまた罠を貼られたら面倒だからな、そういうわけで班員を分けて駐屯地みたいなもんを作っとくのさ」
「ああ、そうなんだね」
クリスはそこでふと疑問に思い、ディエゴに話しかける。
「ねえ、上で同じく戦ってたショットガンを持ったあの子、あれも魔法なのかな」
「ああそうだとも、メスマーの魔法だ。射出して壁とかにぶつかるとそのまま自分を引っ張り高速移動できんだ、なかなかすごいもんさ」
「.....魔法の名前ってあるの?」
「なんだっけな、起動紐だったかな」
「ふーん......」
そうして野営の準備をすると、眠り順番を決めてクリスは眠りにつこうと横になる。
......正直、少し驚いたかな、まさかフックショットが現実にあるなんてね、僕としては不思議なことばかりだ、魔法....というよりはSF的な概念に近いと思うけど.....やっぱりそういうことなんだよね?
でも今は、ただの記憶喪失のカプティブを演じればいいのかな、僕は。
*****
「おーい、起きてよー」
ハーディストのその声を聞いて、視界が開ける。
まだ朝日は登っていない。おそらくは深夜なのだろうか。クリスはとりあえず身体を起こすとあたりを見回す。
「交代の時間かな」
「うん! 俺に眠いしお願いしても良いかな〜」
「了解したよ」
クリスはそう言って不変剣を手に持つが、その時にガチャガチャと金属が互いに触れ合うような音が聞こえ、その方向を見るともう1人が起きているのを確認する。
「ギャドルくんも起きていたんだ、君も見張り?」
「そうだと.....言っておくよ」
ギャドルはクリスには興味なさげに機械いじりを続けているようだが、視線はクリスの動向を探っているようでまだ警戒してるのであろう。
クリスはただふらりと近くの木に手を当てて、ぼーっと上を見上げているとギャドルが口を開く。
「怪しいんだよ、君はね」
「何がだい....? 僕はただ....」
「別に悪い意味で言ったわけではないんだよ、スパイとかそういう意味じゃないんだけど」
「だってスパイなんかより君は戦力として入り込んだ時点でほぼ壊滅させることすら可能だと、それでしないんだからただの敵じゃないんでしょ?」
ギャドルはクリスの方を見て言うが、すぐにまた機械の方に目が移る。
クリスはただ黙り、何を口にすればいいのかもわからない空気感で、どうしたものかと考える。正直言って表情を作ることでやっとだからだ。
「空気悪くしたと、そう思うけど。許してね」
「ああ......うん」
結果的にはそのまま夜は明けた。何も起伏はなく、それどころか既に敵はいないのだろうか。全滅させた。そう考えても良いのかもしれないと思いつつも警戒を続け、合流することとなる。
「問題はないな、やはりお前がいるだけで事は有利に進むようだ」
グランツは少し気分が良さそうだ。たった1日での制圧というのは消耗も少なく済んでいるからだろう。
「ここからどうするんだい? 一度戻るのかな?」
「他の者が来る前にバリケードを作る。敵が現れた時に備えるぞ」
「まあ万全は期すべきか、豹猿は殆ど倒したような気もするけどね」
クリスは武器をしまい、バリケード作成を手伝おうと心構えているとガルグは鉄生成の魔法で壁を作り始める。
「そっか、君の魔法ならそんなに苦労はしなさそうだね」
クリスは拍子抜けと言わんばかりに笑うがガルグは首を横に振る。
「生成系の魔法は長くは保たない、数分が限度だ。これを型にして作る必要はあるぞ」
「そういえばそう言ってた気もするね、思い出したよ」
そうしてクリスたちは材木や土を使い、簡易的なバリケードを作り始めるのであった。