第三話 命の価値は-Strange Medicine-・3
夜。シャハシュピール。
冴とチェスを楽しむ秀明。冴は定着し始めたスタイルを守るかのように、週末はシャハシュピールに滞在している。
「真弓会長としては、水筒がトイレの中に転がってたということでしばらくは気が気じゃないだろうな」
「そうね。誰かにコークハイがバレた可能性をこれからずっと悩まなきゃいけなくなるから」
「最悪の事態は避けられた」
「じゃあ、ハッピーエンド?」
「今日のところはね」
「?」
「宮島先生ははらわたが煮えくり返ってる。流石に会長が酒を学校に持ってくることはもうないだろうからコークハイの追求をすることはできなくなったが、しかしこれから徹底的に会長を監視することになるはずだ」
「会長も大変ね」
「自業自得だからそれは仕方がない。加奈子ちゃんのことが気にはなるがそこまで全面的には俺には何もできないしそこまではする気もない」
「妹さんから絶大なる尊敬を得ているのね」
「サンタクロースっているんでしょうか?」
「本の?」
「あの本によると、無限の想像力の中にサンタクロースはいるそうだ。だからサンタクロースはいると著者の記者は結論づけている」
「妹さんのサンタクロースは真弓会長」
「それはもう正体がバレているのだが、ある意味加奈子ちゃんの世界にはサンタクロースがそのままいることになるな。無限の想像力の範疇だ」
「それならそれでよくない?」
「だけど厳然たる客観的事実としてサンタクロースは存在しない。それが加奈子ちゃんにわかるのは会長が宮島先生の網の目に引っかかったそのときだ。そのとき加奈子ちゃんの無限の想像力は有限の想像力になる。やっぱりサンタなんていないんだ、と、わかる。連鎖的に真弓会長に失望するようになる」
「夢から覚めたら悪夢が待っている、って感じか」
「もしその厳然たる現実を知ったら、加奈子ちゃんは現実の荒波に立ち向かえるかどうか」
そこで冴はふと呟いた。
「サンタクロースっていないんでしょうか?」
ん、と、秀明は訝しんだ。
「お前はサンタクロースを信じていたのかい」
「超能力者のあなたがいるぐらいなんだからサンタクロースがいたっておかしくないと思うけど」
「それは……そう言われると二の句が告げないんだが」
「あるいは——あなたも、今ここに存在なんてしていないのかもしれないよ」
超現実的存在者としての存在の意義を秀明はいつも思う。
しかし。
「それを言うなら冴もだろ?」
「龍くんも七瀬も、誰も彼も。私たちはみんな、哲学的に言えば存在者ではないっていう可能性がある」
「夢の中の住人とかね」
「物語の中の住人とかね」
「それこそ——誰も彼もがそうだろ? 俺たちと他のどこかの誰かたちに、結局のところ決定的な差はまるでない」
「と、いいね」
「全くだ」
要はこれが秀明の現実。
だから、明日からも秀明の現実は続いていく。
でもそれは、別のお話。
秀明は王手をかけながら言った。
「ヴァージニア、あなたの友達は間違っています——ってね」
〈了〉




