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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Atavism of Twilight-
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第二話 神を覚えた日-1, 2, 3 for I’m With You-・1

「珍しいね。龍介のバスケ部覗きに来るなんて」

 体育館の隅で二人に七瀬はそう声をかけた。コートではバスケットボール部が練習のための試合をしている。

「龍が食事の買い出しに付き合ってくれって。日用品もだけど」

 怪訝そうな顔になった。

「買い出し?」

「いつ天変地異があるかわからないからね」

「あ〜、それはあたしも気をつけようかな」

 と呟く七瀬に冴は言った。

「秀明、冷蔵庫の中がいっぱいになってないと落ち着かないの」

「そういう人いるよね」

「そして龍は、俺の好みのものを食べさせたいということで」

「あー、家事男子だからな」

「できた嫁だよ」

「人の彼氏を取らないで」

「一夫多妻にするなら多夫多妻にするべきだ」

「あなたの思想なんてどうでもいい」

 龍介がシュートを決めた。よしっ、と、七瀬は左手でガッツポーズを取る。

「いい彼女だ」

「そうかしら」

「俺を信じなさい」

「難しいなぁ」

「なんだと」

 そこで試合は終わった。どうやら龍介のチームが勝ったようだった。

 今日ここでバスケ部の練習を見にきたのもなかなかの運命だろうと秀明は思った。先日、辰彦の想起域に浮かんだ“楠本真琴”なる少女が体育館にやってきていたからだった。今、体育館にそれなりに人がいる中、秀明が真琴に気づいたのはもちろん真琴がバスケ部の一人の男子に声をかけに言ったからだった。その男子は三年生だったが、試合を見ている限りではお世辞にも上手いとは言えなかった。ただムードメイカーらしく、いなくても困らないがいると助かると言った存在のようだった。龍介は全ての部員にリスペクトがあるので、当然彼にも同じ感覚でいるようだ。ユニフォームにはTANIと書かれている。これならおそらくはたにだろう。そしてメンバーはみんな「谷」「谷先輩」と声をかけていたため彼の下の名前はわからない。

「お疲れ様」

「あざっす二人とも見にきてくれて」

 息をやや切らし、やってきた三人に対してなかなかのイケメンぶりで龍介はそう応えた。

「あたしあたし」

 と、七瀬は自分に人差し指を向ける。

「七瀬もありがと」

「も?」

「日本語って難しいなぁ……」

「いやあの、あたしが悪かったよ」

「うーんかわいいカップルだ」

「かわいいって……」

 二人で同時にそう反応したため、秀明と冴はクスッと笑う。

「かわいいかどうかはともかく、あそこにもカップルらしき存在が」

 え? と、龍介は秀明が顔を向けた方向に目をやる。そこには谷と楠本真琴がいた。

「あー、谷先輩と楠本は別にカップルじゃないっすよ」

「へえ。タオルをよこして仲睦まじい感じだが」

「幼馴染みなんですって」

「なるほど」

 しかしそれだけではないような気がする。

「谷先輩はね〜。失恋の達人なんすよね」

「失恋の達人?」

 怪訝そうな表情の秀明に、龍介は、あ、と口を開けた。

「これ言っていいのかな」

「バスケ部じゃ鉄板のネタでしょ。あたしが知ってるのも文句言わないしバレなきゃ大丈夫じゃない?」

「バレたら?」

「柾屋くんバラすの?」

「まさかそんな。それで失恋の達人っていうのはどういうことだい」

「いや言葉通りで」チラチラと谷の方を見る龍介だが、向こうはこちらに気づいていない。「今月で、入学してから失恋九人目で」

 一瞬、沈黙。

「それは……」

「学習能力がない、って?」

 という七瀬に、秀明はちょっと苦笑した。

「でも谷先輩は楽天的じゃない?」

「でも傷ついてないことないと思うんだけどなー」

「いつも“また振られたぞ俺は!”って部室に飛び込んでくるんでしょ」

「うーん……恋っていうのはさ。ねぇ先輩?」

「俺は彼女いない歴イコール年齢」

「冴と付き合えばいいのに」

「ふふっ」と、冴は笑った。「面白いことを」

「そうかな」

「面白いことを」と、秀明も笑う。「その、あの二人は付き合わないのかい」

 と、秀明が谷と真琴の方を再度見ると、どうやら真琴は深刻な顔になっている。原因はわからないが——なんとなく秀明は、“猫のカッツェ”のことなのではないだろうかと思う。

 だが真琴が深刻な顔になっていることは他の三人にはちょっとわからないようだった。

「それ俺らも考えたんすけど。くっつけちゃおうかって」

「くっつければいい」

「くっつけると、どっちも“たにまこと”になるよねって」

「ん?」

 龍介はちょっと、聞いておくれ、といった様子で説明した。

「谷先輩もまことって名前で。字は誠実の誠」

 ここで彼のフルネームがわかった秀明は指に手をやった。

「夫婦別姓を考えなければならない案件だ」

「本当に考えてる?」

 七瀬の疑問に秀明は知らんぷりをした。

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