第1話 偽善者
二日に一回投稿でできるだけ頑張ります
かつて草原と呼ばれる植物で満ちた大地が、木々で覆われた森が、動物たちの溢れる世界がそこにあった。
そして皆が知る御伽話はここからだ。
戦争があった。名をヌクディア戦争と呼び、魔王を倒すために英雄たちが戦い、人類は勝利した。
しかし未だに世界では魔王の残党は絶えず、人々は苦しみ、数百年の時が経とうとしていた。
「女の子よ、この子になんて名前をつける?」
まだ手足も、目を開くことすら恐怖するその時間、ただ泣き声を上げ続ける中で、赤ん坊の耳に誰かの言葉が入る。それは優しさの塊、暖かく柔らかい。
「そうだね、じゃあ.....ディアなんてどうかな、親愛って意味なんだけど」
「いいんじゃない? とてもいい名前」
その時、赤ん坊の体は大きく上へ流れる。
目の前にはまだ20代にも満たないような女性が、赤子に言った。
「あなたの名前はディア・ハルアトスよ、愛しい我が子———」
地上
「———きろ.....!」
声が聞こえる。耳に入る声がうるさいと思うのです。少し静かに....
「起きろ、ディア!」
ディア・ハルアトスは目を覚ました。赤髪の少女の目に映るのは剥き出しのコンクリートがそのままの天井。今にも崩れそうにポロポロと破片が溢れる。
「な....何が来ましたか....!?」
「多分だが、デビルワームだな」
ディアは飛び起きると静かに音を聞く。無音の中で鳴り響く土を裂き進むような鈍重な音、それは足音などではない。
「射撃訓練よかったし撃ったら当たるか.....?」
彼はそう言いながらマスケット銃を構える。彼の名前はロイ・リポスタル。ディアと同じ第三探索班の同期である。
はるか昔の戦争の名残は今も続いていた。地上は怪物が溢れ、人が住むことは難しい。集落はすぐに滅ぼされる。地底を堀り、文明を築き、限られた物資を求めて“遠征”を続けていた。
そしてその遠征を目的とした探索旅団にディアは所属していた。
「攻撃準備はしなくていい、脱出の準備をしろ」
強面の髭を生やした大男。それは探索旅団の団長である、ガルグ・グランツはそう言った。
「は.....はいッ!」
その言葉を聞いてディアはすぐにバックパックを背負い、長銃を手に取る。
初めて探索者となった彼女に与えられたのは標準装備である単発式の長銃とナイフなどの武器、これこそが生命線なのである。
その時だった。デビルワームが建物の中の侵入し、クリオネの開いた頭のような形をした巨大な頭部が顕になる。
「ヒ......ッ!!」
「総員撤退だ!!」
団長のその掛け声で3手に皆が分かれる。ディアもまた皆に置いてかれぬように走る。幸いデビルワームは第三探索班を追いかけては来なかった。
その時悲鳴が鳴り響いた。
「うわぁぁぁあああ———ッ!!」
おそらく誰かが殺された。悲鳴は大きく、だがその悲鳴は直ぐに止み、また別の者の悲鳴が鳴り響く。
耳を塞ぎ聞こえないように、後ろを向かずに必死に走り続ける。
ディアが走るための1分、その60秒で4回は悲鳴が鳴り響くことにはなった。だが、逃走には十分な時間になったと言えるだろう。
コンクリートの建物を出れば見えるのは空一面に広がる群青、礫質土の地面、そして鳥のように空を飛びまわる無数の———
「団長はいるな、とりあえず乗り物に向かおう」
ディアは団長達を見るとそのまま建物の側面を通るようにそこに向かうがその時、角から巨体のトロールが現れる。
その一瞬だった。ディアの目の前にいた1人はトロールの持つ棍棒で叩き潰され、血が顔に吹きかかる。
「あ.........あ...」
ディアは反応が一瞬遅れ、動くことができなかった。二撃目が振り下ろされるかと言ったその時だった。
「何やってんだ逃げろ!!」
ロイはディアを突き飛ばした。ディアはそのままトロールから距離を取りながらも尻餅をつき、だがそれと同時にロイは叩き潰されるその直前で、黒い鉄の壁がロイと棍棒を隔てる。
「早く退避しろ.....!ディア!」
それは団長の“魔法”によって生成された鉄であった、ロイとディアは急いで距離を取ろうとするが。
一瞬にして死亡した。逃げようにもそのルートにはトロールがいる、人の足で帰路に着くのは難しいが一度離れるべきだ。
ディアは陽動も含めてトロールから距離を取ろうとする、だが背後に振り向いたその時、もう1匹のトロールが退路を塞いでいたのだ。
恐怖だ。
呼吸が止まる。
現実を直視できない。やたらと五月蝿い心臓の鼓動のみが非常に早くゆらめき続けるのだ。
手足が震えて声をあげることも、銃を構えることすら恐怖でできない。それは選択の後悔、懺悔にも近く、自分の性格を呪うのだ。
1年前の話だ。それは限りなく普段の日常で、いつものように少女は生きていた。
「召集だ、ノルン・ハルアトス」
「........え.....?」
それは突然やってくる。部屋の扉がノックされ、数人の大男たちがやってくる。
遠征メンバーの召集だ。そしてその日、選ばれたのは1歳下の弟であるノルン・ハルアトスであった。
ノルンとディアは突然すぎる事に何も言えず、男達は遠征の説明をしてるが呆然としていることしかできなず、何を言っているかも理解が難しい。
遠征メンバーとは死の出向に等しい。拒否権はない。皆が生きるために犠牲になる。15歳になったばかりのノルンが選ばれるのも仕方がないことではある。どれだけ泣こうが怒りを向けようが、言い訳を言おうが、頼み込んでも。
全て意味がない。
「ではまた後日、説明する」
「ま.....待ってください....!」
声を発したのはディアであった。扉を閉めようとしたその僅かな一瞬で声をかけ、男は止まる。
ノルンは臆病で運動も得意じゃない、こんなやつが戦場にでも出たらすぐに死ぬだろう。それだけじゃない、父は遠征で命を落とし、母はノルンを産むときに命を落とした。
ディアにとっての肉親は、ノルンしかいないのだ。
「召集は決まっていることだ。拒否権はない、誰かがしなければならない仕事だ」
「姉ちゃんやめなって.....!」
ノルンはディアを引き止めようと服を引っ張るが、ディアは勢いに任せて口を動かしてしまう。
「私が行きます....! 私が行きますから!!」
自分でも何を言っているのかわからないほど必死で、ただノルンに死んでほしくないと言う理由で血迷ったと今なら思える。
そして今まさに、自分の死を前にして後悔してる。あそこであんな事を言わなければ、自分がもっと上手く生きれる性格だったら。ノルンが選ばれなければ
ノルンがいなければ....
「いや.....違いますよね....」
不思議と呼吸は落ち着いた。憑き物が落ちたように少し笑って、呟く。
そうだ、違う。私はノルンを失いたくないからやったんだ。後悔なんていつもだ。あそこで言わなかったら、毎日がノルンを失うかもしれない、そして失った時に後悔するんだ。どっちに転んでも後悔するんだったら———
「せめて今できることを全力ですべき....ですよね....」
恐怖がないわけじゃない。だけど覚悟は決まった.....つもりだ。だから今は、生きてやる。
トロールの一撃は重く強い。だが決して見切れないほど早くはない。
1年の訓練、それは男と変わらずに繰り返してきたはずだ。射撃を外せば装填の時間がない。外さないための距離だ。
グランツ団長の援護は期待できない、目の前のトロールの相手をしているからだ。
トロールは棍棒を上から真下へと振るった。
大振り、ディアはギリギリでその一撃を避けると、トロールの間合いの更に内側へと入る。
二足歩行は武器での大振りをすると大抵が前のめりに倒れる。つまり顔が下に向くその瞬間、目を撃ち抜く。
ドンと火薬の爆発音が鳴り響く。目に命中したトロールは左手で傷口を抑えながらも苦しみ悶える。そして動かなくなれば、的はさらに当てやすくなるはずだ。
二発目、ロイの援護射撃がトロールのもう一つの目を撃ち抜く。
重要なのは何より勇気だ。トロールは両目を失い、そのまま悶える間でロイは銃の装填をし始める。
ディアも距離を取ろうとしようとした。だがトロールが闇雲に手を回した結果、トロールの手がディアの脚を掴むのであった。
「な..........!?」
ディアはそのまま宙吊りになるように持ち上げられると、トロールは大きく振りかぶる。
ロイの銃の装填はまだ終わっていないこの予備動作、地面に叩きつけられて死ぬ。ディアはナイフを手に取るが腕を攻撃しようにも当たらない。目の前の死、それを覆す手段は、私たちにはない。
その筈だった。
瞬き一瞬であった。ディアの身体の重力が一瞬消えるような感覚、だがそれはトロールの腕が地に落ちたことだと知る。
一瞬にしてトロールの腕が切り落とされたのだ。
ディアはそのまま地面に落ち、トロールは両目に腕を切られたことを自覚し、もがき苦しむ。
何が起きたかもわからず、呆然としている内に、2体のトロールの首がほぼ同時に飛んだ。
ゴロリと重量のある頭部は転がる。
砂が血に塗れる中で見た。それは黒装束に大剣を持った銀髪の青年、彼はディアの方を向くと声をかける。
「大丈夫かい? 君たち」
「一撃で.......倒すなんて.....」
こちらを向いた彼の年齢は20代ちょうどくらいだろうか。紫の瞳孔、無害そうな優男で頬には特徴的な形をした黒い痣があった。
ロイとディアの2人が沈黙する中で団長はその青年に声をかける。
「助かった。俺の名はガルグ・グランツこの探索旅団の団長勤めている」
(男に敵意はないはずだ、戦闘能力的に敵対したら勝ち目はないだろう、魔法の用意をしつつこの男の動向を探るべきだ、辺りに他の者は見当たらないが....)
グランツは魔法の準備をするが、青年は大剣を鞘にしまい、痣は静かに消えると空を指差す。
「あのさ、一つ気になるんだけど.....アレって、君達のモノ?」
青年が指さしたもの、それは鳥のように空を無数に漂う———
「見ればわかるだろう、ゼータのものだ」
[ZETA]というアルファベットの書かれた全身黒のプラスチックで作製されたであった。無人航空機であった。
挿絵を頑張って描いてみたんですが不快なら消します
あんまり気にしないで頂けると
できるだけ投稿するように頑張るのでブックマークつけていただけると幸いです。